来店客はたんにプロダクトを買っているのではない。彼らの生活に発生した具体的なジョブを、ミルクシェイクを雇用して片付けている。特定の商品を買う、という行為を引き起こさせる原因は、われわれの誰にでも毎日起きている。日々の生活のなかで片付けたいジョブが発生し、それを解決するために何かを雇用する。
買う人たちのあいだに人口統計学的な共通要素はなかった。彼らに共通するのはただ、午前中に片付けたいジョブがあることだけだった。「朝の通勤の間、ぼくの目を覚させていてくれて、時間を潰させてほしい」。
同じ日のうちに、通勤者と父親は、全く異なる状況下で、ミルクシェイクを全く違うジョブのために雇用した。それぞれのジョブの競争相手は全く異なる。
データは顧客と商品そのものにフォーカスしていて、その商品が顧客のジョブをどんなふうに解決しているかについては教えてくれない。
相関と推測をもとに答えを求めることから、根本的な因果関係のメカニズムへと目を転じることはきわめて重大。
顧客はある特定の商品を購入するのではなく、「進歩」するためにそれらを生活に引き入れるというもの。この進歩のことを顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方をしている。
ジョブを「ある特定の状況で人が成し遂げようとする進歩」と定義する。ジョブは進歩を引き起こすプロセスであり、独立したイベントではない。
成功するイノベーションは、顧客の成し遂げたい進歩を可能にし、困難を解消し、満たされていない念願を成就する。また、それまでは物足りない解決策しかなかったジョブ、あるいは解決策がなかったジョブを片付ける。
ジョブは日々の生活の中で発生するので、その文脈を説明する「状況」が定義の中心に来る。イノベーションを生むのに不可欠な構成要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でもテクノロジーでもトレンドではなく、「状況」である。
従来のマーケティングでよく言われる「ニーズ」とは大きく異なる。ジョブはそれよりはるかに細かい明細化を伴うからだ。ニーズは常に存在し漠然としている。「食べる必要がある」「健康的でいたい」「定年後に備えて貯蓄をする必要がある」のように。ニーズは方向性を把握するには有益だが、サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足りない。
他のどれでもなくミルクシェイクを選ぶに至る理由は、その時の特定の状況で作用するニーズが集合したものである。
ジョブは本来複雑なため、顧客を観察して得た知見を分析しやすいようなデータに落とし込むことは容易ではない。ジョブはストーリーだから。
1. その人がなし遂げようとしている進歩は何か
2. 苦心している状況は何か
3. 進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か
4. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか
5. その人にとって、よりより解決策をもたらす品質の定義は何か。また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものはなにか。
ジョブ理論のレンズを通すと、市場で同じカテゴリにくくられているプロダクトだけに競争相手が限定されることはほとんどない。
ネットフリックスCEOリード・ヘイスティングス「リラックスのためにすることなら、なんでも競争相手だ。ビデオゲームと競い、ワインを飲むこととも競う。実に手強いライバルだね。もちろん、他の動画配信サービスとも競う。ボードゲームで遊ぶことも」
クイッケンは他の業務ソフトウェアでできること、すなわち仕訳や元帳管理、決算、買掛、売掛を記録したりすることが一切できなかった。他社でははるかに洗練された会計ソフトウェアが簡単に手に入るというのに、なぜ彼らはクイッケンを使っていたのだろうか。
調べてみると誰も洗練された会計ソフトウェアを望んでいなかったことが判明した。彼らはただ、請求書を送り、現金を回収し、請求された金額を支払うといった、自社の金銭管理が滞りなく機能していることが分かればよかった。つまり彼らが成し遂げたいのは、何をするかではなく、何をしたくないかだった。
顧客のジョブを見極めるということは、顧客が実際に支払おうとするもの以上に機能を増やしすぎてはいけない。
「顧客の苦労を解決することに集中するだけ」「私たちの仕事はそれに尽きる」
チームは潜在的な住宅購入者の抱える葛藤を理解できるようになった。「新しい家を建てて売るビジネスだと思っていたが、実際には顧客の人生を移動させるビジネスなのだとわかった」
ソニー創業者の盛田昭夫は後進に対し、市場調査に頼るのではなく、「人々の生活を注意深く観察して彼らの望みを直感し、それに従って進む」ようにと助言した。
マーケターが市場の構造を、プロダクトや顧客の属性からではなく、顧客の片付けるべきジョブの観点から理解すると、市場の潜在的規模が一気に膨れ上がる。それまではありそうもなかった場所に成長の機会が出現するからだ。
顧客が生活に引き入れたいと望むプロダクトを目指すのなら、顧客が求めている進歩の機能面だけでなく、社会的・感情的な側面も深く掘り下げ、水平方向にも広く目を向けなければならない。
P&Gが後に中国でおむつを再展開したときの広告は、感情的および社会的な便益を直接訴えかけるものだった。「夜よく眠る子は頭が良くなります」
カレンダーやアラーム機能があるモバイルフォンを持ち歩くようになったとたん、腕時計はあちこちで解雇された。ケーブルテレビでスポーツ専門チャンネルをいつでも観られるようになったとたん、スポーツ・イラストレイテッド誌を解雇した。尿漏れシーツのディペンド・シルエットを雇用した人は、外出を躊躇って家に閉じこもることを解雇した。「当社の製品が雇用されるために必要なのは何を解雇させることか?」
