鬼神社の伝説
Added 2019-02-02 15:09:33 +0000 UTC「今日から、みんなのお友達になる王金享雅くんだ」 「王金です、よろしくお願いします!」 「よろしくね」「歓迎するぜ」。そんな声が和気藹々と聞こえてくる教室。 県立男牙小学校4年2組に転校生がやってきていた。 その転校生の少年の名は王金享雅。都会で暮らしていた彼だが、両親の転勤によってこの学校へと転校してきた。 (僕、ちゃんと上手くやっていけるかなぁ……) こうして、王金少年の新たな生活がはじまろうとしていた。 で、その結果といえば、彼はその歳ながらの順応性もあり数ヶ月にも満たない期間で新しいクラスメイト達と打ち解け、歴としたクラスの一員へと躍進した。 しかし、彼の新たな生活がはじまるのは、これよりもうすこし先の事であった。そしてそれは、彼も、彼らも、予想だにしない切っ掛け。日常からはじまる、非日常。 ―――― 「享雅ー、一緒に帰ろうぜ」 「うん」 享雅は、いつものように、友達になったクラスメイトの浅西一夫と下校する。黒のランドセルを背負うと、扉の前で待機している一夫の方へ向かっていった。 そんな時、それを遮るようなひと声がする。その声は享雅と一夫の鼓膜を揺らした。 「ちょっと、浅西くん! 今日は実行委員の仕事があるでしょ。『折り返しの場所に丁度いいところがある』って言ってたの、浅西くんじゃない」 その声の主は、一人の可憐な少女。一夫同じく、クラスメイトの小川みどりであった。 「あ、そうか、そういえば……」 一夫とみどり、この二人に共通点があるとすれば、肝試し大会の実行委員ということである。 それは、この学校にて一年に一度ある宿泊学習という行事内のプログラムのひとつであった。 男女二人でペアを組み、学校から折り返し地点までカードを持ってくるという、肝試しとしては月並なものであったが、小学生には新鮮な体験であることには変わりはなかった。実行委員になった一夫は、『肝試しにぴったりな場所を見つけてやる』と張り切って臨んでおり同じ実行委員であるみどりとその場所について相談していたのである。 享雅もその話は小耳に挟んでいた。だから、今日は一夫をみどりに預けて一人で帰ろう。そう思い、再び置いたランドセルを担ぎ上げ、「またね」、そう口にしようとする。 「おい、せっかくだから、享雅も来いよ。お前はまだあそこ来たかどうかは知らないけどさ」 「えっ?」 一夫のその言葉につられ、享雅は、一夫・みどりと、その場所へと共に向かうこととなった。 そして、その選択が、享雅にとって、最も不幸で最も幸運な選択になるとは、この時誰も予想だにはしていなかった。 ―――― 「ここだよ」 ふたりが一夫に言われるがままついて行ったそこは、近所の神社だった。転校した享雅は知らなかったが、この神社には昔から言い伝えられている伝説があった。 「鬼神社じゃない。確かに、ここなら雰囲気は良さそうだけど……」 「鬼神社? ここそう呼ばれてるの?」 みどりの言葉に反応したのは、やはり享雅だった。「鬼」の銘を持つその神社が特異に映るのは、その土地に所縁のない者ならば、当然の反応であろう。 「ああ、そういえば享雅くんはここに転校してきたんだもんね」 「じゃあ、俺が教えてやるよ!」 一夫は、得意げにこの神社のことを話し始めた。ここは本来の名前は沖邦神社という名の神社であり、はじめは他の神社同様に神を祀っていたらしい。 数千年前、この都に悪い鬼が到来し人々を襲ったのだそうだ。その鬼は黒い肌と隆々たる筋肉の鎧を身にまとい、人々を恐怖に陥れた。だが、その脅威もすぐ去ることとなった。黄金の腰蓑を身に着けた真紅色の鬼が、暴れていた黒鬼を倒したのだ。そして、人々は弱った黒鬼をこの神社に封印した。そして、黒鬼を退けた赤鬼はこの都を救った英雄として神社に祀られることとなったのだった。これが、ここが鬼神社と呼ばれる所以である。 そして、赤鬼は身に着けていた黄金の腰蓑を神社に置いていくと、煙のように跡形もなく消えていったと言われている。その腰蓑は、この神社のどこかに保管されているらしい。そして、悪鬼が封印されし依代も…… 「まあ、こんな感じかな」 「そんなことがあったんだ……でも、ここをそんなことに使って、罰とか当たらないのかな?」 「大丈夫だって。そもそもその腰蓑も鬼を封印したっていう何かも伝説みたいなもんだしさ」 「ねえ、話もいいけど、準備もしておかない?」 「そうだな」 みどりに言われ一夫はランドセルから紙束を取り出す。それは、拙い字で作られたお札だった。 「神社からこの札を学校までまた持って帰って、全員学校に到着したら終わりって感じだな」 「じゃあ、それを置く場所を決めましょう。私は当日に机か何かを置くといいと思ってるんだけど」 「持ってく手間とかかかんだろー、なあ見てろ。