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執愛の牢獄

とりあえず1発目なんで好きに書きました、こういうシチュはなんべん書いても興奮するんで楽しいです。1発目に限らず多分今後も好きに書きますね……

執愛の牢獄

「あ、どうもお疲れ様です」

「あれ?みるくちゃんももう上がりなんだ、お疲れ様ー」


3連勤がようやく終わってこれから帰るぞ、という時、同じシフトだった先輩のいぶさんとばったり出会った。

もちろん彼女の本名が「いぶ」というわけではない。今あたしがバイトしているところは少し特殊で、簡単に言えばメイド喫茶のような店だ。採用されると同時に源氏名のようなものをつけられて店内では当たり前のようにそれが使われるため、スタッフの本名は本人を除いて店長くらいしか知らない。

そんなところで働いているあたしも例外なくニックネームがつけられているわけで、本名の胡桃をもじって「みるく」などという恥ずかしい名前を付けられている。


「今日も指名いっぱい入ってたじゃん、本当みるくちゃんってばモテモテだよねぇ」

「いやいや、ここに来るような人達にいくらモテたってしょうがないですよ……」


からかうような口調のいぶさんに苦笑いを返す。正直な話ここの客、というよりあたしに群がってくる人達にはろくな人ががいなかった。

今あたしが働いているような店ではその性質上、客がストーカーのようになるということがそう珍しくはない。そんなこともあって今では客がそうならないような対処がマニュアルに書かれているほどなのだが、どうもあたしはそういう人達を寄せ付けるタチなのか、どれだけ意識しても客に付きまとわれるようなことが絶えなかった。


「モテると言えば、前にプロポーズしてきたガチ恋の人いたじゃん。 もうあの人がいなくなって1ヶ月も経つし、みるくちゃんもそろそろ寂しくなってきたんじゃないのー?」

「うわ……冗談でもそういうこと言うのやめてくださいよ、思い出したくないんで。 それじゃあたし先に店出ますんで、お疲れ様です」

「あはは、ごめんごめん。 お疲れ様」


軽口を叩く彼女に軽く会釈して帰路につく。軽口……だと思っていたが、気づけばあたしの腕には鳥肌が立っていた。

彼女が言っていた『ガチ恋の人』は、客の中でも特に厄介なやつだった。初めの頃は他の客と同じ程度でせいぜい勤務中にしつこく絡んできたり、頻繁に来ては指名をする程度だったが、次第に他の客への接客中に割り込んできたり出待ちをしたりと、迷惑行為が目立つようになっていった。

極めつけは勤務中に、あたしにいきなりプロポーズをしてきたことだった。いつものように接客をしていたら何を思ったのか指輪を取り出し、大勢の客の前であたしに結婚してくれと迫ってきたのだ。

当然店長もその騒ぎを見ており、度を越したその行為を咎めた店長に逆ギレしたそいつはその場で即刻出入り禁止となった。

そんなこともあって、そいつに店の外で何かされないか不安で最近はシフトや店を出る時間をずらしていたりしてたのだが、そんな心配をよそにそのストーカーはついにはあたしの前に姿を現すことはなかった。


「……さっさと帰ろう」


嫌なことを思い出してしまって思わず足取りが重くなる。高校の友達にはそんなバイト辞めなよなんて言われたりもしたし、なによりあたし自身もうんざりしてきてるけど、普通のバイトと比較にならない程の時給を捨てると思うとどうにも踏ん切りがつかなかった。

客に付きまとわれるのも裏を返せば指名が付きやすいってわけだし、少しだけ我慢すればいいだけの話。そう自分に言い聞かせながら家路を急いだ。




***




「うっ、頭痛い…… あ、あれ……?ここ、どこ…………?」


目が覚めると、そこは見たこともない部屋の中だった。見慣れた天井ではなくコンクリート打ちの冷たい壁が視界に入り込んでくる。

起き上がって辺りを見回すも家具らしいものは一切なく、殺風景な部屋の中にはあたしが寝ていたベッドだけがぽつりとあるだけだった。部屋には窓が一切なく、出入口は重々しい扉1枚だけのようだ。


