SamSuka
Jin(鬼頭ジン)
Jin(鬼頭ジン)

fanbox


獅子舞から始まる変身の連鎖

「暇だなぁ……」  高校2年生の真泉志士郎はとにかく退屈していた。元々ものぐさな志士郎は寒い冬に外で遊ぶのも億劫で、やっているテレビも特に見たいものはなく、ゲームもあらかたクリアし終わり、家でゴロゴロと暇を持て余していた。 「そんなに暇なら倉庫でも整理してくれない?」  志士郎の母がそう言う。去年の大晦日に大掃除は済ませたが、そういえば家の倉庫はまだだったと志士郎は思う。しかし、あそこは埃臭く父がコレクションにすると勢いで買ってそれきりのよくわからない物も多く、好んで足を運びたいとは思わない。 「ハァ? あそこ整理しろって無茶言うなよ。あそこ何があるのか全くわからんべ?」 「だからっていつまでもコタツでゴロゴロしない! あんた、あとちょっとで大学受験でしょ!?」 「うるせえなぁ……」  母の小言が始まった。志士郎は母が小言を始めるとうるさいからな、とリビングを出る。家にいると面倒だ。そう思った志士郎は仕方なく倉庫の掃除を暇つぶしがてらにすることにした。 「さみぃ……」  マスクと箒を装備し、アタッチメントにバケツと雑巾を用意した志士郎は、しぶしぶ倉庫の掃除を始めた。中はやたら埃にまみれていて、見るだけで生理的嫌悪感を催すほどだった。  まず水をくぐらせた雑巾で埃が多いところを重点的に拭いていく。雑巾はあっという間に黒ずんでいき、その度にバケツの水で雑巾の汚れをリセットする。 「結構拭いたはずなんだけどなぁ」  ある程度、綺麗にした後は倉庫内を箒で掃いていく。それでも埃が舞って志士郎の喉を襲いにかかる。マスクをしていなければ即死だった――と冗談めいたことを心の中で思いながら志士郎は掃除を進めていった。 「よし、こんだけやりゃ充分だろ」  約3時間の作業を経て、志士郎は倉庫を見られる程度のレベルまで掃除を終えていた。父が買い込んだ妙な物々を綺麗に陳列してようやく志士郎の清掃作業は完了した。 「よし、家に帰るか……と、ん?」  志士郎は倉庫を出ようと戸を開けようとしたその時、倉庫の奥に何やら妙な視線を感じた。 「何だ?」  志士郎が視線だと思ったそれは、不細工な獅子の頭に唐草模様の風呂敷――獅子頭だった。 「獅子舞ぃ? んでこんなとこにこんなもんがあんだよ!?」  志士郎は倉庫で思わず叫んでいた。 「それにしても、何で家の倉庫に獅子舞が……まあ、親父これ以外にも変なのばっか集めてっしな〜……」  周りには獅子頭に負けず劣らず民家の倉庫に入っているとは思えないような異彩を放つ物品の数々が置かれている。怪しい店でも開いているのかと思うほどのラインナップだ。 「ま、あとで親父にでも訊いてみっか」  志士郎は父親へ話を訊くべく獅子舞を担ぐと家へと戻るのであった。  ◆  獅子頭を父に見せたところ、どうやら父が若い頃に獅子舞をやった時に貰ったものらしい。それが今でも倉庫に眠っていたということなのだ。 「もう使わないし、それお前が持ってていいぞ」 「いらねえよ!」  そんなやり取りをして父に半分無理矢理に獅子頭を渡された志士郎は一人ぼやく。 「こんなん貰って何になるんだ……被って踊りゃいいのか?」  志士郎はひとり獅子頭の歯をカチカチと鳴らす。獅子をかたどった真っ赤な顔と唐草模様の風呂敷というあまりにも月並みなデザインに思わず失笑する。 「それにしても不細工な面だな」  笑いながら獅子頭の歯をカチカチ鳴らし続けていると、なぜかこの獅子舞に愛着のようなものが湧き始めていた。見つけてからまだ数時間しか経っていないはずなのにだ。 「うーん、獅子舞って初めて見たけど、多分実際に被った奴ってあんまいねえんじゃないかなぁ……少しだけ、被ってみるか?」  この獅子頭を見ていると、いつしか志士郎はこの獅子頭を自分で被り獅子舞をやってみたい。そう思い始めていた。獅子舞は複数人の人間がいないとできないものなので、今はできなくとも試しに頭だけでも被ってみようか、そんな考えが志士郎の頭をよぎる。 