「…様、いただきます。 んあ~~~んっ❤」
大きく開かれた女の口。 生臭い吐息が嫌というほど鼻につく。
俺を食べようとしているんだ…。
冗談でもなんでもなく… 本当に…。
徐々に迫ってくる大きく開いた口。 今ではその口奥の喉ちんこまでもがはっきりと見える…。
その光景を見ながら、俺は後悔に苛まれていた…。
‟あぁ… 何で、何で俺はあんな事を…”
思えば入学式の頃、始めて見た時から異様に気になる二人だった。
仲が良いのか、一人の同級生の男と仲良く話をしている姿を良く校内で見かけた。
何故か視線は吸い寄せられるかのように二人に向けてしまう。
そんな、いつものように二人を見ていた時、女子の机の上からプリントがハラリと落ちていった。
「柏木、プリント落ちたぞ」
「ん? あっ! あんがと、拾ってくれたんだ」
会話らしい会話ではなかったが、始めて明日香と話をした時、心に何か響いた事を覚えている。
…しかしそれが何なのかは自分でも良く分からない。
ただ、この女を《逃しては駄目だ》とこの時思ったのだ…。
だから俺は柏木明日香と天上院茉由に話しかけてみようと思い、この自分でも分からない気持ちが何なのかを確かめようとした。
「三人は仲が良いんだな」
「うん、僕達三人は幼馴染なんだ」
嬉しそうに、二人に毎日囲まれている男が俺に向けて返事をする。
「やっぱりな~、だと思ったよ。 いつも三人一緒にいるもんな」
「…優君行こ」
「あっ… うん」
何か気分を害する事をしてしまったのか、天上院は神谷の手を掴みスタスタと歩いて行く。
「あ~あはは… ごめん! ニッシー。 茉由ってほら、あんまり他人と関わろうとしなくてさ、最初は誰にでも一緒でいつもこうなんだ。 悪気はないから許してあげて」
「いや、俺も急に話しかけて悪かった。 しかしニッシーって何だ…?」
「あぁ、それはあだ名だよ。 西谷って言うんでしょ? だからニッシー♪」
「そっそうか…」
~この時からだ。 明日香と良く会話をするようになったのは~
他愛もない事を毎日と会話をして、2年に上がる頃には流石に自覚した。
この異様な気持ちは好意だと…。
天上院にも同じような気持ちを始めは抱いていたが、何故か今は姿を見るだけで嫌悪するまでになっている。 会話らしい会話なんてこれまでしていないのに、二年に上がった頃には急にこんな気持ちに…。
しかし逆に、明日香に対してはこれまで以上に大きく気になる存在にまでなっていた。
「茉由、毎日部活終わるまで待ってなくていいからさ、今日はかみっちと遊んできなよ」
「でっでも…」
そんなある日、ゴミ当番から戻り、教室のドアを開こうとした時、中から聞こえる二人の話し声が耳に入ってきた。
「茉由、いつまでも今の関係で良いの? ほら、私の事は気にしなくてもいいからさ」
「……うっうん、分かったよ明日香。 行ってくるね、ありがとう!」
「茉由~! 頑張れ~!」
誰もいない放課後の教室でたまたま見てしまった…。
健気に友達の恋を応援する姿を…。
自分の気持ちを押し殺して、辛そうにしていても尚、頑張れと言う明日香の姿を…。
「柏木…」
「あっ! いっ居たんだ… あはは… ニッシーに変な所を見られちゃったよ…」
俺を見つめる明日香の顔は悲しそうだ。 …その悲しそうな顔を見て俺は思わず。
「柏木、俺と付き合ってほしい」
「えっ… えぇぇぇ!?」
自然と口から出てしまった告白。
「突然でビックリさせたと思う、それに神谷の事を好きな事も知っている。 でも、ずっと柏木の事が好きだったんだ! …だからどうか、どうか俺と」
「ちょ、ちょっと待って! 私がかみっちの事を好きだなんて一言も…」
「隠さなくてもいい。 それに、柏木の今の顔を見たら誰だって分かる」
「……あ…」
明日香は、目元を拭った手を見て始めて自分が泣いているのだと自覚をしたようだった。
「今の柏木にこんな事を言うのは間違っているのは分かる。 だけど、柏木を俺は支えたいと思っているんだ。 だから…」
「まっ待って! 本当に急だったから今は何も考えられない。 そっそれに何で今…」
「自分でも分かっているんだ、こんな状況で告白なんてオカシイって事はさ…。 でも、やっぱり神谷に柏木の事は任せられない! そんな顔をさせる神谷になんて…。 俺はそんな悲しそうな顔は絶対にさせないから! だからっ!」
