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炎帝竹輪太郎
炎帝竹輪太郎

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合作「俺になった高飛車様」

こちらの作品は果実夢想さんのと合作です。企画を快く引き受けて貰えた事にココに感謝の意を表します。



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「あんたねえ! このあたしに向かって、ほんっといい度胸ね!」


「はぁ!? 元はと言えば、そっちから絡んできたんだろうが!」


「誰が、あんたみたいな庶民に絡むかっての!」


「へぇ~? 普段いいもの食ってるくせに、記憶力だけはみすぼらしいんだなぁ!」


「あぁ!?」


 俺は志島(しじま)龍輝(たつき)。

 そして、目の前にいるのは同級生の明河崎(みょうがざき)優那(ゆな)。


 自分で言うのも何だが、俺はかなり貧乏な苦学生というやつで。

 今日の昼食も、いつも通り小さなパンひとつだけ。


 それを見て、明河崎がまた「質素な食事ね。ま、あんたみたいなみすぼらしい庶民にはお似合いかもね」などと、豪華な弁当を見せつけながら言ってきて……今に至る、というわけだ。

 だから、こいつから絡んできたというのは間違いではない。


 家が金持ちなお嬢様であることは、この学校に通っている者は誰もが知っている。

 でも、だからといって俺たち庶民を見下し、神にでもなったかのように高飛車に振る舞う態度がどうも癪に障る。


 だから、気づけば俺たちは、こうして毎日と言ってもいいくらいに言い合いする関係になっていた。

 こっちとしては、俺のことなんか放っておいてほしいくらいなのだが。


 今は学校のため制服を着ている明河崎だけど、家ではドレスを着ているというのも知っている。

 無駄に容姿がいいせいで、すごく似合っていたが……そう思うことすら嫌になってしまうくらいである。


 結局、俺たちはお互いに別の方向へ歩みだし、遠く離れたところで食事をとる。

 俺は一人で、明河崎は友人に囲まれて。

 あんなやつでも、いい友達がたくさんできるんだから世界ってやつは本当に不平等にできているものだ。


 別に、羨ましくなんてない。

 俺には、一人のほうが合っているのだから。




 学校が終わり、家に帰宅。

 とても狭いワンルームに、俺は一人暮らしをしている。


 俺みたいな貧乏な学生は、一人暮らしするには少々厳しすぎるが……両親はもう他界しているため仕方がない。

 カレンダーを確認する。

 バイトのシフトが入っているから、明日に備えて早めに休んでおいたほうがいいだろう。


 まあ、この生活も最初は大変だったが、今となってはもう慣れてしまったな。

 そう思わず口角が上がるのを感じつつ、布団をかけて眠りについた――。



     §



 窓から眩い日光が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる。

 目を覚ました俺は、重い瞼を擦りながらゆっくりと上体を起こす。


 ……どこだ、ここは。

 よく掃除されている、綺麗な広い部屋。俺のワンルームの部屋の、何倍もありそうだ。

 そして床に敷いた布団に寝ていたはずなのに、何故かフカフカの心地よいベッドの上。


 どういうことだ?

 明らかに、俺の家じゃない。

 寝ている間に、誰かに攫われでもしたというのか。

 だが、一体誰が、何のために、どうやって。


 そこまで考え、俺は更に異変に気づく。

 なんか首の辺りが暑いと思って肩越しに後ろを振り向くと、俺の頭から長い頭髪が伸びていたのである。

 俺の髪は、もっと短かったはずなのに。


 いや、それだけじゃない。

 今度は目線を下に下ろすと、そこにはないはずのふたつの膨らみまで見える。


 おかしい。今俺の身に起きている全ての事象が。

 這うようにしてベッドから起き上がり、近くに立てかけられている姿見のもとへ。


 その姿見に映っていたのは、よく知る俺の姿ではなかった。

 長い髪。豊満な胸部。整った顔立ち。

 そう。俺があれだけ嫌っていた――明河崎優那だったのである。


 どうして、俺がこんな姿になっているのか。

 大きな驚愕が恐怖へと変わり、鏡に映っている明河崎の顔が青ざめていく。


 ……いや、待てよ。

 俺が明河崎になったのなら、元の俺の身体は今どうなっているんだ?