それも俺に考えがあるんだけど……」 肝試しについて、話し合いを続ける一夫とみどり。そして、その話を端から見ていた享雅は、この時、便意を催していた。そして、とうとう我慢の限界を迎えると、享雅は重い口を開く。 「ねえ、ここ、トイレとかってないの?」 「何だ? うんこか?」 「はしたないわよ、浅西くん。トイレなら結構遠く行かないとないかも……」 「ご、ごめん! じゃあちょっと行ってくるね!」 享雅は、トイレを借りに近くの公園へと走って行った。それを見送った二人は、ふたたび肝試しの準備を進めることにした。 「王金くんが戻ってくるまでに終わらせましょう。で、考えってなに?」 「ここだよ、ここ。フインキ的にもバッチリだろ?」 一夫は意気揚々と指をさす。 一夫の向けた指の先は、神社の本殿の入口であろう扉だった。 「そこはダメよ! 本当に罰当たるわよ!? それと、フインキじゃなくてフンイキよ!」 「そっちはどうでもいいんだよ。罰なんて当たりゃしないって! それに誰も入らないからもし今日置いってっても誰も取りゃしないさ!」 「そういう問題じゃ……って、浅西くん!」 みどりの注意も気にせんとばかりに、一夫は本殿へと向かいその扉を開けてしまう。そして、何の恐れも抱かずその中へと入って行ってしまった。 「ちょっと、待ちなさい!」 みどりも一夫を連れ戻そうと、その後を追う。 みどりが本殿の扉を開くと、そこには二人がまだ見たこともないような空間が広がっていた。 小学生にはまだそこそこ広いと言えるその空間には、一つ、ひっそりと小さな神棚が置かれていた。そしてその近くには、ふたつの箱が存在した。 「へー、中はこんなんになってんのか」 「満足したなら早く出ましょう。なんかここ、嫌な感じがするの……」 「嫌な感じってなんだ? 全然そんなのしねーけど。ん?」 一夫は、小さな木箱に気がつくと、真っ先にそれに向かって歩みを進める。そして、何かを思い付いたような顔でみどりに提案した。 「そうだ。この中にお札入れようぜ。肝試し的にもバッチリの隠し場所だろっ!」 「ダメよ! そんなことしたら本当に罰が当たるわ! やめなさいって!」 「1日くらいならどうってことねーって! じゃあとりあえず開けんぞ、っと」 一夫はその箱に手をやると、蓋を開く。中を見ると、そこには何も入ってはいない空虚な空間だけがそこにはあった。一夫は、半分期待はずれという感情を抱きつつも、札を入れるのにはお誂え向きの状況であるとも考えた。 そして、みどりのランドセルの中の手作りの札を取るために、後ろを振り向く。 「よし、みどり、お前が持ってる札を……みどり?」 しかし、みどりは自分が予想していたのとは違う、ひどく怯えているような挙動をしている。そんな光景が一夫の目に映り、一夫はそんなみどりを怪訝に思った。 しかし、そんな疑問も、ひとつの恐ろしく低い声によって解消されることとなる。 それは、まるで地響きのような、ひどく嗄れた声だった。 「愚かな人間どもよ、感謝するぞ……」 「なんだよ、さっきの……え?」 ふと、一夫は先程の違和感を振り払うために再び前に向き直る。そこに映ったものは、異様なもの。そこに居ることはありえないはずの異形の存在だった。 黒い靄のような何かで形成されたそれは、人ではなく、まるで鬼のような形をしている。二本の巨大な角に、大きな体躯。まるで、というより、それは間違いなく鬼である。と言えてしまうであろうそれ。 一夫は、もしかして、自分はとんでもないことをしでかしたのではないだろうか。今になってそんな後悔が精神の隅々を侵そうとしていた。 「数百年に渡って封印されていたこの俺様を復活させてくれたのだからな」 一夫の悪い予感は、今暫定的に鬼と認識しているこの存在の発言によって確信に至ることとなる。 そうだ。これは鬼伝説の―― 封印された悪鬼そのものだ。 この闇の如くどす黒いシルエットからも、それが一夫を確信に至らせてゆく。 もはや、後悔以上のおぞましき何かが一夫の頭の中をグルグルと迂回していた。 「あ、ああ……」 一方のみどりは怯えて声も出せないでいた。 無理もない。本人は気丈に振る舞ってはいるが、教室のペットが病気で死んだ時には真っ先に声を殺して泣きじゃくっているくらいには年相応の女子なのだ。 こんな非現実的な状況に対応できるはずがない。 「お、おまえ……鬼、なのか?」 「ああ、そうだ。この姿だと見辛いか? いや、醜いと言った方がよいか? なら、お前らに見せつけさせてやろう。この俺様の真の姿を」 黒い靄が一夫たちの目の前に集まってゆく。それは不確定的な存在から質量を持った物体、否、人物として新たに形を造る。角も、髪も、目も鼻も耳も歯も、肉体さえも封印されていた昔そっくりそのままの姿で。 