「なんでこんなところに……えっと、何してたんだっけ……?」


ゆっくりと記憶を辿る。確か今日は昼過ぎまでシフトが入ってて、帰りに先輩と話して、最寄りから家に帰るところで……そこまで思い出したところで頭がズキっと痛む。

そうだ、たしか誰かに声をかけられたような気がする。声をかけられた瞬間頭に激痛が走って……そこからの記憶が曖昧になっていた。


「と、とにかくここから出ないと……」


自分の身に起きたことを理解できないまま、ひとまずこの場を離れようと立ち上がる。するとジャラリという音とともに手首が引っ張られるような感触があった。恐る恐る左手を見ると、そこには手錠がかけられていてベッドの柵に繋がれていた。


「なにこれ!?どうなってるの!?」


慌てて外そうと試みるが、ガチャガチャと金属音が虚しく響くだけで一向に外れる気配はなかった。

一体誰が、どうしてあたしを監禁なんかしているのだろう。そんなことを考えているうちに、ジワジワと恐怖で身体が満たされていく。

その時、ガチャッという音と共に目の前の扉が開いた。


「やあみるくちゃん、起きたんだね」


そう言って入ってきたのは、1ヶ月前に店を出禁になった例のストーカーだった。

その手にはあたしが使っているハンドバッグが握られていて、恐らくあたしをこんな目に遭わせたのも彼なのだろうと容易に想像できた。


「あ、あんた……ちょ、ちょっと、これどういうことなの!?」


あまりのことに動揺してしまい、つい語気が強くなってしまう。そんなあたしを見た彼は少し驚いたような顔をしたかと思うと、今度はニヤニヤと笑いながら口を開いた。


「そっかぁ、それがみるくちゃん、いや、『胡桃ちゃん』の喋り方なんだね? ちょっとびっくりしたけど、素の姿を見られたみたいでなんだか嬉しいよ」


男は笑みを崩さず、あたしの学生証を眺めながらそう言った。


「ふざけないで!これはいったい何の真似なの!」

「何って、プロポーズの続きに決まってるじゃないか」

「は、はあ!?」

「この間は邪魔が入っちゃっただろう?おかげでお店に入れなくなっちゃったから、こうやってずっと準備をしてたんだよね、この部屋も――」


確かに1ヶ月前にもプロポーズをされたが、それは店長や他のキャストたちもいた店内でのことだった。まさかあれは本気で、もう一度するためだけにあたしを誘拐したってこと……?

混乱して何も言えないあたしを他所に、男はペラペラと話を続けていた。


「――ここなら誰にも邪魔されないから、安心だろう?ほら、指輪も用意したんだよ。受け取ってくれるかい?」


男がポケットから取り出したケースを開く。中にはシンプルなデザインのリングが収められていた。


「う、受け取るわけないでしょ…! そんなことより分かってるの?これ犯罪だから!い、今なら通報しないであげるから、早くここから出してよ!」


震える声でなんとか言葉を絞り出す。本当は叫びたいくらい怖かったけど、ここで折れたらいけないような気がして必死に強がるしかなかった。


「せっかくこんなに準備したのに、僕のプロポーズを断るってこと?」

「当たり前じゃない、誰があんたなんか……!」


男を睨みつけながら精一杯強気に振る舞う。ここで弱気になってはいけない。

そんなあたしの様子を見て、男は残念そうな表情を浮かべた。


「……そっか、それなら仕方ないね。 それじゃあこっちの指輪だけでも付けてくれないかな?そしたら手錠は外してあげるよ」


男は差し出した指輪をケースごと投げ捨てると、今度は先程とは異なるデザインの指輪を差し出してきた。ガラスか何かで出来ているのだろうか、透明な指輪には吸い込まれそうなほど綺麗な紅色の宝石が装飾されている。