 辺りを見回す。

 すると、棚の上に明河崎のスマートフォンが置かれてあるのが見えた。


 明河崎とはいえ、他人のものを勝手に使うのは気が引けるが、今はそんなことも言っていられない。

 自分の番号を入力し、電話をかけてみる。

 頼むから、出てくれ――と、逸る気持ちを抑えながら祈って。


「……だ、誰?」


 すると、何コールも待ってからようやくそんな震え声が聞こえた。

 間違いない。俺の声だ。


「落ち着いて聞いてくれ。俺だ、志島龍輝だ。なぜか今、お前の身体になっている」


「はぁ!? 何で! 早く元に戻しなさいよ!」


「そんな無茶言うな、こっちだって困ってるのは同じだ!」


 俺がそう言うと、悔しそうに歯噛みしているような声が返ってきた。

 俺の声で女言葉で話されるのは正直気持ち悪くてたまらないが、仕方ないか。


「とにかく、元に戻れるまでお互いとして過ごすしかないだろ。幸い、今日は学校ないし」


「あんたとして過ごせと!? 嫌よ、そんなの! こんな豚小屋みたいなきったない家で!」


「……お前の身体、俺のものになってること忘れんなよこの野郎」


「ちょっ、あんた! 変なことするのはやめなさい、変態! 最低のクソ男ね!」


「まだ何もしてないし、何も言ってねえ!」


 だめだだめだ、いくら身体が入れ替わろうとこいつと話しているといつも調子が狂う。

 でも、ひとつだけ言っておかなくてはいけないことがあるのだ。


「……今日、バイトがある日だから、頼んだぞ。カレンダーとスマホ見れば分かるから」


「はぁ!? 何であたしが、そんなものを――」


「それじゃあ、頼んだぞ!」


 まだ向こうで何かを叫んでいる声が聞こえたが、俺はそこで通話を切った。

 薄情だと思われてしまうかもしれないが、すぐに切る必要があった。


 部屋の外から、こっちに近づいてくる足音が微かに聞こえてきていたから。

 その俺の判断は正しかったのか、すぐに扉がノックされた。


「おはようございます、お嬢様」


 透き通るような綺麗な声をした女性だ。

 この家に仕えている、メイドか。メイド喫茶以外のメイドなんて、まるでファンタジーだ。


「お、おは、おはよう、えっと……おはよう!」


「……?」


 明河崎に成りきろうとしたものの、普段のあいつをあまり知らないし、上手く声が発せずしどろもどろになってしまう。

 そうして、怪訝そうな表情をしたメイド服の美人な女性が部屋に入ってきた。


「それではお嬢様、お着替えのほうをさせていただきます」


「はぇ!?」


 メイドがぺこりと頭を下げたかと思うと、俺の服を脱がし始める。

 そ、そうか……お嬢様だから、着替えはいつもメイドにやってもらっているのか。

 それくらい自分でしろよ、くそう。


 身体を見てしまわないように、天井を見上げながら着替えが終わるのをひたすら待つ。

 時間にするとほんの数分もなかったと思うが、俺には何時間のようにも感じられた。


「お嬢様、朝食ができております」


「あ、うん、分かった。ありがとう」


「ありが、とう……?」


「ん?」


「い、いえ。お嬢様がわたくしにお礼を言ってくださるなんて珍しいなと。そ、それでは」


 慌てたように再び頭を下げ、メイドは部屋から出ていく。

 ……何となく想像はつくが、あいつメイドにもお礼ひとつ言わないのか。

 お嬢様だからって、あんまり甘やかしすぎるのもよくないな……。


 元に戻れるまで明河崎の姿で過ごすことにしたのはいいものの、全く成りきれる気がしない。

 まあ、大して仲良くもない男と入れ替わっているなんて誰も思うわけがないし、バレたりはしないだろう。


 そんなことを思いながら、部屋から出る。

 長い廊下に、いくつも並んだ廊下。

 広すぎて、思わず絶句してしまう。

 ……リビングって、一体どこにあるんだ?