それは、とても大きな質量を持った異質な存在だった。その姿は、まさしく鬼と呼ぶにふさわしく、とてつもない威圧感を振りまきながら少年少女のそばへと近づいていく。 対する一夫は、全くといって動かない。いや、動くことすらままならないのだ。あの鬼の、瘴気さえ纏っているように感じるほどの姿に、怯えているのだ。 そんな一夫の事などつゆ知らずと言わんばかりに鬼は怯える彼の下へ近づいていく。そして、刃物にも劣らない鋭いその業物を聳えさせている自らの人差し指を、ちょん。と一夫の額に押し当てた。 「あっ」 一夫が素っ頓狂な声を、かすかにあげた。ずぶりと鬼の爪が額に食い込んでいるにも関わらず、血液すら一滴たりとも零れ落ちずにただ沈み込むのみであった。 一夫の額、いや、頭の中がかあっと熱くなる。その熱さは暖房や太陽などの生温い熱さではなく、地獄の炎のような、死すら甘んじて受け入れてしまうような、そんなひどい熱だった。それは本当にほんの一瞬ではあったが、弱冠10歳の少年の心を完全に折るには充分であった。 「感謝の印に、お前達には『鬼の烙印』をくれてやろう」 鬼はただ一言そう口にした。 額から指を引っ込めた後には、あたかも何もされていないかのようにいつも通りの彼の額が広がっていた。しかし、それは見た目だけの話。彼は烙印を押されたのだ。此の鬼が行使できる鬼の烙印を。 「ひっ……」 刹那、一夫が甲高い悲鳴を口にした。音もなく露わになったのは、青い色をした突起。小さな角のような物体が、一夫の髪の生え際近くにふたつ生えていた。 「や、やだ……なんだよこれ……」 「い、いや……一夫くんに何したの……」 怯える二人の人間を見ながら下卑た笑い声を響かせる黒鬼。ずしり、ずしり。と木の床を踏み抜かんとばかりに足音を響かせ歩みをはじめ、たった三歩でようやく声を絞り出した少女の下へと近づいた。 「げひひひ。何って、あいつを俺様の仲間にしてやろうと思ってな。鬼の烙印を押された人間はな。だんだん身も心も鬼になってくのさ。俺様と同じ、暴力と支配と色欲に忠実な鬼になぁ」 そして一夫と同じようにみどりにも、鬼の烙印を押した。みどりはなすすべもなく地獄のような熱さを受け入れてしまった。 みどりの額から指を引っこ抜くと、笑いながら動けない二人を両手で担ぎ込み外へ連れ出した。 「げひひ、げひ。お前らがどんな鬼になるのか楽しみだなぁ。ああ、楽しみだ!」 外へ出た鬼は、子供二人を石の床に放り投げると胡座をかき、虎視眈々と二人が変わりゆく姿を笑いながら観察しはじめた。 単なる小さな突起だったものは少しずつではあるが直立しその質量を確固たるものへと変質させる。ものの数秒、それだけの単純な時間で“のようなもの”が“そのもの”に変わっていく。そう、額に生えているその二本のものは紛れもなく角であった。一夫本来の肌の色とはとてもではないが違う、空のような、海のような真青だった。 「うそ……だろ……」 うそなものか。 元凶はそう言いたげな顔をして不気味に微笑む。 その人間の肌の色としてはあまりにも異質であるその青が身体のほぼ全てを構成する色素として広がってゆく。 気がつけば、あっという間に一夫の全身は角と同様の青へと変貌を遂げたのだった。 「驚いたろ? でもまだまだ変わるところがあんぞ。まあもう抵抗なぞできんだろうがな。そうだろ?」 鬼はちらりと一夫のほうに目をやる。その一夫といえば、何故か変貌をした身体に嘆こうともしていない様子だった。 一夫は自らの変貌に対して驚愕の表情を浮かべていたはずだった。しかし、笑う鬼の横に座っている今の一夫は顔が情けなく緩み目はうつろな方向を見ている。そんな、明らかに異様な状態なのだ。 みどりは、明らかに今の一夫は普通じゃないと判断できた。さっきあの黒鬼に押された『烙印』のせいなのだろうか。 「あっ、ううう……」 一夫は呻き声をあげながらうずくまる。弱々しい声をあげながらも何か果てしない痛みに耐えるかのようにその身をよじらせていた。 「くっ……苦しい……」 一夫はそう小さく呟く。 「そうか。げひ、げひ。しかし、その苦しみは俺にはどうする事もできんよ。ただし、貴様にはそれができるがな」 一夫は小刻みにぶるぶると震えている。 その間に、ミチッ。と不思議な音が聞こえた。その音は一度だけではなく、秒を刻む毎に音量も回数も増えていく。その音とともに、プチリ。と何かが切れるような音も聞こえていた。 同時に、一夫の着ていた服に異変が起きていた。繊維が中央から糸状になり、半分に分割されていくのだ。 ズボンも同様に空気のまだらを作りながら裂けてゆく。 一方で一夫は、頭をふるふると振りながら何か呟いている。その首から下は、さらにとてつもない変化が起きていた。 「きゃああああっ!」 思わず悲鳴をあげたのはみどり。 無理もない。