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Jin(鬼頭ジン)
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虚なる愛の紫薔薇

「ぐわあっ!」 「やっちゃってください番長!」  九月某日。轟音と悲鳴が同時にあがった。  そこは様々な種類の薔薇が咲いている薔薇園で、町の名物となっていた。そこには四人の不良が立っており、一人は私服、二人は制服を着崩し、もう一人は学ランと学帽を被ったがたいの良い大男だ。  どうやら私服の男が学ランの男に殴られて吹っ飛ばされていたようだった。 「てめぇ……この薔薇園を荒らしておいて、どうなるか分かっとるんだろうな?」  紫堂と呼ばれた学ランの不良が私服の不良の胸ぐらを掴みながら凄む。どうやら薔薇園で粗相をしてしまったらしい。 「荒らすって、そんな人聞きの悪い……俺はただ薔薇を観ながら休憩したいな〜と思っただけで」 「ほう……この紫堂龍次郎に嘘を吐くのかお前は? お前がここで煙草フカしててのはわかってんだ! この期に及んで白を切る気かぁ!」  龍次郎と名乗ったその男はそのまま不良を投げ飛ばした。一本背負いだ。男は受け身が取れずに背中から地面に激突した。 「ぐああ……!」 「まったく……火事にでもなったらどうするつもりだ。」  龍次郎は煙草の吸殻を拾い上げ握りつぶす。龍次郎の手の中にはまだ煙が漂っていた。 「この薔薇園は町の神聖なものだ。無闇に荒らすものではない! 煙草をフカすのは勝手だが人様の迷惑にならない場所でやれ!」 「さすが紫堂さん、一撃で高野を萎縮させちまいやがった!」 「ここら一帯でチョーシこくからこんなことになるんだよ!」 「お前らもだ! もしワシに隠れて悪さをやっとるようなら容赦はせんぞ!」 「わ、分かってますよ……」  高野と呼ばれた不良は何も言い返せず、すごすごと逃げて行く。事を終えた龍次郎のもとへ二人の不良が駆け寄った。 「さすが龍次郎さん! 楼頭学園の番長である龍次郎さんならやってくれると思ってましたよ!」 「まあな。ワシの目の黒いうちは誰にも悪さなどさせんわ」  龍次郎たち不良三人の下に、もう一人の人影が近づく。それはまさに鶴に掃き溜めと言わんばかりの組み合わせだった。粗野な不良学生とは似ても似つかない整った容姿のスーツ姿の青年がそこに立っていた。 「よくやってくれた紫堂君。最近この薔薇園を荒らす不届き者が居てね、キミに依頼してよかったよ。  キミみたいな社会に何の価値もない不良風情でもこういう事には役に立つからね。キミ達もこの僕の役に立てて嬉しいだろう?」  この助けられて早々に嫌味な言葉を吐いた彼の名は海東操といった。彼はここら一帯を仕切っている海東財閥の御曹司で、龍次郎達は彼の依頼で海東財閥が管理する薔薇園の番人を任されていたのだった。 「テメェ! 紫堂さんに向かって!」 「待たんか。言い方は悪いが海東の言う事は確かだからのう。それに、何の悪さもしとらん堅気に手を出す事がどれだけ愚かな事か分かっとるじゃろうが」 「うっ……」  まるで“やくざ”のような言い分で喧嘩っ早い不良達の手足を諌める龍次郎。これはまあ彼のポリシーのようなものだった。あくまで彼が拳を向けるのは、町の均衡を乱す不良のみ、彼は生まれてから十八年間、それを頑なに守り続けていた。 「分かってるじゃないか紫堂君。では僕は行くとするよ。少ないが謝礼は後日振り込ませてもらうよ。あははは」  海東は笑いながら悠々自適にその場を去っていった。結局、その薔薇園には三人の不良が残った。 「腹立つわあのボンボン、金くれるから従ってるけどよー」 「たわけ! ワシらはそんなもののために戦っているのではない! 見返りを要求するなど恥を知れ!」 「うっ、すみません番長……」  そう言うと龍次郎達は学校に帰るべく薔薇園に背を向ける。その時、“それ”が、龍次郎の体に、一本突き立った。 「ぐっ……」 「紫堂さん!?」  それは、紫色をした薔薇だった。それは、まるでここには存在しないかのような不気味な輝きを放っていて、とても妖しい雰囲気を纏っていた。