 彷徨うこと、十数分。

 ようやく、俺はリビングに辿り着いた。

 大きくて長いテーブルに、とても美味しそうな朝食が並んでいる。

 俺なんて、朝は食パン一枚か、何も食べない日だってあるくらいだったのに。


 本当にいいのか不安になりながら、おずおずと食卓につく。

 そして、ゆっくりと料理を口に運ぶ。


「……っ!?」


 ほっぺが落ちるなんて表現、よく分からないし共感なんて今まで全くできなかったが。

 ああ、そうか。まさに、こういうことか。


 今まで俺が食べてきていたものは何だったのかというほどに、凄まじく美味だった。

 美味しすぎるあまり、料理を口に運ぶ手が止まらない。

 そして、あっという間に完食してしまった。


「ふふ。いつも以上に素敵な食べっぷりですね、お嬢様」


「えっ? あ、ああ、ちょっとお腹が空いちゃってて……」


「いえ、美味しそうに食べてくださってありがとうございます」


 思わずこっちも「こんなに美味しい朝食をありがとう」と言ってしまいそうになったが、すんでのところで留まる。

 きっと、明河崎はそんなこと言わないだろうから。


 だから、俺は代わりに別の言葉を紡ぐ。


「あのさ、俺……じゃなくて。あたし、これからちょっと出かけてくるから」


「お、お一人で、ですか?」


「そ、そう、よ。だ、大丈夫、ちょっとだけだし、すぐに帰ってくるから」


「……承知しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 頭を下げるメイドに見送られ、俺は大きな家から出た。

 庭も広すぎて、本当にこれが家なのか疑わしくなってしまうレベルだったが。

 記憶を頼りに、自分の――志島龍輝の家へ向かう。


気になることがあったからというのも当然大きな理由のひとつだが、あまり長い間メイドたちと一緒にいたくなかった。

 すぐにボロを出してしまいそうだし。


 そうして俺の家に辿り着き、少し緊張しながらインターホンを鳴らす。

 しばらくドアの前で待つも、出てくる様子は全くない。


 ……昨日、一応電話で言っておいたが。

 あれだけ嫌そうにしていたのに、バイトに行ってくれたのだろうか。

 でも今更ではあるけど、お嬢様のあいつにバイトなんてできるようには思えない。


 だから、今度は俺のバイト先へ向かった。



     §



「うう……! 何で、あたしが、こんなことをぉ……!」


「おい、一人で何ブツブツ言ってる! 口より手を動かせ!」


「くっ……」


 バイト先にやってくると、そんな声が聞こえてくる。

 誰の声なのかはすぐに分かった。

 見慣れた俺の姿が、上司に叱咤されて渋々といった様子で手を動かしていたのである。


 俺のバイトは、工事。

 かなり肉体労働で、慣れないうちだと大変な仕事だろう。

 現に、俺も最初のうちはキツくて毎日嫌になるくらいだったし。


 ……と。そんな風に少し離れた位置から眺めていると、やがて俺と目が合った。

 正確には、俺の身体の明河崎と。

 途端、目を吊り上げてこっちに近づいてくる。


「あんた! 志島ね!? このあたしに何やらせてんのよ!」


「……それでも、一応バイトに来てくれたんだな」


「なっ……しょうがないでしょうが! イヤイヤよ、早く元に戻しなさい!」


「だから無茶言うなって! 俺だって早く元に戻りたいんだから!」


「むきー! というか、あたしの身体でそんな口調やめなさいよ!」


「それはこっちのセリフだ!」


 全く、こいつと口喧嘩が絶えないのは、お互いが入れ替わっても変わらないようだ。

 しかし、そこで俺……というか明河崎が、何やら口角を少し上げた。


「……けど。あんたの身体、意外とあんまり疲れないし重いものも持ててすごいわね……」


「……はぁ?」


 原因も不明だし、いつ元に戻れるのか全く分からないが。

 今はまだ、お互いの生活を満喫してみるのもいいのかもしれない。


 今後ずっとこいつの身体でいるのは、さすがに御免だけど。

合作「俺になった高飛車様」

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