「それを付けたら、ここから出してくれるの……?」

「うーん、それは君次第かな。別に嫌ならいいんだよ?」


男はニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。まるで試すかのような視線に少し苛立ったが、それでも今は一刻も早くここから出たかったためあたしは男の手に握られた指輪を受け取った。

手錠で繋がれた左手に指輪を通す。ひんやりとした感触が伝わってきたかと思うと、一瞬視界がブレたような気がした。


「こ、これでいいんでしょ?早く手錠を外してよ」


あたしがそう言うと、男は満足げな笑みを浮かべて鍵を取り出し手錠の鍵穴に差し込んだ。カチャリという音とともに、左手が解放される。


「死ねっ!!」

「ぐっ!?」


手錠を外された瞬間、あたしは男を思い切り蹴り飛ばして一目散に扉へと向かった。背後で男が苦しむ声が聞こえるが、かまわずドアノブに手を掛ける。

ようやく出れる。早く逃げてこの変態ストーカーを通報しなきゃ。

そう思いながら扉を開けようとしたが、ドアノブはガチガチと音を立ててビクともしなかった。


「開かない!?なんで……あっ」


よく見ると、その扉は内側であるにも関わらず鍵穴が付いていた。つまり、あたしはこの部屋に閉じ込められてしまったのだ。


「か、鍵はどこに…… え、な、何してるの…………?」


鍵の在り処を問いただそうとして振り返った瞬間、予想外の光景に思わず身体が固まってしまった。

何を血迷ったか、男は先程あたしが繋がれていた手錠を自身の左腕に嵌め、カチリと固定したのだ。そして、鍵の束をこちらに投げ渡した。


「ほら、それが部屋と手錠の鍵だよ、ちょっと持っててもらえるかな」

「持ってろって…え、な、何?頭おかしいんじゃないの?」

「ふふ…それじゃあ始めるよ」


そう言うと、男は左手の指に指輪を、あたしの指にあるそれと似たデザインの、蒼い宝石がついた指輪を挿し込んだ。

と、それと同時に視界が強烈な光に包まれ、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。


「きゃっ!まぶし…… ちょっと、いきなり何……を…………!?」


気が付くと、あたしの身体は宙にふわりと浮いていた。いや、身体ではないのかもしれない。今のあたしの全身は何故か裸で半透明で、足元を見るともう一人あたしが腕をだらんとさせ、生気のない顔で口をポカンと開けて座り込んでいた。


「なんであたしがそこに……これってもしかして……あ、あたし死んじゃったの!?」

「大丈夫、死んじゃいないよ」

「えっ?」


声のする方を向くと、先程のストーカーがあたしと同じような状態になって宙に浮かんでいた。彼の足元にも抜け殻の様になった身体が転がっている。


「すごいだろ?あの指輪をペアで身に着けるとこんなことが起きるんだ」

「は、はぁ!?なにそれ、これってどういう仕組み……っていうかなんなのよこれ!?」

「うーん、簡単に言えば幽体離脱みたいなものかな?僕たち二人の魂だけが身体から飛び出してるんだよ」


男は嬉しそうに説明を始めた。彼の魂?もあたしと同じように裸になっているわけで、見たくもないグロテスクな股間が剥き出しになっていて目のやり場に困る。


「ゆ、幽体離脱って……なんでそんなこと、っていうか何がしたいの?早く戻してよ!」

「ああ、幽体離脱はあくまで過程であって肝心なのはこれから……っと、そろそろみたいだ」


突然、指輪に装飾されている宝石がぼんやりと光り始めたかと思うと、まるでそれに吸い寄せられるかのようにあたしの全身がふわふわと勝手に移動を始めた。


「な、なにこれ…… なんで、あたしの身体はそっちなのに……!?」


あたしの全身は、男の身体の手にある指輪の青い光にゆっくりと向かっていた。

このままではまずい、と、頭の奥の方で誰かが叫んでいる。なんとか元の身体に戻ろうと必死になってもがくが、あたしの手はただ空を切るばかりで、そんなことをしている間にも着実に男の身体へと引き寄せられていく。