幸い刺さりは浅く龍次郎は大した怪我を受けずに済んでいた。龍次郎は軽く力を入れると刺さっていた薔薇を一本抜いた。 「大丈夫ですか!? 番長!」 「心配ない。それよりも何故こんなところに薔薇が……」 「それよりも、今日はどこかへ食べに行きましょうよ! 仕事も終わったことだし……」 「うむ。それなら今日は……」  龍次郎達は、その後仲間達と食事を済ませ自宅へと帰る。既に空は真っ暗だった。結構時間を食った、と龍次郎は思った。 「……」  ガラガラ――と扉を開けると時計を確認する。十時十八分……夜空は今まさに全盛期と言わんばかりに世界の上半分を支配していた。同時に寝静まる両親を見ながらもうこんな時間か――と一人独りごちる。  ちかちか、とまばらに白熱電球が点滅する茶室に鞄を置く。明日も早い、寝なくては、と龍次郎は学ランを脱ごうと首のボタンに手を掛けた――その時だった。 「む……」  むずり。股間に何やらうずきのような感覚がした。これは毎日数時間おきに発生している生理現象の一つだった。そういえば今日は連戦でしばらく用は足していなかったな……と龍次郎は思った。 「ションベンしてから寝るか」  龍次郎はトイレへ向かった。チャックを下ろし用を足す。一日中溜め込んでいた尿が勢い良く彼の大きなイチモツから排出される。その感覚に龍次郎は一瞬震えた。 「ふー……さて、寝るとするか……!?」  刹那、すっかり全ての尿を出したはずの龍次郎が感じたもの、それはまた別の感覚だった。その感覚を察した龍次郎はつい自分自身の股座に実ったたわわなそれを掌で包むように握る。 「む……ワシとしたことが、なんとはしたないことを……しかし、なかなかに溜まっておるな……」  ぶよぶよとした陰嚢の中には彼の力の源である純白の種がうようよと泳いでいる。しかも今日のそれは一層元気で、まるで彼のイチモツから一刻も早く飛び出したい、と言っているかのようだった。 「ぬう……これは、たまらん……」  龍次郎はそのまま服を着たまま自慰行為を始めていた、自分でも止めなければいけない、そんなはしたない真似こんな時にしてはいけない、そう思っているはずなのに、止められなかった。股間に聳え立っているごん太のイチモツを握り、動かし、摩ることが今の彼にとっては至上の悦しみであるのだ。 「うっ、いかん! ワシのっ、ザーメンがっ……んぐっ!」  力強く亀頭を摩った瞬間、真っ白な精子が便器の中に勢いよく発射された。ご無沙汰だったそれは、相当の濃さと粘度を持っており、水と混ざった油のごとくしっかりと形を持って浮き上がっていた。そこからでも強い臭いを放っているくらいだ。  普段なら、その一発で彼は満足するはずだった。絶倫の彼はまだまだ出すことはできるのだが、そういった行為は一週間に一回が目安と決めていた。しかし―― 「ぐおっ、うむっ、だ、駄目だ! まだ出る! まだ出す!」  龍次郎の性欲はそれ一発では収まらず、むしろさらに熱をもってしまったようだった。仕方がない、満足いくまで、と龍次郎はさらに強くイチモツを擦りだす。 (な、なんといい気分じゃ……しかし、しかしワシの中のナニカが警告している……! このままではまずい、出せば出すほどワシがワシではなくなっていく――そんな気がするんじゃあ!)  彼の豊かな陰嚢から精が放たれる度に、龍次郎はそんな恐怖感を覚えた。いや、自分の中の『魂』が警告しているように思えたのだ。それが何なのかは具体的にはよく分からないものの、それがしてはいけないことだということは何となくわかった。しかし、理解した程度では龍次郎の中の熱は収まりを見せなかった。寧ろ、抵抗をすればするほど、快楽が、射精感が、体の中の火照った熱が、さらに度を増していっている。数々の修羅場を潜り抜け鍛え上げられてきたこの番長の精神力を持ってしても、この欲望は止められなかった。 「んぐっ、ふぅ、うっ!」  数分後、精を出し続けている龍次郎に変化が起こった。まず最初に起こった変化は彼が着ていた服だ。一回射精する度に、彼の纏っていた学ランは色を、装飾を、材質を変えていった。