「ははっ、何考えてんだ俺。獅子舞なんて……」  初めはそう言っていた志士郎だったが。この獅子頭を見ているたびに、彼の頭の中には被りたい、獅子舞になってみたい、という謎の感情が無限に湧き上がっていく。 「なんだこの獅子舞……どうして見てると被りたくなってくるんだ……こんなの絶対おかしいだろ!」  湧き上がる気持ちを必死に抑えようとする志士郎だったが、獅子舞になりたいという思いが頭を侵食して離さなかった。獅子舞から心を遠ざければ遠ざけるほど得体の知れない感情が志士郎の心の中を渦巻く。 「あああああぁああぁ!」  そしてとうとう、志士郎は獅子頭を自分の頭の上に勢いよく被せたのだった。視界が狭くなり鼻腔をつく獣の臭いが志士郎の脳内を支配した。 「はぁ……はぁ……」  興奮冷めやらぬまま肩で息をする志士郎。ヨレヨレのパジャマ姿に真っ赤な獅子頭という組み合わせがなんとも滑稽に見える。  その時、志士郎の体に異変が起こった。 「はぁ……あっ、ああっ!?」  志士郎は思わず声を上げる。身体中がかあっと熱くなりムズムズとしたくすぐったさを感じて志士郎は身悶える。身体の内から何か小さな炎のようなものが灯っていてそれが段々と燃え上がっていっているのだ。志士郎にはそれが何とも言えないような感覚なのだ。  それと同時に、志士郎の頭の中には何やら危機感――警告のようなものが鳴り響く。このままでは自分は、自分ではない何かになってしまう。本能的にそう確信していた。 「うおおぉ! やだっ、やめろっ!」  志士郎は両手を無意識に獅子頭に持っていった。それを自分の顔から引き剥がそうと必死になるが、それはいくら引っ張っても自分の頭から引き離されることはなかった。まるでそれが自分の頭そのものになっているかのようだったのだ。 「嘘だろっ……剥がれねえ……!」  いつしか頭の獅子には「感覚」ができていた。“それ”が物ではなく、それが生きている細胞のように暖かく柔らかく感じ、さらに触れた手の感触をダイレクトで感じられるようになっていた。 「な、なんだよこれ」  言葉を口にするたびガチン、ガチンと音が鳴る。志士郎の感覚では、その口は明らかに大きくなっていた。自分の頭が獅子舞の頭そのものになっている、という事実は到底受け入れ難いものであったが、まぎれもない現実だった。  しかし、志士郎の変化はこれだけでは終わらなかった。 「ああっ! やめろ! これイジョウ、カわったら、アアッ!」  強烈な音と共に着ていたパジャマが下着と一緒に弾け飛んだ。カラフルな布切れと化した自分の服に別れを告げる余裕も今の志士郎にはなかった。  次に、バキバキと音がして志士郎の体が、剛健な筋肉に覆われていった。骨も嫌な音を立てながら伸びて、背丈すら前よりも大きく変わろうとしていた。  大人顔負けのマッチョ体型になった志士郎の肉体を覆うのは先程布切れとなった衣服。しかしその衣服は朱色に変わり志士郎の肉体にピッタリと張り付く。いつしか志士郎のパジャマだったそれは、ヒーローのような全身タイツとなり志士郎の筋肉を彩ったのだった。  オプションとばかりに腕に白いグローブ、足に白い足袋、そして股間に真っ白な褌が装着される。最後に胸に筆で書かれた『獅』のマークがあしらわれ、背中に唐草模様のマントがたなびくと志士郎の変化は全て完了した。その姿は獅子舞のようなヒーローのような、よくわからない何かになっていた。 「ああ……嘘だ……こんなの……」  あまりの状況に思わず崩れ落ちる志士郎。しかし、さらにありえない事が起こるのはこれからだった。 「はっ!?」  ふと周りを見渡すと喧騒が聞こえてきた。志士郎はいつの間にか街のど真ん中で膝をついていた。さっきまで自分の部屋にいたはずなのに。一瞬でここまでテレポートしてきたかのようだった。 「あれ……俺、さっきまで部屋に……」 「獅子舞マン! おはよう!」 「ああ、おはよう……えっ?」  ふと子供に声をかけられて返事してしまったが、そこで自分が『獅子舞マン』と呼ばれていることに気がついた。 「あの、獅子舞マンって……?」 