「ふふ…あは、あはははははははは!やっと僕たちは一緒になれるんだね!!」


いつの間にか、男の魂も同じように赤い光に、虚ろな表情で座り込むあたしの身体に向かって引き寄せられていた。やがてその全身がぐにゃりと歪んだかと思うと、光となって指輪に吸い込まれていく。それと同時に、あたしの全身も強烈な引力によって何かに吸い寄せられていくのを感じる。


「やだ!ど、どうなってるの!? いや、いやああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」


薄れゆく意識の中、抜け殻になっているはずのあたしの身体が微かに動いたのを見たような気がした。




***




「――ふふ……!す、すごい、本当に僕が胡桃ちゃんに…………!」

「う、うーん……?」


誰かの声が聞こえてくる。聞き覚えのある声だけど誰だろう、なんだか身体が重い。

あたし、何してたんだっけ?確か……そうだ、あのストーカーに誘拐されて、それで……

ぼんやりとした意識の中、ゆっくりと目を開ける。そこには信じられない光景が広がっていた。

目の前にはあたしがよく知る女性が立っていた。腰くらいまで伸ばしたストレートの茶髪、二重でパッチリとした自慢の目に、それを映えるように毎朝頑張ってる化粧。知っている、どころの話じゃない。紛れもなく、どこからどこ見てもその女性はあたしそのものだった。

目の前に居るもう一人のあたしは、今まであたしが浮かべたことも無いようないやらしい表情を浮かべながら嬉しそうに自分自身の身体をまさぐっている。


「あ、あ、あーー……こ、声も…んっ♡お、おっぱいもおまんこも全部……あっ……♡くぅっ……♡♡」


あたしそっくりのその女は身体を動かす度に甘ったるい声を上げて悶えている。一体何が起きているのか理解できないままでいたが、ふと下半身のあたりに奇妙な違和感を覚える。

なんとなく、見ちゃいけないと思った。それを確かめてしまったら、あたしの中の大事な何かが終わってしまうような気がして。


「そ、そうだっ、鏡…… あはぁ……♡」


もう一人のあたしは部屋の隅に放置されていたハンドバッグを漁ると、中からあたしのハンドミラーを取り出し、頬に手を当てながら恍惚とした表情でそこに映る自分の姿をまじまじと見つめていた。


「胡桃ちゃんが僕の思い通りに…ち、違う、そっか、もう僕が、く、胡桃ちゃんなんだ……♡ ふふ、ふふふ……♡」


もう一人のあたしは嬉しそうに、自分の顔をペタペタと触り続けている。あたしはただぼんやりと、その光景を眺めていた。

きっと、これは夢なんだろう。あたしが誘拐されたってとこから全部。

うん。あのストーカーのことでずっと不安だったし、そんな気持ちがこんな形で夢になって出てきたんだと思う。それにしたってわけのわからない酷い悪夢だ。服もあんなに乱して、あたしはそんな顔なんてしないのに……

何分くらい経っただろうか、奇行を続けるあたしとふと目が合ったかと思うと、彼女はあれ、と呟いてあたしに近づいてきた。


「起きてたんだ、ごめんね?気づかなくて」

「……」

「あれ?もしもーし?……ってなんだ、胡桃ちゃんも僕の身体になって興奮してくれてたんだね♡」

「ひゃうっ!?」


突然、下半身から今まで感じたことの無い刺激が走って思わず悲鳴を上げてしまう。慌てて視線を落とすと、もう一人のあたしがジーパンの上から、股間のあたりを押し上げている膨らみをぐにぐにと弄っていた。