業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。
測定手法はプロダクトと別物。会計ソフトのおかげで会計係の労働時間がどれだけ減ったかを自動的かつ継続的に測定する方法なんてない。だから、調査のための機能を組み込んでおかなければならない。そうしておかないと、顧客の求めるジョブをうちがどれだけうまく解決しているかを知ることができないのだ。
アマゾンの新しいイノベーションは、会議の場で模擬的な"プレスリリース"を、後の担当チームに披露するところから始まる。
満たされていないジョブや、不満足にしか片付いていないジョブを発見しようとするとき、マネージャーの周りには顧客の無消費や間に合わせの行動の例が集まってくる。プロダクトの売上や品質基準、競争相手などの見慣れた標識はまだない。あるのは、顧客の苛立ちや、望ましくないトレードオフや体験というかたちでイノベーションに導いてくれる標識である。現実の乱雑な体験のなかから意味を見出すには、データを操作するのではなく、ストーリーを通じてジョブを明らかにするしかない。
ひとたびプロダクトが売り出されると、蛇口がひねられてデータがつくられはじめる。そのデータは、売上が発生し、顧客が生まれるまで存在しなかったものだ。曖昧でつかみづらい苦闘のストーリーから、精密かつ整然としたスプレッドシートへと関心を移したときのマネージャーの安堵感はよくわかる。
データは非常に目立つ。追跡しやすく計測も容易で、マネージャーがいかに職務に取り組んでいるかの尺度としてよく利用される。これは進歩といえなくもないが、能動的データが切り取ったモデルをマネージャーが現実世界の姿だと誤認してしまうおしたら、むしろその進歩は毒になる。
能動的データと受動的データの誤謬。規模を拡大中の企業は、ジョブの奥深い複雑さを特色付けるデータを重要視しつづける代わりに、業務に関連したデータを生成しはじめ、その見かけ上の客観性と精密さに誘惑されやすい。これにより、企業は片付けるジョブより、プロダクトの顧客特性を中心にした組織に変貌してしまう。
ユニリーバは消費者が特定の状況で成し遂げようと苦闘している進歩を手助けする一連の製品を作り出したのだ。子供たちが滅菌できるまで充分に長く手洗いできるように、色の変わる石鹸を開発したのだ。子どもが面白がって充分な時間、手を洗うように仕向けたのだ。子どもの命を救うというミッションには強力なメッセージがあるが、そのミッションに消費者が片づけようとしているジョブを具体的に結びつけたからこそ、ユニリーバは老舗ブランドを活気付けることができた。
役割を申し分なく果たせるのは、片付けるべきジョブのコンセプトが「単純だから」である。
大企業の場合はとくに、会社の内側にいるマネージャーが顧客を直接知ることはめったになく、彼らはデータを通してのみ顧客を知る。データとは、現実の人々を輪切りにし、角切りにし、組み立て直して、似た属性ごとにセグメントとして切り分けられたモデルやスプレッドシートてある。部内のフィルターを通して集められたデータが顧客のジョブを表すことはめったにない。
"顧客の人生を向上させる"ことは、すでに蓄積されていたデータの形式には変換できない。それでも、顧客が同社のソフトウェアを雇用して追求しようとしているジョブを提供できているかは測定可能だ。
たとえば同社のソフトウェアを雇用する会計士がクライアントの確定申告にかかる時間を短縮しようとしていることはわかっている。短縮できれば、もっと多くのクライアントを抱える時間ができるし、(その結果売上が上がる)、または単純に他の活動に割ける時間が増えるわけだ。それを達成するのにソフトウェアは役だったのか。
ここ数年で読んだ本の中ではトップクラスに良かった。自分の中で1軍の本に分類されるくらいには。
顧客の置かれている状況を把握し、顧客の成し遂げたい進歩を理解した上で、それを実現するサービスを提供することが重要である、ということをジョブ理論が伝えたいものだと今は解釈している。
自分にこれまで無かった考えの1つに「自社サービスが雇用されるためには、何を解雇させるべき」がある。今までは似たような機能やビジネスモデルを持つサービスだけを競合と捉えていた。しかしジョブ理論は、顧客の状況と成し遂げたい進歩を中心に考えており、その進歩をもたらし得るもの全てを競合と捉えていた。顧客と自社サービスの既存の接点に閉じるのではなく、顧客の価値観をストーリー・線として捉えることで本当にやるべきことをフォーカスできることを学んだ。
元々N1インタビューを通して顧客起点でサービスを作る重要性は分かっていたつもりだが、本書を通じてより一段と顧客の状況や成し遂げたいことを理解することが大切だと認識することができた。ユーザーインタビューや顧客を観察する際の視座を上げられた。
またデータとの向き合い方についても、自分がモヤモヤしてうまく言語化できていない部分を補強してくれるような内容だった。特に「データは顧客と商品そのものにフォーカスしていて、その商品が顧客のジョブをどんなふうに解決しているかについては教えてくれない」の部分。データは顧客の行動の結果生まれるものであって、顧客が抱えている課題や最終的になりたい姿について特定することはできない。行動の違和感を発見したり、経営目線での売上を管理したりなど各場面で使うことはもちろんあるのだが、データだけで現実世界で起きている課題に取り組むのはよくないよと。
N1によって状況の分析・課題の特定を行い、データによって顧客がジョブを雇用した場合の結果の把握を行う、これらを両輪で回すことが大切だと教えてくれた。
目の前の利益・数字だけを追いかけるのではなく、顧客の苦労を誰よりも理解し、より良い人生を送ってもらうために仕事をしよう思う。