「獅子舞マンは獅子舞マンでしょ? 今日も街の平和を守ってね!」 「ああ、任せろ……って違う! そうじゃなくて!!」  子供の声に反応してつい口をついてしまう。まるで自分の中に自分でない何かが入るようだった。 「何でだよ! 俺は獅子舞マンなんかじゃ……」 「真泉?」  ふと自分の名前を呼ぶ声がして前を向くと、そこには歌舞伎役者の姿をした二人の男がいた。きらびやかな着物に白い髪と赤い髪。そして隈取りが引かれた白塗りの顔。それは紛れもなく連獅子という歌舞伎役者だった。 「は? 何でこんなとこに歌舞伎……それに歌舞伎の知り合いなんて……」  志士郎はもう一度彼らを見る。すると彼らがそうである確証もないはずなのに、その二人が学校の不良である赤崎と白石に見えた。何故学校でも悪名高い不良三人組が連獅子の格好を? と志士郎は思った。 「その格好、獅子舞と……ヒーロー?」 「助けてくれよ! お前真泉だろ! 俺らどうなっちまったんだ!?」 「えっ、白石、赤崎、何で俺が真泉志士郎だって」 「やっぱり俺らだってわかんのな! 俺らもそーなんだよ! 何故かお前が真泉に見えて仕方ねぇんだ! 面影全然ねーのに!」  とりあえず志士郎達は人影のない場所に移動し事情を話す。そこには獅子舞のヒーローと二人の連獅子というシュールな光景があった。 「獅子舞をかぶったら? そもそもなんでそんなもんが倉庫に……」 「俺らは、ついコンビニでいつものように商品パクってたら、逃げてる最中に服がこんなんになっちまって、髪や顔もこんなヘンなのに……」  どうやら正月早々万引きをしていたらしい彼ら。そこで志士郎は何か違和感がある事に気がつく。金子の姿がないのだ。不良三人組の一人の。 「そういや金子は?」 「あぁ! 忘れてたあいつのこと!」  白石はそう言うとコンビニのある方角へ走っていってしまった。赤崎もそれを見て白石の後を追いかけていく。志士郎は再び一人になってしまった。 「本当にどうなってんだ……俺だけじゃなくて赤崎と白石まで……もしかして金子も?」  志士郎は再び街を歩く。そんな時志士郎はふと見覚えのある人影を発見した。二人とはぐれた金子だった。 「あっ、金子! 金子は元のままだ。よかった……」  金髪坊主頭のいつもの金子の姿を確認した志士郎はほっと胸を撫で下ろす。しかしその安堵は一瞬のものでしかなかった。 「ちょっといいかな?」 「げっ……!」  その時、金子が警察官に声をかけられていた。万引きの様子を見つけられて通報でもされたのだろうか。 「警察だ……どうしよう……」  その時、志士郎は万引きをした金子を成敗したいという感情が心の中に芽生えたが、なぜ今そんなことを考えなければならないのかと考えを改めた。 「君、ちょっとポケットの中にあるものを見せてくれないかな」 「な、なにもないですよ……なにも……」 「だったら見せられるはずだよね?」 「あっ!」  警察官が金子のポケットをまさぐると、中からは小さな袋が出てきた。それは間違いなく金子がコンビニから万引きした商品だった。 「これ、店のものだよね?」 「ち、違いますよ! それ別の店で買ったやつで……」 「嘘ついてもいいことなんてないよ。正直に言いなさい」  金子がポケットに入れていたのは今学校で人気のカードゲーム。そのブースターパックだった。 「たかが200円ちょっとのために警察のお世話になるなんて、金子もバカだよなぁ」  と物陰からひとりごちる志士郎。するとその時、決して起きて欲しくなかった事が起きた。 「うっ!?」 「な、なんだ……!?」  金子と警察官の服が、スライムのように形を不安定にしていくと、ドロドロに溶けて二人の体を覆った。あまりの事態に抵抗することもままならない。そのドロドロになった服は蠢きながら色と形を変えていった。二人はその変化をただ受け入れるしかなかった。 「嘘だろ……金子まで変わっちゃうのか!?」  金子の服は袴に、警察官の制服は山伏の法衣に変わっていた。 「嘘だろ……俺の服が!」 「なんだこれは……一体どうなって……」  その変化に二人はただ驚愕する。