その事実を認識した瞬間、ぞわっと全身に鳥肌が立つのを感じた。

そこにあたしの身体があるはずの場所には、持ってないはずの服に包まれた知らない足が転がっていて、あたしのものであるはずの身体がまるで他人の様に、目の前に居て、勝手に動いて。

全部夢だと思った、思おうとしたのに、股間から来るその感触とうるさいくらいに聞こえてくる心臓の音が、目の前のこの光景が現実だとこれでもないくらいに訴えかけてくる。


「や、やだ、やめて!!」


咄嗟に、あたしはもう一人のあたしをつき飛ばしていた。彼女は、きゃっ、と声をあげて尻もちをつくが、そんなことはすぐ気にもならなくなった。

つき飛ばすために前に伸ばしたあたしの右腕はすっかり変わり果てたものになっていた。縮れた体毛がびっしりと生えた、別の生き物とすら思えるような太く浅黒い腕。

確かめたくもないのに、見たくもないのに、意識し始めると身体の違和感が一気に強い自覚と共に襲って来る。

今出したあたしの、野太い悲鳴も、首元の喉ぼとけ、顎に触れるとジョリジョリとした感触が指先から返ってくる。目を下ろして真っ先に視界に入っていたはずのあたしの胸は影も形も無く、その代わりと言わんばかりにでっぷりと膨れたお腹が視界に入る。


「いたたた……」

「ちょ、ちょっと、これ、どういうこと!? あ、あたしが、これ、あたしじゃない!だ、誰なの!?」


あたしが大声を上げると、もう一人のあたしは痛そうに腰をさすりながらゆっくりと立ち上がった。そして、少し驚いたような表情であたしの顔を見つめる。


「そっか、まだ分かってなかったんだね。 ほら、これが今の君だよ」


彼女はそう言うと、床に落ちている手鏡を拾い上げ、あたしの目の前に持って見せた。そこにはさっきまであたしの前に居た男が、あのストーカーがぽかんとした顔を浮かべていた。目元はつり上がっていて、鼻は厚ぼったく、唇は厚めで……どう見てもあたしとは似ても似つかない別人が呆然とした表情でこちらを見つめている。


「か、鏡…?ち、違う、あたしはこんなんじゃない、だって、これじゃあ、そんな……!」

「いーや、これが今の君なんだよ。僕と君の身体が入れ替わったんだ♡」

「い、入れ替わった……?」

「そうそう、胡桃ちゃんの身体を僕がもらって君は僕の、小柳祐一の身体をあげたんだよ」

「ひっ…!?」


もう一人のあたしは嬉しそうにそう言って、あたしのお腹の肉をぐにっとつまんだ。ぞわっとした感覚とともに、あたしの口から短い悲鳴が上がる。


「か、勝手なこと言わないで!あたしの身体を返してよ!!」

「返せって、返すつもりならそもそもこんなことするわけないだろう? 第一もうあの指輪は使えないから、僕たちは戻れないんだよ、一生ね♡」


彼女はそう言いながら自分の左手を掲げて見せる。指輪があったはずの薬指、そこには指輪など無く、代わりに刺青のような黒い痕だけが残っている。慌てて手錠に繋がれた今のあたしの左手に目をやると、同じように薬指からは指輪が消え去っていた。


「嘘……」

「まあ、どっちがどっちの身体かなんて些細な話じゃないか。それよりも、これでやっと、ずっと一緒になれるね……♡」

「は、はぁ!?」

「出禁にされちゃってからずっと考えてたんだよ、僕と君が一緒になるにはどうすればいいかな、って。だって、僕たちは愛し合ってるはずなのに、あんな……おかしいだろ? でも、そのおかげでやっと気づいたんだよ。素直になれない君の代わりに、僕が君になってあげればいいんだって♡」