それは学ランだけではなく、ズボンも、学帽も――射精を一度行う毎にまるでスライドショーのようにひとりでに変化していった。紫色に、艶やかに、滑らかに、美しく変化していった。  ――――。  いつしか、そこには厳つい番長の肉体をした紳士がいた。龍次郎の学ランは、紫色のタキシードになっていた。頭に被っていたボロボロの学帽だったそれは同じく紫色をしたシルクハットになっている。首には青色の蝶ネクタイ、靴下を履いていた足にはいつのまにかすらっとした曲線が美しい革靴が履かされていた。筋肉で覆われた肉体に無理矢理纏わされたそれは、パツパツで今にもはち切れそうになっている。  しかし彼はザーメンを出すのに夢中で気がつかない。自分のイチモツを握っている手が純白の手袋に覆われていても。 「ぐおっ! うっ、おかっ、しいっ! 何故、まだ、出るっ!?  何発目だ、これはっ、いくら、溜め込んで、あっ、いたとしても、うっ、これはっ、おかっ、しいっ、んんっ!」  あれだけ出しているにも関わらず、射精は衰えるどころかむしろ勢いを増していった。手袋が擦れてさらに快感を増幅させているのも理由の一つなのかもしれない。  しばらく出し続けていると龍次郎の肉体に第二の変化が起きた。グニグニと身に纏っていた剛健なる筋肉が萎んで失くなっていくのだ。彼が十数年の間に積み重ねきた努力の結晶が今、射精ともに消えて失くなっていく。数十分で彼の体はすらっとした細身の肉体になっていた。  筋肉は最低限にまで抑えられ、日に焼けて褐色だった肌は月の光に照らされれば反射して光るくらいに白くなる。  厳つい顔だった髭面は、すっきりして毛もなくなり、線の細い美少年、といったふうになっている。  チクチクとした黒髪を坊主にした頭は、青みのかった銀色の柔らかな髪に変化し彼の頭を彩っている。  いつしか龍次郎は、そのタキシードとシルクハットがよく似合う妖艶な姿と化していた。しかし、彼はそれには気がついていない。あいも変わらず欲望のまま性を貪っているだけだ。  そして……彼に最後の変化が訪れた。 「きょ、今日ワシは……薔薇……薔薇? なにをしていたんだったか……」  もう何度目かも分からぬ射精をすると、頭から薔薇園を守り、不良達と食事をした今日の記憶が頭からまるっと抜け落ちた。しかしそれは彼に起こる最後の変化へのトリガーでしかなかった。  射精すると、この町で番長として悪さをする人間を倒していた日々の記憶が消えた。  射精すると、楼頭学園に入学し、この学園を仕切っていた毎日の記憶が消えた。  射精すると、とある一人の不良に助けられ、自暴自棄だった自分が番長としての意思を固めた時の記憶が消えた。  射精すると、ただ強くなりたいと願い体を鍛え続けていた記憶が消えた。  射精すると、信念が、矜持が、意思が、覚悟が、忍耐が、情熱が、彼の全てを構成しているものが、消えた。 「気持ちいいっ! ワッ、ワシはっ! 私は、紫堂龍次郎! 私は今このトイレの便器で射精しておる! 何故かは分からぬが、まだ出るっ! うおおっ!」  雄叫びを上げて睾丸の中で泳ぐ精液を絞り出す。その都度、頭の中で認識していた自らを構成するものがその肉体にふさわしきものに矯正されていく。  自分が番長だということも、この家に生まれて十八年間生きてきたことも、もう彼の記憶内には存在しなかった。それは今、大量の白濁となって便器に漂っている。 「私は、ここで手淫を行なっている紫堂龍次郎です! 私はっ、私は射精の度に私の中の大切な要素を全て失ってしまいました……だから、もう私は射精などしたくない! しかし止まらない! もう私は私ではなくなってしまうのですか……? そんなことは……もう御免です!」  そう言いながらやはり自慰だけは止めることをしない龍次郎。そして、抵抗むなしく彼にとって最期の射精が行われようとしていた―― 「すみません……私の記憶の中の、どこの誰かともわからない皆様……私は紫堂龍次郎という名を捨て、生まれ変わりっ、うあっ! ますっ! しゃっ、気持ちがいい……! ああっ、射精いたしますっ!!」  最後の射精は、薄めの精子がピュッと飛び出て終わった。