しかし変化はそれだけでは終わらなかった。 「がっ!?」  ゴキゴキと嫌な音がすると、二人の体は人間からその姿を変えていく。  金子の体からは白色の産毛が次々と生えて身体中を覆う。鼻は長く伸びて耳は上に移動し尻にチョロリと可愛らしい尻尾が生える。  背はみるみるうちに縮んでいき小学生と見紛うほどの背丈になってしまう。同時に前歯が発達し頬に長く細い髭が生えると金子の変化は完了した。  同じように警察官も身体中に黒い毛、いやそれは羽毛だった。それが全身を覆い尽くすと足が段々と細くなっていき鉤爪になってしまった。仕上げと言わんばかりに口が突き出し硬さを増していく。顔に残ったのは真っ黒な嘴だった。最後に背中から黒々とした翼が生えると、警察官の変化も完了していた。 「カ……カラスになっちゃった!?」 「ネズミの、子供……? 今年が子年だからって……そんなのありえない」  金子は袴を着た白いネズミの子供に、警察官は法衣を身に纏った烏天狗に変身した。自らの変化に驚く二人だったが、いくら驚いたところで変身した体が元に戻ることはなかった。 「次々といろんな人間が変身してる……一体どうなってんだ今日は……!」  とりあえず今於かれている状況を共有するため、志士郎は金子の下へ行こうとする。しかしその行動は絹を割いたような声により中断された。 「ひったくりよ! 誰か捕まえて!」  その女性の声を聞いた時、志士郎の肉体は無意識にピンと直立する。そしてそのまま踵を返して猛烈に走り出した。目的の場所と全く逆の方向に。 「体が! 言うことを……俺は金子のところに行かなきゃ! 嫌だ!」  志士郎の意志は『獅子舞マン』の使命にかき消され、自らの肉体を制御することも叶わなかった。 「お、俺ら一体これからどうしたらいいんですか!? 俺一生ネズミの姿でいるなんて嫌だ!」 「俺もこんな姿は困る。万引きしたこと自体は後で聞く。今は戻ることを考えるんだ」  はじめは事態をどう収拾するかを考えていた金子と、警察官――もとい巡査の黒羽だったが、顔を見合わせまじまじとその姿を確認するたびに、二人には言い知れない感情が芽生え始めていた。 「君……よく見たらかわいいじゃないか。どこか神聖で……愛らしい見た目をしている」 「あなたもかっこいいです。黒くて凛々しい顔で……あれ、俺はなんでこんなことを考えて……あなたとは赤の他人のはずなのに」  口に出していてむず痒くなるような文句をつらつらと述べる二人。いつしか金子の袴の中の逸物は固く屹立し、股間をふっくらと膨らませていた。 (……おかしい。なんだこの感情……) (今すぐこの彼の袴を下ろして、中のチンコを触りたい……いやダメだ! そんな行為警察官として許されざる……でも……) (触りたい……) (しごきたい……) ((射精したい))  金子と黒羽は、お互いの袴をずり下ろすと逸物を露わにした。ピンクの可愛らしいモノと、赤色の肉穴がそこにはあった。  それを見た途端、二人の劣情は爆発した。金子は黒羽の穴に指を、黒羽は金子の逸物を握るとそのまま勢いよく扱き出した! 「あっあっ! あんっ!」 「かっ、かああぁあっ! きっ、気持ちいいいいっ!」  それぞれ愛撫されながら思い思いの嬌声を上げる。もう快楽を貪るための指を止めることは叶わなかった。 「ああああっ! 頭があああっ! おかしくなる! おかしくなっちゃうううぅ!」 「気持ちいい! チンコなくなっちゃったのに、ナカ気持ちいいっ! 俺が俺じゃなくなっちゃうぅっ!」 「「イクーッ!」」  金子の逸物と、黒羽の排出腔から、同時にドバドバと精液が溢れ出た。おびただしい程の量が零れ落ちコンクリートを汚す。 「……烏天狗殿、先程の愛撫、とてもよいものであった。褒めて遣わすぞ」 「貴様こそ私を絶頂させたのは久しぶりだ。良い発散になった」  絶頂を終え、悦楽にとろけたものだった二人の顔は、きりりと精悍なものへと変わっていた。  そこにはボーイソプラノの声質で尊大な言葉を話すネズミと、仏頂面を絶やさず鋭い眼光を宿した烏天狗がいた。  