もう一人のあたしは熱に浮かされたようにつらつらと言葉を吐き出す。その姿に、あたしは底知れぬ恐怖を感じた。


「ああ、そうだよ、もう僕が君…胡桃ちゃんなんだ。僕の、ううん、あたし、あたしだけの…ふ、ふふふ……♡」


もう一人のあたしは何が面白いのか一人で笑い始める。その様子は本当に気味が悪くて、あたしは思わず後ずさってしまった。すると、彼女もまたじりっと距離を詰めてくる。


「あれぇ、どうして逃げるんですか?祐一さん」

「あ、あたしはそんな名前じゃない!いきなりあたしの真似なんかして、あんた頭おかしいんじゃないの!?」


あたしが叫ぶと、彼女はピタリと動きを止めて、にっこりと笑顔を作った。

バイトの時に見せるような、客に向けるときの作り物の笑顔。先程までの気持ちの悪い笑みとは違うあたしそのものの笑顔を見て、まるであたしの存在が奪われてしまったかのような錯覚を覚えて背筋にぞくりとした悪寒が走る。


「真似なんてしてませんよ?だってあたしは広本胡桃、本人なんですから。 それにおかしいのは祐一さんの方ですよ?女の人みたいな言葉遣いなんてしちゃって……」

「う、うるさい!!あんたなんかあたしじゃない!!」


あたしが大声を上げると彼女は一瞬困ったような表情になったあとに、ふーっと息を吐いた。


「脅すつもりはなかったんですけど……あんまり我儘を言ってると、あなたの家族に居なくなってもらうことになっちゃいますよ?」

「え……」

「確かあたしって一人っ子なんでしたっけ。 確かに今の『あたし』にとってパパとママは大事な家族ですけど、『僕』とっては所詮他人ですから。 あなたがそんな調子でいたらパパとママがどうなるか、よく考えてみてくださいね♡」


あたしが言葉を失うと、彼女は満足げに笑ってあたしの頭を撫で始めた。

他人を躊躇なく監禁し、その上身体まで奪ってしまうような異常者。しかも、そいつはあたしの姿をしているのだ。どんな悲劇が起きてしまうか想像に難くはなかった。


「それで? あたしは誰で、あなたは誰に見えます?」


あたしが黙っていると、彼女は満面の笑みで問いかけてきた。こいつが望むような答えは分かってる。それを口に出すのは絶対に嫌だけど、従わなかったらきっとこいつは……


「あ、あなたは、胡桃ちゃん……で、あた…ぼ、僕は祐一……です……」


絞り出した声で答えると、彼女は満足そうに身体をふるふると震わせながらにっこりと目を細めた。


「ふ、ふふふふふふふふふ……♡よくできました♡まだ元の僕らしくはないですけど、これからゆっくり慣れていきましょうね♡」


そう言うと彼女はあたしをぎゅうと抱きしめた。顔中に彼女の柔らかなおっぱいが押し付けられ、柔らかい感触が伝わってくる。甘い匂い、そして何より、目の前にある彼女の顔は紛れもなくあたし自身のものだった。

もうどうにでもなれ。そんな思いでされるがままに身を任せていると、もう一人のあたしは何を思ったのかあたしのズボン、そして下着をずるりと下ろしていった。


「ひっ……!ちょ、ちょっと何を……!?」


突然下半身が外気に晒され、思わず悲鳴を上げてしまう。それと同時に今のあたしの股間にある男性器が露出し、思わず顔を背ける。

この身体になってからずっと、あたしの股間にあるこれはずっと勃起していて、ズボンの中で痛いくらいに膨らんでいた。


「祐一さんってばこんなにおちんちんを大きくしちゃって……そんなにあたしとえっちしたいんですか?」

「ちがっ…!ちが、います…… これは勝手に……」

「嘘はいけないですよ?男の人は興奮するとおちんちんがそんな風になっちゃうんです♡やっぱり祐一さんもあたしのことを好きでいてくれたんですね、嬉しいです♡」


興奮している。そんなことはまったくなかった。あたしの身体に男が入って勝手に操られてるなんて考えただけで吐き気がするし、何よりこんな気持ちの悪い身体に押し込められているのだから。