「わっ分かったから! 声大きいってば…。 ……でもごめん、ニッシーとはそういう関係にはなれない…」
自分でも分かる最低の告白だった。 落ち込み傷ついている柏木に近づき、一方的に思いをぶちまけた最低な告白。
そんな告白なんて失敗するに決まっている。
…でも俺は、その後も諦めずに何度も何度も明日香に近づき、思いを伝え続けていった。
……その甲斐あってか
「あぁもぅ! 本当に諦めないねニッシーは。 はぁ… いいよ、一度付き合ってみよっか」
何度目かも分からない告白で、やっとOKをもらえる事に成功したのだ。
「やった! やったぁぁぁっ!」
「ちょっちょっと、喜びすぎだってば」
これまで経験した事のない喜び、そして必ず明日香を悲しませないように務めようと、この時は確かに強い思いがあった…。
しかし何で、何で付き合っていく内につれて、明日香の事をこんなに憎悪しているのだろうか…。
‟分からない” ‟分からない”
好きな気持ちと憎い気持ちがグチャグチャに混ざり合い、俺はいつの間にか明日香に対して横柄な態度をとるようになり、その結果、別れを告げられてしまっていた…。
……それで良い、こんな俺とは別れるべきだと自分でも思っていたが、でも逃すべきではないともう一人の俺が煩く叫ぶ…。
だから別れまいと、最悪な手段をとるようになってしまった。
ストーカー紛いの事を明日香にして、その親友である天上院にまでにも、脅すような事をして…。
この時の俺は、‟自分が自分でないみたいだった…”
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「あ”あ”ぁぁ! いやだぁぁぁ!」
俺の味を愉しむかのように蠢く巨大な舌。
生臭い唾液が、湯水のように溢れてくる。
「ゴボッゴボボッ… たったすけ…」
女が舌を動かすたびに、唾液の海に溺れそうになる……。
舌だけで、俺は飴玉みたく縦横無尽に転がされているんだ。
「んっ んぁ~っ♪」
俺を飲み込もうと、喉奥の穴へといざなわれていく。
口の中から見える、最後になるであろう外の景色。 そこには口角の上がった明日香の口が、助けを求める俺に残酷な別れの言葉を告げたのだった。
「あ”あ”あ”ぁぁぁっ! あすかぁぁぁ! たすけてぇぇぇ!」
「良かったね、秋実姉の栄養になれて。 えへへ、バイバイ和哉♪」
その明日香の別れの言葉と共に、喉奥が唸り、そして……。
「んっ… んくっ……」
明日香とは違う、別の女の口の奥へと飲み込まれ……。
「はぁ… 和哉様が私の喉から胃の中へ落ちていく感触が分かります。 …すごい喉越し。 んっ…❤ ごちそうさまでした和哉様」
そう喉内を滑り落ちる俺に向けて言う、感謝の言葉がはっきりと聞こえた…。
◇
~西谷和哉がこの世から姿を消した数ヶ月後~
〔はい、脱走した小人は奥様のお好きなように… えぇ、そうです。 白銀様がそうおっしゃられていますので… えぇでは本日には一度、御息女をつれてこちらへ… はい、お待ちしております峯藤様〕
「はぁ… まさかお客様の鞄の中に入って脱走している性具用小人がいたなんて…。 荷物のチェックは入念にと伝えていたはずだけど?」
1251ビルのとある一室。
たった今渚涼子は通話を切り、溜息を吐きながらそれぞれこの部屋に集めている4人の女(月城梨沙、奥村香、小泉綾女、マリア・ホーキンス)に睨むように視線を移す。
「うぅ、そんな怖い顔で睨まないで下さいよ~渚先輩。 シワになってしまいますよ~?」
「そうよ涼子。 今度美味しい物を作ってあげるから、機嫌を直して。 ね?」
「梨沙、何を自分は関係ないみたいな事を言っているの? 怒っている原因はあなたなのよ。 この日の担当は梨沙だったでしょ! なんでもっとよく確認しなかったの!」
「ごっごめんなさい… 確認はしていたのだけど、うまく隠れていたみたいで…」
「それを確認するのが仕事でしょ! なんのための確認なのよ。 それに奥村さん、私のシワがなんですって?」
「ヒィィ…」
鬼のような形相をして仁王立ちをしている涼子。 その前方には怒られてうつむいている香と梨沙の姿があった。
「Oh… リョウコの長いセッキョウが始まってしまいまシタ…」
「そうね…良い? マリア。 私達は空気のように静にしているのよ? 矛先がこっちへきたら溜まった物じゃないわ」
「OK、アヤメ。 ニンジャのようにマリアは忍んでマス…」
