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炎帝竹輪太郎
炎帝竹輪太郎

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合作)「あなたのモノはわたしのモノ、わたしのモノはあなたのモノ」

「先輩!先輩!」


放課後。

 特に部活に入っていない俺は家へ帰ろうと廊下を歩いていると、ふいに後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには少し小柄な少女。


 何故か俺に懐いてくれている後輩が、笑顔でこちらを見上げていた。

 運動部ならまだしも、こんな特に取り柄もないような俺をどうして慕ってくれているのかは分からないが、よくこうして絡んでくるのである。

 迷惑じゃないし、むしろありがたいくらいだけど。


「どうした?」


「今日、先輩の家に行ってもいいですか?」


「え? 何でだよ?」


「えっと、その……新作ゲーム! 買ったので! 一緒にやりませんか!?」


 妙に必死なのが気になるが、まあ一緒にゲームくらいなら別にいいか。

 一人暮らしの男の家に来たがるのもどうかとは思うけど、こいつは妹みたいなものだし問題ないだろう。

 何より、俺が問題を起こさなければいい話だ。


「ああ、いいよ」


「やったーーーーーーーーーーー!!」


 バンザイをし、飛び回る勢いで大喜びしている……。

 そんなに嬉しいことか、それ。


「ふへ、ふへへへ……今日が勝負の刻……!」


「は? 何だそれ?」


「ふへへへ~、何でもありませ~ん」


 何やら気持ち悪い笑みを浮かべながら、立ち去っていく後輩。

 いつもテンション高かったり変なやつではあったんだけど、今日は特に変だ。

 まあ、いいや。

 家に来るっていうなら、俺も早く帰らないと。

 そう思い、すぐさま帰路についた。


     §


 俺が帰宅してから、およそ十数分程度で奴は訪れた。

 玄関の扉を開けるや否や、すぐさま飛び込んでくる後輩。

 なぜか大きなリュックを背負っており、すごく重そうだった。


「って、何その荷物!?」


「えへへ……実は私、家出してきちゃいまして」


「は!?」


 さすがに絶句する。

 最初は冗談のつもりなんだろうとも思ったが、その深刻そうな表情を見て、真実なのだと察してしまった。


「お母さんもお父さんもひどいんですよー。何か嫌なことがある度に、私に八つ当たりするんですからぁ……殴ったり、蹴ったり、ものを投げたり色々……えへへ」


「……」


 とても明るい口調でそう語るが、かなり辛い思いをしていたのだろう。

 今までそんな素振りなど、一切見せなかったというのに。

 そう感じるのと同時に、俺はまだこいつのことを全然知れていなかったんだなと、悲しくなってくる。


 そんな家庭環境なのにも関わらず、よく今まであんなに明るく振る舞えていたものだ。

 でも、そんな地獄から逃げ出してきた……というわけか。


「はぁ……分かったよ、いくらでも泊まっていけ」


「ほんとですか!? もしかしたら、夜這いとかもしちゃうかもしれないですよ!?」


「よし、やっぱり帰れ!」


「わ~、冗談ですってば! ちょっとパンツの匂いを嗅いだりえっちな本を探したりするだけです!」


「……」


「ひっ……そ、そんな睨まないでくださいよ~……それも冗談ですってぇ」


 こいつの場合、冗談なのか本気なのか分かりにくくて困る。

 まあ、いくら何でもさすがにそんなことはしないだろうけど。


「それじゃあ、適当にくつろいでくれ」


「はーい、ありがとうございます~! ゲームしましょうゲーム!」


「……はいはい、分かったよ」


 いつにも増して楽しそうな後輩に、俺は渋々といった感じで頷く。

 でも、俺自身も誰かを泊まらせたりなんてしたことはないし、楽しいと思い始めていた。


 こんなことで、こいつの問題は解決なんかしないだろうけど。

 まるで逃避するかのように。目を背けるかのように。

 俺たちは、一緒に笑い合った。


     §


「ふぅ~、美味しかったです~」


 一緒に対戦ゲームをしたあと、二人で夕食に舌鼓を打った。

 男の一人暮らしだし、大したもの作れる自信はなかったが、それでもお気に召したようで何よりだ。


 と。食器を片付けていると、不意に俺のスマホが着信音を響かせた。

 訝しみつつ画面を見ると、そこにはよく知った人物の名が。


「もしもし、どうした?」


『んーん、ちょっと声が聞きたかっただけー』


 俺の問いに間髪入れず、穏やかな女の声が返ってきた。

 少し年上の女子大生で、同じ学校には通っていないものの、とあるきっかけを経て親しくなった相手だ。


『明日さ、家に行っていいー?』