それなのに、この身体はあたしの意思とは関係なく、先程からずっと股間は熱くなり、彼女の囁きを耳に入れる度に胸の辺りが気味の悪い高鳴りを返している。この男の身体にされてしまったせいなのだろうか、あたしを見て興奮なんてしたくないのに、そんなあたしの心を無視した身体はもう一人のあたしを求めるかのように強い欲求を放っていた。


「あたしもえっちな気分になってるのに、なんでか全然おまんこが気持ちよくなってくれないんですよね…… そうだ、祐一さん、あたしのおまんこを舐めて、気持ちよくしてください♡」


もう一人のあたしは自分のスカートとショーツを脱ぐとそのまま床に放り投げ、ベッドの上に座って足を開いた。

薄っすらと毛の生えた秘所が露わになり、普段見ることの無い角度から見たそれはグロテスクで、思わず顔を逸らしてしまう。


「ほら、遠慮しなくていいんですよ? あたしのおまんこを舐めたいってずーっと思ってたじゃないですか」

「い、嫌です……」

「おかしいなあ、あたしの知ってる祐一さんはそんなこと言いませんよ? それに……自分の立場分かってます?」


彼女はあたしの顎を掴むと無理やり目線を合わせてきた。

その目は今まで見たことのないような冷たいもので、あたしの身体がぞくっと震える。


「あなたの家族がどうなるか、忘れたんですか?」

「ひっ……」


あたしが怯えていると、彼女は満足げに笑い、再び口を開く。


「さ、早くあたしを気持ちよくさせてください♡」

「う、うぅぅ……」


あたしは彼女に言われるまま四つん這いになると恐る恐る舌を伸ばし、割れ目に這わせた。


「ふぁ……♡あっ、そこぉ…♡ ふふっ、ちょ、ちょっとずつ…あっ♡き、気持ちよくなってきました…♡ あっ♡もっとペロペロしてくださいっ♡ほらぁっ♡♡」


彼女は腰を振りながらあたしの顔に秘所を押し付けて、快感に浸っているようだった。あたしは嫌悪感から泣き出しそうになっていたけど、彼女に命じられるままに舌を動かし続けた。


「あ、あふっ♡ ゆ、祐一さんの舌、あったかくてぇ……♡ あ、あたし……す、好きぃ♡♡」

「ふぁ…… ふふ……」


気持ち悪い。あたしは心の中で悪態をつきながら、それでも言われた通りに彼女の性器を舐め続ける。こんな気持ちの悪い行為を強要されるなんて死んでもごめんだと思っているはずなのに、さっきからずっと身体と心がちぐはぐで頭がおかしくなりそうだ。


「ああ……♡ も、もういいですよ、なんか頭がぼーっとして来ちゃいました……♡」


あたしは彼女の言葉にほっと息をついた。

ようやく終わる。そう思ったのも束の間、彼女はあたしの頭を掴んで強引に引き剥がし、ベッドの上に押し倒した。


「ちょっと何を……」

「もうおまんこがキュンキュンって疼いちゃって限界なんです♡祐一さんの童貞、もらっちゃいますね♡♡」

「や、やだ、それだけはやめて! お願い……はぅっ!?」

「ひぅっ!? あっ、すごっ♡な、ナカに入って……あっ♡♡♡」


あたしの言葉などお構いなしに、もう一人のあたしは自身の女性器を指で広げ、そこにあたしの股間にあるモノをあてがうと一気に挿入した。


「あ、あついっ♡ おちんちん熱くて……すごいっ♡あはっ♡」

「や、やだ!抜いて!くぅっ…… あ、あたしの身体で勝手なことしないで!!」

「ぬ、抜くわけないじゃないですかっ♡あっ♡ あたしと祐一さんの赤ちゃんを作ってそれで……くぅん♡あっ♡ き、気持ちよくすぎて止まらないし、も、もっとぉ……♡ あぁんっ♡♡」