そして涼子に気づかれないよう部屋の隅に移動して息を潜める綾女とマリア。
こうなってしまった涼子のお小言は、長いと知っているからだ。
「大体あなた達は……」
尚も止まりそうにもない涼子のお小言。 全員がうんざりとしていたそんな時。
「だぁぁもぅ! やかましいぃぃ! 落ち着いて漫画が読めんではないか!」
高級なオフィスチェアに、ちょこんと座る少女の姿をした白銀いちびが、怒りをあらわにし、声を張り上げた事によって辺りはシンッと静まり返った。
「涼子ももうよいではないか、皆もこれから気を付けるじゃろうて、そんなにガミガミ言うもんではないわ」
「白銀様がそうおっしゃられるならもうこの話はやめておきます。 ただ、私は白銀様にも言いたい事があるのですよ?」
「ふぇ…?」
「この際だから言わせてもらいますけど、なんですか! 仕事場にまで漫画の本を持ち込んで何もせず読んでばかり! そしてその変な喋り方! あんなに凛とした尊敬できる御方でしたのに… 今は本当に見た目も中身も小さな子供と一緒ではないですか!」
「うぐ… じゃって、仕様がないではないか… 我だって好きでこんな姿に…」
ショボンと項垂れてしまう白銀いちび。 そんないちびに向かってまだ言い足りないのか、涼子が口を開こうとした時。
「そっそうでした! ずっと私気になっていたんです。 突然白銀様が子供みたいな姿になっていた事を」
「おっ… おぉ! そういえば涼子以外には理由を話しておらんかったな」
香やその他のスタッフ達が本当に疑問だった事、そんな疑問がいちびにとっては思わぬ助け舟となった。
「コホンッ! お主達には我が女神の血を分け与えられた眷属という事までは話しておるよな?」
全員が黙って頷き姿勢を正す。
「大昔の事じゃが、その我の主である女神を、屠る事が出来る強い力をもった者がおってな、その者に我の主は屠られてしもうた…。 我は悔しかった… 復讐しようにも我の力では到底敵わないのじゃから。 じゃから我はその者に見つからぬよう、細々と隠れ住んでおった」
——いつしかその者が死ぬ事を夢見て——
「じゃがむかつく事に、その者は子を産みつつその力を継承していきおった…。 じゃが、最初の奴と比べるとその力は弱まっており、どうやら子を産み継承し続けて行くと、力が薄まり弱くなっていくのだとその時我は知った」
どこか様子が変わった白銀いちびは、全員の顔をゆっくりと見渡す。
その白銀いちびの目を見て、全員が息を吞んだ。
‟その目は真っ赤に染まり、恐ろしくもあり、綺麗な瞳だったから”
「‟わたし”は決めた、かの者が子を為し力を継承していくのなら、その力が薄れて弱まりわたしの力で屠る事が出来るまで、人間の生活に紛れて生きていこうと。
……それから何十年、何百年と時が経ち、いつしかわたしはこの国を動かすまでの立場になってしまっていたわ。 ふふふ……」
悍ましく笑う、少女の姿をした白銀いちび。 その姿を見て全員が身震いしている。
あの渚涼子でさえ畏縮している。
「そしてある日、一人の女の子から連絡がきたの。 とある男に付きまとわれて困っているから助けてほしいと…。 ふふ、面白い事にその付きまとっていた男の出生を調べていたら分かったの、あの一族の子孫だという事が。 実際に会いに行き、遠目から見て復讐出来るチャンスだと思ったわ。 だって一族の力を殆ど感じなくなっていたのだから」
「Oh… どうりでまだ若い子でシタのに、ルールを破り小人にすると言っていたのデスね…」
マリアは自分が小さくした高校生の姿を思い出す。 そして手渡されたこれまで見た事もない、白銀様の色濃い血の入った注射器の事も。
「えぇ、そしてその父親である之もすぐに見つける事が出来たわ」
白銀いちびは椅子に座っているお尻を少し浮かし、そこから一人の小さな潰れた人間を取り出した。
「ふふふ、気分は如何かしら? 西谷 公弦(にしたに こうげん)さん」
「うぐぅぁぁ…」
指で男を掴み、顔の近くでプラプラと揺らしながら、潰れた体が元の形に戻っていく様をジッと楽しそうに見ている。
「わたしがこの姿になってしまった理由は、全ては之ともう一人を小さくさせる為に使った血の量のせい。 普通の人間なら一滴の血を薄めた水を体内に注入させれば、複数人小さく出来るのだけど、この子孫である二人は本当に血を要したわ… せっかく主に分け与えてもらった貴重な血をね…」