一夫の体がありえないほど膨張しているのだから。 膨張とはいっても風船の類ではない。 それは肉の、筋肉の膨らみだ。 一夫の体は、その年齢に似つかわしくないほどの、強靭な筋肉が生まれていた。その身をまったく成長させないまま。 つまりは、子供の体のまま筋肉だけが異常に発達しはじめたのだ。当然服はその変化に耐えきれずに布くずに変わっていく。 そのまま一夫の服だったものは誰も触れる事のないまま地に散らばってゆき、そのまま一夫は生まれたままの姿をそこに晒すこととなった。 「ふっ、ふっ……!」 一夫はそんな残酷な変貌を遂げたにも関わらず大きな息を不規則に吐くだけ。目は前どころか上を向いており、もはや自分にどんな事が起きているのかさえわからないのではないのか、そんなふうに思わせるほどにただならぬ様子となっていた。 チョロチョロとかわいらしい水音が神社内に響く。情けなく足をおっ広げ尻を地につける一夫の姿を見て黒鬼は愉快そうに笑っていた。 「げひっ、お前は小鬼か。運がなかったか、それともお前がそんな鬼にしかなれない器だったのか。どっちかねぇ」 「やめて……一夫くんを助けて!」 悲痛に叫ぶみどりの声など黒鬼には聞こえてはいなかった。当然一夫が奇跡的に元の姿に戻るなどということもなく無慈悲な変身は続いた。 爪と耳は尖り髪の毛は薄茶色に変色し逆立つ。幼い容貌をかき消すように吊り上っていく目。唾液をとめどなく溢れさす口から生えていくのは鬼の牙。 眉が全て抜け厳つくなった一夫の顔にとどめと言わんばかりに皺が増えていく。今の彼が十歳の小学生だったとは思われないだろう。 名残があるのはその体の小ささだけで、顔面すら良くて三十歳の男だと思われかねないほどだ。 「う、うぐっ、ほふっ、ほふう……」 ざわざわとつるつるだった肌に黒い毛が生えていく。普通ならばあと数年はかかるであろう陰毛もこの数分で立派に生え揃ったのだった。一夫はあいも変わらず息を吐いているだけだが。 立派に発達した胸筋にはぷっくりとした肉の芽がこれでもかと謂わんばかりに主張している。鬼はそれを見て「これはこれはご機嫌なこって」と笑う。 朦朧とした意識の中で一夫はふと下を向く。するとそこには唯一子供の頃のままであった自分の逸物があった。 それをまじまじと観察していると、一夫は頭にもやがかかったような感覚に陥った。同時に胸が締め付けられるような苦しみも襲う。 それと同時に一夫の逸物が血管を浮き立たせはじめる。二倍、三倍と、その体積を増やしていくそれ。それを包んでいた“皮”もその膨張には対応しきれず、あっという間に一夫の芽は立派な茎へと成長を遂げた。 「何だこれ、変な感じ、嫌なのに……」 一夫は小さくそんな台詞を吐く。突起した喉仏から絞り出されるその声は老人のようにしゃがれていた。 「上か下か、どちらかを触ってみな。げひひ、きっと、いい気分になれるぞ」 黒鬼の言われるまま、一夫は胸部の突起に指をかける。その瞬間一夫の脳内には甘い痺れのようなものが巻き起こる。 もう一夫は戻れはしなかった。 「げっひゃっひゃひゃ! 乳抓っただけで逝くとはなァ! まったく愉快なもんだぜ!」 一夫の周囲に、あたかもスライムのような真っ白なゼリー状の塊が撒き散らされる。両手で肉の突起を摘み捻るとそれだけで脳がスパークを起こし逸物の栓が決壊してしまう。 だらだらと垂れる涎がさらに逸物の刺激を高め、一夫の精通を促進させていく。 「んぐっ、んぐぐぅ!」 一夫は逸物から精が吐き出されるたびに、頭の中の思い出や自分らしさが段々と抜けていってしまう感覚に陥った。そしてそれは思い込みでもなんでもなく、紛れも無い事実だった。 一夫の少年としての「全て」は、強烈な臭いを放つ白い精として吐き出されているのだ。 一発出す度に小学4年生の少年である浅西一夫の精神は精と同化して排除されていく。 (何だこれっ、気持ちいいっ) (乳首、気持ちいいっ) (ちんこ、気持ちいい) (で、出るっ! 何か出るっ!) (おしっこ……じゃない。なんか、白いの) (この白いの、すげえくっせえ……) (でも、なんか、これくせえのに……) (いいニオイ……) (やべえ、これ嗅いでると、なんか頭がおかしくなる!) (俺が、よくわからなくなる!) (ここ、どこだっけ……何で俺、こんなところでちんこ触ってんだ……) (何で俺、ちんこ触ってんだっけ……) (あ、思い出した) (触ってると気持ちいいからだ) (これ触ってると、おしっこ。じゃなくて魔羅汁出るからだ) (汁と一緒に、いらねえもんも出ちまうからだ) (出ちまう? 出ちまうってなんだ?) (出ちまえばいいじゃあねえか) (だって気持ちいいんだからよう) (あれ? なんで気持ちよくなってんだっけ? なんか忘れてるような……) (でも、気持ちいいから、いいよな。