金子の記憶は日本を守護する干支の獣だということ、黒羽の記憶は大天狗の下悪の気を祓う烏天狗だということになっていた。  先程出したばかりだったはずの二人の精液は、はじめからそんなもの存在していなかったかのように跡形もなく消え去っていた。 「それでは、僕は仕事に戻る。また会えると良いな」 「ああ。それじゃあな」  そう言い残すと、二人はふと姿を消した。お互い人間の前には姿を現さないように生活しているためそれも致し方ないことだった。  こうして一人の不良と警察官はこの世界から消えて無くなった。しかし存在が書き換わる者はこの二人だけではなかった。  ◆  その頃、一対の連獅子と化した白石と赤崎が白石の家でうずくまっていた。今日からこんな姿で一生暮らさなければいけないのかと思うととても正気ではいられなかった。 「この漫画万引きしただけなのに……なんでこんな……」  パラパラとコンビニから盗んだ青年誌をめくる。そこに掲載されていた広告を発見した白石は驚愕する。 「な、なんで……」  そこにはファッション広告と称して二人の男が立っていた。その姿は二人にとってとても見慣れていたはずのものだった。 「これ、俺らじゃねえか! どうしてこんな本に俺らの姿が……」 「うっ」  驚いている白石を尻目に赤崎が小さく呻いた。ふと赤崎を見ると彼は袴を脱ぎ下半身を露出している。そしてそれと同時にザーメン臭が白石の鼻をついた。 「お前、まさか抜いてんのかよ……なんでこんなこと……」  カーペットには真っ白なザーメンが大量に撒き散らかされている。とても一度の射精では足りない量だったので、白石は赤崎が何度も射精したのかと思った。 「……げ」 「えっ?」 「父上も、袴を脱げ。父上も溜まっているのだろう?」 「……赤崎?」  赤崎はさっきまで自分と同様に困り果てていたはずだった。しかし今の赤崎はきりりと口を真一文字に結び、迷いなどまるでないような表情をしている。まるで頭の中がまるっきり変わってしまったかのようだった。 「私は赤崎という名ではない。父上の息子であり、子獅子の紅だ。父上が私に付けてくれた名ではないか」 「俺、そんな名前付けた憶え……」  おもむろに赤崎は白石の側へ移動し、袴を下ろし褌を器用に外していく。その行動に対して白石はなぜか抵抗すらできなかった。  褌の中からぼろりと立派な逸物が飛び出る。その瞬間むわっと汗と恥垢にまみれた臭気が部屋中に溢れ白石は思わずむせ込んだ。 「これはこれはご無沙汰のようで……この私が父上のために奉仕する必要がありそうだな。んむ……」  黒々とした白石の逸物を大きな口で咥える赤崎。その行動はなんの躊躇もなく行われた。白石は未知の快感に思わず叫んだ。 「んっ……じゅる、ずずっ……」 「いいっ! やっ、やめろ白石! どこでそんなモン……ひいっ!」  友達だったはずの男にフェラチオをされている。自分も赤崎もホモじゃないのに、何故こんなことを二人でしないといけないのか。そう思ったがフェラチオの快感に負け白石は思考を停止した。 「やめろぉ……あっ! あんっ!」  逸物をコーティングする唾液と赤崎の巧みな舌遣いに白石はとうとう絶頂を迎えそうになる。その時、白石は赤崎が変貌した瞬間のことを思い返していた。 (確か赤崎はさっきまでカブキなんかになりたくねえって言ってたはずなのに……ザーメンぶっ放してからおかしくなった……  もしかして、ザーメン出しちまったら、頭もカブキみたいになっちまうのか!?  い、嫌だ! カブキになんてなりたくねぇ! 誰か助けて!) 「ん、やっ、やめろぉ! もう万引きやめるから! やめてくれぇぇぇ!」  絶叫とともに紅の口内に新鮮な白濁液が発射された。紅はそれを当たり前であるかのようにごくりと音を立てて飲み込んだ。 「……紅よ。今日も悪いな」 「いえ父上。これも息子の役目。お互い稼業で自慰すらもままならぬ立場。これくらいは朝飯前だ」  精とともに自らの魂まで抜け出てしまったかのように、白石は全ての人格を連獅子の姿にふさわしきものに書き換えられていた。