こうして、彼は紫堂龍次郎という自分の名さえ失った。その代わりに彼の魂に刻み付けられるのは、誇り、正義の心、美しさ、そしてただ一人存在する主への忠誠心――そして、新たなる使命と名。  生まれ変わった彼は、自らをこう名乗った。 「私は――怪盗・バイオレットローズ……!」  ◆  月明かりが美しく光る真夜中――そこには一人の男が佇んでいた。右手にはぎらりと光る暗銀色のナイフ――そして目立たないよう地味な色で構成された装飾のない衣服――彼は金に困り、夜の民家を狙わんと画策する不届き者だった。  彼は今までそういう事には手を染めておらずそれは初めての経験だった。しかしもうこうするしか自分が生きる道はない。そう間違った覚悟を決めて手頃な民家を襲う――はずだった。 「よし、ここなら……んっ?」  男が鼻腔に感じたそれは花の香り。嗅げば眠気を誘うような甘くてふわりとした香り。ふと近くを見渡すと、自分の周りに紫色の花弁が舞っているのに気がついた。それは妖しげに咲く紫の薔薇―― 「おや、こんな夜更けにどうなされたのですか?」  そこには月明かりをバックに紫のタキシードを身に纏った男が佇んでいた。仮面が付けられているため顔は判別できなかったが、月を反射して鈍く光る銀色の髪に、にやりと笑う半月の口からはみ出る二本の牙は確認できた。  それは明らかに異様な雰囲気を持つ男で、なんとなく見ただけでもこいつは怪しい。そう確信することができた。 「あ、あんた誰だ」 「私は、怪盗バイオレットローズと申します。以後お見知り置きを……といっても私の事は忘れてしまうでしょうがね」 「か、怪盗!? フザけてんじゃねえ! それに、ここの家は俺のもんだ! 同じドロボウから他行け他!」  狼狽する男を見てバイオレットローズは一人笑う。何がおかしいと男は一喝するものの彼の目の前の怪盗はただ笑うだけだった。 「確かに私は怪盗……ですが、しかし、私は物やお金は盗み出しません。私が盗むのはただ一つ……貴方の悪の魂です」 「は? ……むぐっ!?」  バイオレットローズは、そう言うと男の唇を無理矢理強奪した。口内に彼の温かな肉が侵入してくる感覚にはじめは戸惑った男だったが…… 「んっ……あっ……くちゅ……」 (そう、私に全てを委ねなさい……私にかかれば、あなたのそのくだらない邪念など、鍵のない金庫のようなものだ)  いつしか、彼の舌遣いに翻弄され、目はとろりと蕩け、腕をだらんと垂らす。唾液が口をはみ出し床にぽとりぽとりと落ちる。そして、口中に広がる薔薇の香りに、男は自らの逸物をひとりでに膨らませていた。そして、それはバイオレットローズも同じだった。 「んっ、んっ……んんっ!」 (出しなさい。貴方の精に囚われた邪念を)  服越しに二つの肉の兜を擦り合わせる二人。舌と肉棒、二つの体が重ね合わさり、快感を増していく。そして―― 「ーーーーっ!」  二人のズボンが濡れる。新鮮な精液が勢いよく飛び出し行き場を失い、パンツに、ズボンに、床に流れていく。  男は、天にも登る心地よさを感じていた。それと同時に、先程まで考えていた悪事の全てが記憶から抜け落ちていくかのように思い出せなくなっていた…… 「これで終了です。私との行為の記憶を一生魂に刻みなさい。そうすれば、貴方は道を踏み外すことはないでしょう……  私は性の怪盗、バイオレットローズ。この世にはびこる悪の心を奪う者……」  男は既に気を失っていた……そしてバイオレットローズはその男を見送ると再び夜空へと飛び立っていった。紫の薔薇を一本残して…… ◆ 「うわっ! 俺、なんでこんなところに!?」  朝、男は道端で目を覚ました。持っていたはずのナイフはどこにもなく、彼の記憶からも持ち出したナイフのことはすっかり頭から消え失せていた。  そのままこの男は何か悪い事を考えることもなく、いつもの日常を過ごすこととなった。しかし、そんな彼に数年後、思いもがけない転機が訪れるとは、彼自身知る由もなかった。しかしそれは、彼にとって幸福な人生になることは、間違いなかった。  ――薔薇園。  そう。バイオレットローズがまだ番長であった時に彼が彼となるきっかけとなった場所であった。  