ま、また出る! もっと出ちまうう!) 少年の葛藤虚しく、浅西一夫を浅西一夫として形成していた“何か”は、無慈悲にもただの精液として地面にこぼれ落ちていってしまった。 そして――おびただしいほどの量の精が一夫の逸物から出終わったその時、一夫はようやくその意識をはっきりとさせたのだった。 「ありゃあ……俺様、何してたんだっけ……」 ただし、もう今の彼は小学生の人間ではないのだけれど。 「あっ……ああ……」 みどりはその異様な時間を声を殺して見ていることしかできなかった。さっきまでクラスメイトだった男子があいつと同じ鬼の姿にされてしまったのだ。ただの女児であるみどりにはそのショックは強すぎるどころでは済まない。 そして、『烙印』を押されたのは一夫だけではない。自分もそうだ。自分ももうすぐ一夫みたいになってしまう。それに気づいたみどりはもう涙を流すことしかできなかった。 「王金くん……王金くんは……こないで……鬼になっちゃだめ……」 そう言いながら泣いているみどりの指先が少しずつ変化する。彼女も鬼になるのだ。黒鬼に『烙印』を押された以上、それは避けることのできないことだった。 爪が獣のように鋭く伸びると、そこから根元に違う色が広がっていく。みどりの体は、その名に恥じぬかのような全身真緑色に染まる。その変化は無慈悲に進行していった。 「いや、いやあぁ……んぐっ」 嗚咽する暇もなく違和感を覚えみどりは口を塞ぐ。乳歯が。さらに、生え変わってきた永久歯までもがその役目を終えたかのようにひとりでに落ちていくのだ。そして代わりとして新たに女児に似合わぬ鋭い牙たちに生え変わる。みどりは人間から少しずつ鬼へ変わっていく。 「あ゛っ!?」鋭い痛みがみどりを襲う。頭上からびきびきという音と共に白い一本角が生えてきた。段々とみどりは鬼になっていく。あの地面でにやけている元一夫のように。 「げひひぃ……」 黒鬼は涎を垂らしながら笑い続ける。これから起こる事を想像したら唾液が止まらないのだ。それに呼応して下半身の逸物もビンビンだった。 「やっ……あん、いやぁ……」 力なく喘ぎ出すみどり。身体中を駆け巡る未知の感覚の遣り場がないのだ。しかしその感覚は新たな力となりみどりの肉体に還元される。今その時がやってきていた。 「ーーッ!?」 その時みどりがあげたのは声のない悲鳴だった。みどりの体が急激に膨らんだのだ。それは主に胸部と臀部であった。しかもそれは女性としての成長ではなかった。それは乳房ではなく胸筋だった。尻は丸く大きく成長せず堅く筋肉質に成長した。その変化はどう見ても女性としてではなく男性としての変化であった。 小川みどりは「男」になるのだ。 「残念ながら鬼は不死身で故に繁殖もしないのでね。雄しかいないのだよ。雌に鬼の烙印を押したことは幾度とあれど、それらは全員雄に変わったぜ。げひっ」 「きゃあああああああ!」 悲鳴をあげながら膨張していくうら若き乙女の体。乳は豊満で強靭な胸筋に。なだらかな腰は幾度にも割れた腹筋に。脚は巨体を支えられるよう丸太のように成長した。 「あああ、おっ、んおおおおっ、ぐうううう!」 喉すらも血管を張り巡らせながら横に膨らむ。その度にか細い高い声が地響きのような低音に変わっていく。その様子はさながら徐々にピッチが切り替わっていく音声のようであった。 「やめでえ、あだぢ、ごんな声じゃ゛」 無理矢理声を保とうとして発声した結果、喉を締めたようなガラガラ声がみどりの口からは出ていた。長かった艶のある黒髪は無惨にも抜けてしまいぼさぼさの短髪になってしまっていた。 数分もしないうちにみどりの姿は2mもある緑色の肌の大男になっていた。 抜けた髪のお詫びと言わんばかりに胸や脛、股間や腋に至るまでぼうぼうとした縮れ毛が生えていく。しかしそれはみどりの女性としての姿をさらに遠ざけるものとなってしまったが。 「ひぎい……うがあ……ぬうう……オマタが熱い……なんか、ヌルヌルしたものが……」 低い声で唸るみどりの膣には、何やら粘液に塗れた突起が顔を覗かせていた。それはチーズのような悪臭を漂わせその体積を少しずつ増やしていた。 ずる、ずると前へ上へせり上がっていくそれ。それは、その特徴のある形状の先端は、陰茎であった。どこからどう見てもそれは男しか持つことのない生殖器だった。 「やだ、おぢんぢん生えてるぅ……やめてえ……」 体をくねらせて拒否するみどりだったが、その姿はどう見ても男がふざけて女の振りをしているようにしか見えなかった。 そんな間にも陰唇すらも歪に膨らみ出しそれは質量を持ちふたつの物体と化した。それは陰嚢であり玉袋である。男性としての遺伝子を送り込むための器官は完成しつつあった。陰嚢の中に精巣が確立するとすぐさま繁栄のために精液を作り出す。鬼にとっては生殖が必要ないにも関わらずだ。