もう自分がかつて不良であったことなど微塵も覚えてはいなかった。 「さて、本番はこれからだ。いけるな? 紅よ」 「はい父上。この逸物を貴方に捧げることを約束しよう」  歌舞伎役者の親子であるということにされた白と紅は、さらなる快楽と愛を求めるべく、交わりへと発展する。来たる日の公演のために絆をさらに深めるべく――  ◆  そして志士郎も、自らへの今生の別れが一刻と近づいていた。 「No, no, no, no!」 「はっ……はっ……んおおぉ!」  ガチガチと歯を鳴らしながら太い雄叫びをあげる志士郎。鬣をブンブンと振り回しながら、厳つい顔をさらに厳つく、真っ赤な顔をさらに赤くしていたいけな女性から物を奪った悪人に制裁を行なっていた。 『物は返すから……許してくれ! あっ!』  日本語で表すならばきっと彼はそう言っているのだろう。何故なら彼は日本人ではなく外国の人間だからだ。日本に旅行に来ていた彼は荷物を紛失し日本に滞在せざるを得なくなり、とうとう今日他人の荷物に手を出してしまったのだ。  一時の気の迷いがどうして奇妙な格好をした男に犯されることになったのだろうと彼、ブラックは後悔した。 「オオオオッ!」 (どうして……腰が止まらない……俺はただ獅子舞を被っただけなのに……  今も引ったくりを捕まえようとしただけで……セックスなんか、したくないのに……!)  志士郎は挿れたくもない、挿れ方すら知らないはずのアナルを自らの勃起したペニスに挿し込み犯していた。  カリが肉襞に触れるたびに志士郎の脳は悦びの声を漏らす。電流が脳を巡り股間を巡ると、柑橘のごとくたわわに実った陰嚢がごろりと重くなる。 「Help me, help me! I want to go back to my country! I don't want to cum in this place!」 「ま、待って……嘘っ、このままじゃ俺っ、こいつの“中”に!?」  びゅるびゅるとブラックの尻膣内(なか)に先走りが流し込まれる。するとさっきよりペニスの移動がスムーズになり、志士郎とブラックの快感も増幅された。 「はあっ、はあっ……! やだ、おれ、ししまいなんかに」  その時、勢いよく志士郎のペニスのカリが、ブラックの肉壁に勢いよく引っかかった。彼はもう堪えられなかった。 「ああアァァッッ!!?!」  勢いよくペニスから精液が溢れる。気持ち良さで頭の中がスパークしたかのように快感、快楽、絶頂が志士郎の脳に駆け巡った。  平凡な学生だった頃の記憶は真っ白なスパークと共に焼け焦げ消滅し、新たにこの町を守るヒーロー『獅子舞マン』としての記憶が志士郎の中に焼き付けられた。  同時に絶頂していたブラックにも変化は訪れる。着ていた服が黒い布に分解されると、身体中に巻きつき、新たに漆黒の装束へと形を変えた。布の中でまだ射精していたのだろう。新品のはずの袴はべとべとに濡れそぼっていた。 「ぬう……拙者は一体……」  ブラックは喋ったこともなかった日本語を流暢に話している。そしてその姿は覆面に装束、足袋という典型的な忍者の容貌をしていた。射精と同時に彼も姿を書き換えられたのだった。 「悪は成敗した。この獅子舞マンが居る限り、悪は栄えることはない。貴様はこれから忍者マンと名乗り、この町を影から守る英雄として生きよ」 「承知いたした。拙者を生まれ変わらせていただき感謝するでござる。拙者は、本日より忍英雄、忍者マンでござる!」  こうして生まれ変わった二人の英雄は、これから町を守るヒーローとして称えられることとなるのだが、それはまた別の話である。  ◆ 「奪われた荷物は取り返した。安心してくれ」 「ありがとう獅子舞マン! このご恩は一生忘れないわ!」 「礼など要らぬ。俺はこの世界の平和を脅かす悪を挫くことができればそれでいいのでな。では、さらばだ」 「うん、荷物も無事ね。よかった……あら?  私、忍者ものの漫画買ったはずなのに……間違えたかしら?」  女性が持っていた本には、旅をする外国人の男性が表紙に写っていた。   完


More Creators