もう一人のあたしはあたしのものだった顔を快感でだらしなく歪めながら、無我夢中で腰を打ち付けてきた。

膣内の肉壁がきゅうっと締まり、あたしについている男性器を強く締め付ける。熱い蜜が絡みついてくるようで、嫌なのに、感じたくなんてないのに、脳が痺れるような刺激に襲われてあたしの頭は段々と真っ白になっていく。


「あんっ♡あっ♡も、もっと奥までぇ…♡す、好きぃ♡」

「あ、あたしの身体でそんな顔するのやめてっ!! あっ!」

「ふふっ♡ そんなこと言いながら…あんっ♡ ゆ、祐一さんも腰振っちゃって、すっかり楽しんでるじゃないですかっ♡♡」

「えっ!? ち、ちがっ、これは…… あぁっ!」


もう一人のあたしに言われて気が付いた。いつの間にかあたしも快楽を求めて、腰を動かしていたのだ。

肉棒の締め付けられるような感覚と快感、自分自身が目の前にいるという現実離れした光景と彼女が上げる甘い声。その全てがあたしの理性を奪い去っていく。


「だ、だめっ!な、何か…あっ! で、でるっ!!や、やだっ!!も、もうだ、だめっ!!!」

「ふふっ♡ そろそろイキそうなんですか?イッちゃうんですね♡いいですよ、出して♡ あたしの中にいっぱい精液くださいっ♡♡♡」

「あ、あうっ! だめっ!出ちゃうっ!! ああぁぁぁぁッ!!!」


どくどくと、股間の先端から勢いよく何かが噴き出していくのが分かる。あたしは自分の意思とは関係なく、あたし自身の中に射精してしまった。あたしの股間についているはずのそれの先端から大量の精子が噴き出して膣内を満たしていく。あたしはどうしようもない罪悪感と絶望感に包まれながらも、途方もない満足感と快感の余韻に全身を震わせていた。


「あぁんっ♡出てるぅっ♡あぁっ♡しゅごい♡ これぇっ♡気持ちいいっ♡♡」


彼女は絶頂に達して激しく痙攣すると、そのままベッドに倒れ込んだ。あたしの男性器がずるりと抜けて、そこから白い液体がどろっと垂れてくる。


「ふふっ♡ 祐一さんのせーえき、たくさんもらいましたよぉ♡ 妊娠しちゃうかもしれないですね♡」

「はぁ…… はぁ……」


あたしは何も答えられず、ただベッドの上で荒い呼吸を繰り返していた。身体中から力が抜ける。ぐったりとしたあたしの耳元で、もう一人のあたしが囁く。


「ねえ、祐一さん♡ まだ終わりじゃないんですよ? もっと、たくさんたくさん愛し合いましょう♡♡♡」


あたしが答える間もなく、もう一人のあたしは再びあたしの股間へ手を伸ばしてきた。


「や、やだっ!! お願い、お願いします!もうやめて、あたしを元に戻してください!!」

「まだそんなことを言ってるんですか。 大丈夫ですよ、あたしがちゃーんと、あなたを本当の祐一さんに戻してあげますから♡どれだけ時間がかかっても……ね?」

「う、うぅぅぅぅぅ……!」


彼女の手があたしの股間に触れる。先ほど出したばかりだというのに、あたしの意思とは関係なしに再び股間が熱を帯び始める。

あたしはこれから起こるであろう出来事に恐怖しながらも、それ以上に、この狂った状況に興奮してしまっている自分がいることにも気が付いていた。

――このまま狂ってしまえれば楽になれるんだろうか。そんなことを考えながら、あたしのものだった顔を眺めていた。


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