「白銀様は、その貴重な血を使うだけで子供みたいな姿に…?」
「そうよ小泉さん。 白銀様の姿形は全て女神様の血のお蔭で作られているの。 だからその血を失って行けば、その形を維持できないのよ。 あぁ、でもお店には影響はないわよ? 本当に針で刺す、白銀様の血の一滴を水で薄めるだけで、何千人もの男達を小さく出来るのだから」
渚涼子は全てを知っている。 信頼を置かれ、白銀いちびとはどういう存在なのかと本人から詳しく教えてもらっていたから。
「さて、毎日我の座布団代わりご苦労様じゃ。 でも、それももう終いにしようか」
いつのまにか恐ろしい雰囲気はなくなり、またおかしな口調で喋る白銀いちび。
「ぐっ…うぅ… 和哉は、和哉をお前はどうしたんだ…」
元の体にまで完全に再生した西谷公弦は、息子の安否が心配であった。
それもそのはず、外国人の女性が自分の息子を小人にするような話をしていたのだ。
「気になるかえ? マリア、和哉という少年はあれからどうなったか之に教えてやっておくれ」
「ワカリマシタ! えっと確かデスね… カシワギ アスカというオジョウサマにお渡しして…ソレカラ… Oh! そうデシタ! アスカにお仕えしているメイドのサカグチ アキミという女性が、食べたと言っておられまシタ。 初めてのケイケンで、とても美味しかったとお礼のお手紙をいただきまシタよ」
「っだそうじゃ、よかったの~? お主の息子は美味しかったと言って貰えて」
「あぁ… あ”あ”あ”ぁぁぁ! 和哉ぁぁぁぁ!」
いい歳をした男の号泣。 その姿を見て、白銀いちびは恍惚とした笑みを浮かべる。
「良い鳴き声じゃ…。 しかし、よりにもよってあの子達の傍におったとは… これも西谷の持つ力が原因かもしれんの…。 本当にやっかいな力じゃ…」
「お前達全員許さない! 殺してやるっ! お前ら全員儂がぁぁぁ!!」
号泣している公弦は、そんな白銀いちびを睨みながら暴言を吐く。
当たり前だ、自分の息子がこの女達に殺されたのだ… だから、恨みを込めて精一杯の暴言を吐く。
……しかし。
「残念じゃな、今更我達をどうするかとかもう無理じゃ。 だって、お主はもう生きられないのじゃからな」
「おのれぇぇ! この化け物めぇぇ!!」
「おーおーっ♪ 活きがいいのぅ♪。 さて梨沙や、之を使って何か作っておくれ」
そう言って暴れている公弦を物のように梨沙に渡す。
「なっ何をする! やめろっ! 俺をどうする気だぁぁ! うっぐぅぁぁ…」
バタバタと梨沙の手の中で暴れていた公弦は、梨沙の握る力で苦しみ藻掻く。
月城梨沙本人はそんな公弦を気にも留めず、何かを考えている様子…。
「よしっ! 今日は小人を使ったハンバーグをメインにして料理を作るね。 皆も今日は食べて帰って」
「わぁ~♪ もちろん食べます! 月城先輩の料理楽しみ~❤」
「私も食べて帰るわ。 あ、ひよこの分も作ってもらってもいいかしら?」
それぞれ梨沙の料理を楽しみにして喜ぶ女達。
梨沙の作る料理はどれもハズレがなく絶品だから…。
「白銀様、廃棄する予定の小人も使わせてもらいますが、宜しいでしょうか? どうせなら小人だけを使ったハンバーグを作りたいので」
「お~よいぞ~。 我も楽しみにしておるから宜しく頼む♪」
「はいっ! 腕によりをかけます」
~数時間後~
こうして公弦やその他の人間の小人を使ったハンバーグが、女性達のテーブルに並ぶ。
お洒落に皿の上に盛り付けられ、梨沙特製のソースを垂らしたメインとして…。
——これでもう、白銀いちびを滅する事が出来る人間は、この世から姿を消してしまった…。
唯一として残っていた最後の一人が、ハンバーグとなり人間の女性達にこれから食べられてしまうから…。
「うんまっ! 梨沙、我におかわりを所望する!」
「はい、そうおっしゃられると思って沢山作っていますよ」
一つの因縁の物語が終わりを迎え、そして新たな物語が始まる……
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読んで下さりありがとうございます。
4話に登場した西谷和哉が、ただのストーカーではなかったという話。
それと、話に出てくる人外らしき人物は一人だけです。
他の登場人物は全てが人間('ω')
広域はんい
2021-03-03 12:41:15 +0000 UTCzexcy15
2021-03-03 09:15:36 +0000 UTC