その薔薇園に彼は佇んでいた。そこが、あたかも自分の帰る場所であるかのように。 「やあ、帰ってきてくれて嬉しいよ、バイオレットローズ」 「只今戻りました、操様」  そこには、海東操が立っていた。そしてバイオレットローズは彼を主と認識していた。それは一体何故なのだろうか。それは数ヶ月前に遡る―― 「ふう。出来たぞ、『紫薔薇の怪盗』」  海東財閥の御曹司、海東操は作家になるのが夢だった。そんな彼が考えていたのが紫のタキシードに身を包み、薔薇を操ってこの世の悪を浄化する怪盗の話だった。しかしこんな子供染みた夢想は海東財閥の跡継ぎである自分が持つには相応しくない。といジレンマも抱えていた。  それでも彼は本気でそのバイオレットローズの存在を信じたかった。自分の理想の存在、華麗なる姿で弱きを守り悪を挫く、そんな自分色に脚色した正義の味方の存在を。  だから彼はその子供染みた夢想を一つ一つ黒いインクの塊に書き記すことにした。それが彼の作り出した物語、『紫薔薇の怪盗』。 「でもこんなもの……いるわけないよな。ファンタジーじゃあないんだから……」  そんな彼のもう一つの趣味、それは夜の薔薇園を一人散歩することだった。いつものように自らの願望を夢想しながら薔薇の森を通る。そんな時、紫色に光る一本の薔薇を見つけたのだった。 「これは……」 『操様、聞こえていますか?』 「何だ、この声は!?」 『私は、バイオレットローズ。貴方が生み出した概念の存在』 「何!? バイオレットローズは、たしかに僕が考えた存在だ……でも、何で……」 『あなたの強い思いが私を生み出したのです。しかし私はあくまで概念。肉体を手に入れなければ、時期に私は存在を失うでしょう』 「そんな! もしそれが本当なら、どうすれば……!」 『貴方が一番私に相応しいと感じる人間に、この薔薇を刺すのです。私と最も近しい概念を持つ、貴方が信頼する者に。そうすれば、私はその人間を養分――媒介とし、この世界に転生できるのです』 「……本当、なのか?」 『はい……お願いします。私を信じるのならば、一刻も……早く……』  こうして、操は自分が心の中で最も尊敬し、一番憧れを抱いていた存在、紫堂龍次郎をバイオレットローズの媒介にする事に決めたのだった。  口では社会に存在する価値もない不良――などと罵倒していたが、それは自分の立場を守るための強がりだった。本当は、彼の仲間のように、学園の普通の生徒のように、彼を正義の味方として崇めたかった。しかし彼らは行動は正義だとしても、素行は不良。その存在を認めることはできなかったのだ。  だから、自分の夢想した存在に、この哀れな正義の味方を書き換えてしまいたい。操はそんな歪んだ願望を抱いた。だからこそ、龍次郎は邪淫の果てに全てを怪盗として書き換えられたのだった。そしてそれは、操にとってもう何の躊躇もなかった。 「再会できて嬉しいよ、僕のヒーロー」 「私もです……これからは……ずっと……」  二人は薔薇の海の中で肉体を重ね合う。操としてはそれははじめての行為だったが、バイオレットローズのエスコートによりそれはすんなり行われた。  男の中に、自らの逸物を挿れるのは、彼にとっても初の体験だったが、それにより彼は一生忘れられない思い出になった――  ◆ 「それでは、私はまた悪の浄化を行ってまいります」 「分かってる。帰ったらまた愛し合おう」 「はい……」  海東操は、ただ一人の願いを叶えた。そして人知れず、彼はただ一つの愛をこの怪盗と覚えていくのだろう。  自らが愛した男と、自らが夢見た存在を混ぜ合わせた存在と、その虚なる愛を――  END

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途中まで性癖に刺さりまくりでした。 悪の魂を奪われた人間は、心を奪われた人形としてヴァイオレットローズの、海東操の操り人形奴隷として生きていくみたいな話が見てみたいです^ ^


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