彼らにとっては繁殖のためというよりも、快楽を貪るための名残なのだろうか。 「おちんちん、生えちゃった……いやっ、こ、こわ、気持ちいいよぅ……」 みどりの中の嫌悪や恐怖という感情は、急速に作られる精子の快感により快楽に全て変換されてしまう。顎は大きくしゃくれてよりむさ苦しく、口許や顎にはぼうぼうに髭が生えさらに雄臭さを増した気がする。 みどりは完全に見た目は男の鬼だった。何故か無意識にダブル・バイセップスのポージングを行なっておりもはや仕草すら女性のかけらも見られなかった。 「いや、いやア゛ッ!」 快感で持ち上がったみどりの逸物は、地を割るかのような声と共に精を発射した。女性にして精通を経験してしまったみどり。そして一夫のように精ごとみどり自身が抜けはじめた。 「ふあぁ、あががが、ぎぃっ」 針山のごとく尖った歯を軋ませ快感に喘ぐみどり。その喘ぎ声はこの雄の鬼が昔は小学生の女子だったなどと思われないであろうものだった。 (嫌あっ) (あたし、鬼になっちゃう) (やめてっ、出ないで!) (おちんちんが気持ちいいのお!) (汁が、汁がね、ぬるぬる滑って気持ちいいの!) (これが男の子の気持ちなの!?) (胸が締め付けられる!) (苦しいよお!) (なくなっていくよ!) (汁が出るたびにあたしじゃなくなっていくの!) (儂になってくのぉ!) (儂のデカ魔羅から汁吹くたびに、儂から儂がなくなってくの、出ちゃうのよ!) (出ちゃダメ! 誰か助けて!) (儂、女なのに、これ以上出ちゃったら儂は女じゃなくなっ…………ちまう!) (儂は小川みどり、小学校4年生!) (魔羅がすっげェ気持ちいい小学生!) (こんな気持ち初めてだわ! 最高だ!) (頭ん中淫乱になってくぞ、儂の頭の中段々新たな知識でいっぱいになってくぞ!) (魔羅、筋肉、接吻、尻穴、淫行、金玉、強姦、支配、色々なモンが儂の中に!) (最高だっ、最高じゃああああ!) (頭に何かを詰め込まれてんのに何故かすっきりしていくわい!) (これなんじゃろな?) (そうじゃ、逝く度に儂が儂になっていくんじゃ! 楽しいわい、気持ちいいわい!) 涙を流しながら、それでも快楽に顔をにやけ面に歪ませながら、小川みどりは雄の鬼になった。 「ふう……それにしても、公然の前で曝け出す淫行は格別じゃのう……それで、あんたら一体誰じゃ?」 我に帰った元みどりの足元には大量の精液が散らばっていた。 小学生2人はものの数十分で鬼の烙印の呪いを完遂してしまった。 「げひひひい! 先ずは二人の餓鬼を眷属に堕としてやったぞ。厠に行ったもう一人の餓鬼はどうしたかな……」 「んっ!?」 そう言うと黒鬼は緑鬼の尻を掴んでいた。 ぎらぎらとした眼で緑鬼の穴を指に差し込み始めていた。 「お前さん……何をしておる? お主も鬼のようじゃが……」 「俺はお前らのご主人様だ。いいから俺に犯されやがれ」 グリグリといきり立った金棒を押しつけながら黒鬼は嗤う。尻を刺激される感覚に緑鬼は小さな声で喘いでいた。 ずぷり、と液が滑る音がして同時に緑鬼の喘ぎ声が響く。ずちゅずちゅといやらしい音をたてながら黒鬼の金棒は緑鬼の洞穴を着実と掘り進んでいった…… 「気持ちいい、気持ちいいぞ、ご主人! 儂、こんなの初めてじゃあ。逝っちまうぞぉ……」 大声で叫ぶ緑鬼。黒鬼はその勝手な口と尿道を両手で塞ぐ。 「まだ逝くんじゃねえぞ。ご主人様より先に逝くなどということがあってはならんのだ。げひっ、げひぃ!」 そう言いながら涎と我慢汁を撒き散らす黒鬼。金棒は掘削を続け少しずつ秘宝に近づいていく。 「やべっ、すまんご主人、儂もう!」 「んおっ、ぎっ、締まる。締まるぞ! これならあと少し我慢すりゃあ、俺より先に逝かずに済むぞ!」 「あああ!」 「ひいい!」 再び鬼神社に真っ白な汁が撒き散らかされた。 ――その頃。 トイレを終えた享雅は二人のもとへ向かおうとし、そして一部始終を目撃し終わっていた。結果、享雅の心の中は恐怖で満たされた。一瞬で二人のクラスメイトが鬼と化したのだ。恐怖しないほうがおかしいだろう。 「に、逃げなきゃ。いや、助けなきゃ……いや、やっぱり隠れなきゃ!」 享雅は性交に勤しむ鬼達から離れ近くにあった小さな蔵へと身を隠すことにした。幸い鍵は開けられており容易に中に入ることができた。 (せめて今はここに隠れられる……でも、僕だけが助かっちゃう……僕はクラスメイトを見捨てた最低なやつだ……でも、僕だって怖いんだよ……) 蔵の中で恐怖に囚われ震えることしかできない享雅。しかしクラスメイトが鬼にされて謎の黒い鬼に犯されている様子を見てただ逃げることもしたくなかった。しかしただの子供の自分にはどうしようもない……享雅の目に涙が零れた。 「……え?」 その時、享雅は声を聞いた気がした。 何か、知らない声が。 