「明日? そうだなぁ……」


 通話を続けながら、横目で後輩をチラッと一瞥する。

 すると怪訝そうで、少し不審そうな眼差しをこちらにも向けていた。


 もちろん家には何回も入れたことはあるし、来るのはいくらでも問題ないのだが……。

 今は後輩が家にいる。

 家庭で色々あるという後輩を追い出すのも気が引けるし、どうしたものか。


「今はちょっと、泊まってるやつがいてさ」


『あ、そうなの? 女の子?』


「い、いや……ただの友達だから」


「そっか、分かったー。じゃあ、また今度だね」


 少し申し訳ないが、仕方ない。

 それからいくつかやり取りをし、通話を切った。


「……先輩、今の誰ですか?」


「え? いや、誰って……」


「……誰、ですか?」


 じっと俺を見据え、微動だにしないまま同じ問いを投げかけてくる。

 答えるまで繰り返すとでも言わんばかりに。

 さっきまでと雰囲気が変わったことに疑問符を浮かべながらも、俺は少し目を逸らして答えた。


「彼女、だけど」


「へえ……彼女、いたんですね。それで、私のことはただの友達……そうですか」


「お、おい、どうしたんだよ?」


「いーえー? 何でもありませんよー」


 疑問に思う俺に構わず、後輩は再び笑顔に戻って風呂場へ向かった。

 一体、どうしたというんだろう。


 まあ、いいか。

 あとは風呂に入り、色々のんびりしてから就寝するだけだ。

 明日以降どうするかは……明日考えよう。


 後輩が何を考えていたのかも分からず、俺はそんな暢気なことを考えていた。


     §


 窓から差し込む日光で、俺は目が覚めた。

 重い瞼を開き、上体を起こす。

 そして前を見る――と。


 ――俺が、そこにいた。


「え、え……?」


 そして、異変はそれだけじゃない。

 つい先ほど無意識に漏れた俺の困惑の声が、俺のよく知っている低い声ではなかったのである。

 でも、なぜだかよく知っている声のように聞こえた。


「あ、あんまり暴れないでくださいねー。せぇんぱい」


 目の前の俺が、俺の声で、そう言った。

 どういうことだ。一体、何が起こっている。

 困惑する俺に、目の前の俺が鏡を取り出し、俺に突きつけてきた。

 そこに映っていた姿は。

 よく知っている俺ではなく――後輩の顔だった。


「なん、だよ、これ……」


「えへへ。すみません。私たち、入れ替わっちゃいましたぁ」


「入れ替わった? 何言って……」


「寝ている間に、入れ替わり薬を飲ませちゃいました。ごめんなさい。でも、先輩が悪いんですよー? まさか、彼女なんて忌々しいもの作ってるなんて思いませんでした……」


「な……」


 嘘だ、冗談だ、と笑い飛ばしたいのに、目の前の現実が嫌でも真実であることを証明してくる。

 今、俺の体にはあの後輩が入っているということらしいが……もしそうだとしても、今までの明るく元気な振る舞いとは様子が違いすぎる。

 これが、本性だったとでも言うのか。


「ふふふ……あなたを私の体に閉じ込めちゃいました♡」


「お、おい、何する気だよ……?」


「えー、そんなの決まってるじゃないですか。”あなた”の体を、たっぷりと愛してあげるんですよ♡」


 血の気が引く。

 入れ替わって、何をどうするのか具体的には分からないが。

 顔が青ざめていくのが分かった。


「逃げようとか、考えないほうがいいですよ?」


「……? どういうことだ?」


「ここに来るまでの間に、私は――実の親を……ふふふ。なので、あなたがその体で家から出ると……捕まっちゃうかもしれないですねぇ? でも大丈夫ですよ、私が匿ってあげますから。この家に、永遠に私と二人きりで……あははは」


 じゃあ、何か。

 こいつに同情していたのは、俺の勝手な思い込みで。

 本当は、こいつが親を――。


「邪魔なものは、全部排除したほうがいいですよねぇ? となると、あとは……ふふふふふ」


 それだけで、何をしようとしているのかすぐに分かった。

 今のこいつは、俺の体だ。

 その体を利用すれば、いくらでも接近することができる。

 そんなの、させるわけにはいかない。


「おい、やめろ! あいつには、彼女には手を出すな!」


「ふふ……お断りしまぁす♡」


 不気味な笑みを浮かべ、そう言った直後。

 後輩は俺の体で玄関へ向かう。


「おい、やめ――」


 そこで、自分の手足が拘束されていることに気づいた。

 これじゃ、あいつを追うことができない――。


「やめ、やめてくれ……やめてくれよッ!」


 俺の涙混じりの声は、あいつには届かない。

 ただ、虚空に消えるだけだった。

合作)「あなたのモノはわたしのモノ、わたしのモノはあなたのモノ」

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