低く、それでいて父親のような優しく安心感のある重厚感のある声を。享雅の耳には聞こえた気がした。 しかし、蔵には誰もいないし目ぼしい道具も置かれてはいなかった。 金色に光り輝く箱以外には。 「箱が、光ってる……?」 享雅は光る木箱を開ける。そこには金の糸で作られた腰蓑があった。顔を近づけると黴と何か納豆のような悪臭が漂った。 「臭い! でも綺麗だな……」 その時、享雅はある感情に陥った。 これを見ていると、何故か腰蓑を身につけたくなってくるのだ。 これを着ければ、この状況をどうにかできる気がして。いや、今着けないと何かが間に合わないとまで思えた。 享雅は考える前に腰蓑を身につけていた。 「ああっ!?」 その時、腰蓑が黄金の光を放ち、享雅の体が服を破りながら成長していった。 それは背を高くし骨を太くし筋肉と脂肪を着けていく。大きくなっていく体に小さい蔵は入りきらない。そう本能的に察した享雅は一目散に蔵から飛び出る。 その間にも頭頂部には金色の二本の角が生えていく。歯が鬼の牙に生え変わる。かろうじて体にくっついていた服の残滓のぼろきれが粉々に四散する。 気がつけば、享雅は金色の腰蓑のみを身につけた赤い肌の鬼になっていた。二人のクラスメイトのように。 「この体……ぼっ、僕も、鬼になって……」 そう言い終わる前にいきり立つ魔羅によって思考は妨害される。腰蓑をはみ出して頭を見せているそれはびきびきと血管を張り巡らせ我慢汁を垂れ流している。 「嫌だよ……僕まで鬼になったら!」 (鬼になるのが嫌か? それならば儂の腰蓑を外すが良い) その時、享雅の頭の中に声が響いた。 さっき聞いた声と同じ声だった。つまり、この声が自分を呼んでいた声なのだ。 「さっきの声……君は誰?」 (儂はこの腰蓑の持ち主だ。悪しき黒鬼と共にこの社へ封印された名も無き鬼だ) 声の主はそう言った。 (今のお主の体は儂の体そのものなのだ。今お主は儂の力で儂そのものになっている) 「も、戻れるの?」 (今はな。戻りたいと願いこの腰蓑を外せば元の姿に戻れる。強制はせん。 しかしこのままでは手遅れになる。もしかしたらより後悔する選択となるかも知れん) 「……鬼になれば、一夫くんと小川さんを助けられる?」 (可能性はある。しかしその代償にお主は人間へは戻れなくなるがな) 「どうすればいいの?」 (……この姿の侭魔羅を扱き、精を出すのだ。さすれば儂とお主は同化し新たな鬼として生まれ変わる) 「戻れないんだよね?」 (ああ。射精した時点で頭の中も儂と完全に融合し定着する。腰蓑も外れなくなるだろう。 正直、儂はお主のような無垢な子を犠牲にするのは忍びない。今なら引き返せられるぞ。お主には未来がある。よく考えろ) 享雅は葛藤した。 鬼になるのならば二人を助けられるが自分は鬼になってしまう。 鬼にならないならば自分は人間のまま帰ることができるが二人は助からなくなってしまう。 自分はこの地方には馴染みのない転校生で二人とも知り合ったばかりの子達だ。それにまだ自分にはやりたいことがたくさんある。鬼になるということはそれを全てふいにするということでもある。 悩み抜いた結果、それでも享雅はそれしか考えつかなかった。 「んんっ、ああっ……」 (むっ、んっ! お主、本気なのだな……?) 「僕……はんっ、あうっ、このまま逃げるくらいならっ、ああっ、鬼になった方がいっい! 二人をっ、助けたい!」 (よかろう。儂と一つになろう。儂の力を全てくれてやる。あの黒鬼を再び封印するのだ) 「ああっ、気持ちいい! 出る! 出るんだね! 僕、鬼に、鬼にぃ!」 (あっ、あぐうう! 逝く! 儂もそろそろ逝くぞお! さよならだ少年! これからはお主が儂だ!) 「僕、儂、鬼になるうううう! イグゥ!」 金の衣に白い奔流が巻き起こる。 ――こうして赤鬼が復活した。 ――。 「ひひひ、緑鬼め、お前なかなかやるじゃないか。俺様程ではないがな」 「お主もな。丁度良い魔羅の大きさじゃ。ちびの癖にやるではないか」 「図体のでかいだけのじじいには負けてねえの、ヒヒッ」 その頃、さらに精液を撒き散らした社で青鬼と緑鬼が交尾を終え意気投合しているようだった。元々クラスメイトだったが、そうだった頃の名残がまだ残っているのだろうか。 「それにしても成り立ての精は本当に濃いな。まだ全て乾かんとは。これはこれで臭いが続いてとてもかぐわしいがな。げひひっ」 黒鬼は精液の臭いを嗅ぎながら悦に浸っていた。そして頭に浮かべるは自らが日本、否。世界を支配する予想図。 赤鬼封じられた今や自らを脅かす者はいない。あのもう一人の餓鬼もここに来次第鬼にしてやろう。そう考えていた矢先だった。 何者かに肩を掴まれたのだ。 なんだ? 盛りが消えぬ眷属どもか? 黒鬼はそう考える。しかし次にやってきたのは腹に目掛けて撃たれる拳だった。 「ぐふっ」 腹を殴られた黒鬼はつい息が止まる。 胃袋をかき回される痛みに膝をついてえづく。 「けへっ、かはっ」 「儂の友達を返してもらうぞ!」 黒鬼の目の前に立つ真っ赤な体の鬼は大木のような脚を諸悪の根源の邪悪な幹と実を潰すべく振りかぶった。 「ゲ」 ぶぎゃっ、と嫌な音がした。それは鬼ですら悶絶する痛みだった。 「あ、が」 押し倒され尻を突き上げた体勢にされる黒鬼。そのまま尻穴に前戯もなしに突っ込まれた! いきり立つ赤鬼の金棒に! 「あがあああぁ、おごおおおお!」 「犯される者の痛みを知るがいい、黒鬼!」 「げ、貴様は赤鬼! 貴様は封印されていたはず……」 「少し違うな。儂は王金享雅! 嘗ては小学生の男児だった鬼だ」 「な、なんだとぉ、うごっ! ぐ、ぐそぉ、犯る前にこいつもっ、鬼にしとくべきだったあ……ぐげええええ!!」 「中に出すぞ。そして再び儂の精により永遠の眠りにつくがいい!」 「ふざけるなぁ! げげげ、げげごごごご、やめっ、やめろおおおおお!」 赤鬼は雄叫びをあげ黒鬼の中に封印の精を解き放った。断末魔をあげた黒鬼は、真っ白な小さな塊となり地面へ転がった。 悪しき黒鬼はふたたび封じられたのだった。 ――黒鬼だった塊を箱に仕舞い札で二重の蓋をすると本殿にそれを戻した。 「……さて」 享雅は主を失い茫然自失としている鬼達に目をやる。 どうやら鬼を封じても烙印を押された人間は戻ることはないらしい。しかしひとつになった鬼の記憶には、二人の魂をすくい出す方法が記してあった。 「んん……“一夫の臭い”はこっちだな」 地面に鼻を擦り付け精子の臭いを嗅ぐ享雅。そしてそのままそれを舌で一滴残らず舐め取る。 それを呑み込まないようにだらしなく開く青鬼の口に口移しで呑ませた。 それを何度も何度も繰り返し一夫が出した精を口移しで呑ませ続ける享雅。 数百回めの口移しが終わった後、今度は同じように緑鬼にみどりが出した精を呑ませていった。 (人間が鬼になる時排出した魂は、全て精子に封じられている。精液が乾く前に持ち主の体に戻すことができれば魂だけは再び元に戻る。 ただしそれでも人間に戻ることはできず魂が完全に復活するわけでもないらしいがな。寸分違わず戻すことができるのなら話は別だったが……多少乾いてしまった。完全には戻れんだろう。すまない……一夫、みどり) 享雅は二人を元に戻すためにこの行為を行っているのだった。吐き出させないよう舌を絡ませ強制的に呑ませる。途方もない程の作業だったが二人を助けることで享雅の頭の中はいっぱいで、それしか考えられなかった。 「仕上げに、定着の精を二人に注げばいいのか……よし、始めるとするか」 享雅は優しく二人を犯した。恋人を愛すように、伴侶と愛を育むように。絶頂が訪れ定着の精を二人に解き放った時、全てが終わった。 ―――― ――数日後。 男牙小学校4年2組。 「おはようさん」 「来たな」 「遅かったのぉ、もう少しで遅刻じゃったぞ。儂達が待っておるのだからもうちょっと早く来て欲しいぞ」 教室の扉を開けランドセルを担いだ赤鬼が登校してきた。金色の腰蓑をたなびかせながら。 その赤鬼を迎え入れる中学校の学ランを着た緑色の鬼と子供用の服を着た青色の鬼。 彼らは鬼になっても未だに小学生として学校に通い続けている。何故なら彼らは中身はまだ小学生のままなのだから。 「お父さんに大人用の服買ってもらって申し訳なかったなぁ」 「親父とお袋、俺様がこんな姿にされちまったもんだから卒倒してたな。俺様だって泣きたかったぜ。心は元に戻れたとはいえこんな姿になっちまったんだからよお」 「儂など老人の口調が治らん上に戸籍変えたり改名手続きしたりと大変だったんだぞ。みどりって女の子だったのに、今や小川緑ノ介という男になっちまった。前の服も着れんから兄貴の学ラン借りとるし」 「一夫もみどり……緑ノ介も儂のせいでこんなことになっちまって」 「いや、いいんだぜ。俺様達がこうやって学校に通えるのも享雅のお陰なんだぞ」 「親や学校に説明するのが大変だったわい……結局伝説を知ってる神主さんが信じてくれて色々と説明してくれたから良かったが」 「こっぴどく絞られたけどな」 他のクラスメイトは変貌した三人を未だに受け入れられていない様子であったが、見た目や言葉遣いは変われど中身は変わっていないのだ。そのうちまた打ち解けるだろう。 「肝試しの脅かし役、儂らになったんだっけか」 「っていうか俺様達で本当にいいのか? 本物の鬼だぞ、俺様」 「なってしまったもんは仕方なかろう。これも実行委員の勤めじゃ」 これからも三人の鬼は少年少女の心のまま永遠を生き続ける。 「なあ、二人とも……」 「今日も……儂の家に、来ないか?」 しかし、それでも三人は辛くはないだろう。 きっと―― ――完