「えっ…嘘ッ!? 宙太! 何で宙太が玩具として並べられてるの……」
「はっ遥……」
女性客に買われるために、他の『商品』と同じように陳列されている幼馴染の男の子。
驚いたフリをする私の名前をぼそりと呟いて、ガラスの瓶の中で口をポカンと開けたまま私を見上げている。
実は、幼馴染が女の子の玩具にされる事は以前から知っていた。
宙太のお母さんに家にお呼ばれした時に聞いていたからだ。
——もちろん宙太には内緒の密談っていう形で。
~ひと月ほど前~
「ごめんね遥ちゃん、無理言って来てもらって」
「あっいえ、大事な話があるって言ってたのに、こんな遅い時間になってごめんなさい。 どうしても部活終わりになってしまって」
「いいのよ、遥ちゃんは演劇部の部長さんだものね。 忙しいのにわざわざ来てもらったのだから謝るのはこっちよ。 ささ、座って座って」
宙太のお母さんに案内されて、ダイニングテーブルの椅子に座る。
幼い頃からよくご飯を御馳走になっていた慣れ親しんだ椅子だ。
最近は部活で忙しくて中々こられなかったので、とても懐かしい。
「今日も暑かったわよね~、オレンジジュースでいい?」
「やったっ! ありがとう風子さん」
「ふふ、遥ちゃんは変わらないわね。 おばさん嬉しいわ」
「もうっ! 風子さん、子供っぽいって言いたいんでしょ!」
「うふふ、そうじゃないの。 こんなに綺麗に成長しても、やっぱり遥ちゃんは可愛いと思ってね」
「うぅ、それが子供っぽいって言ってるんだよぉ……」
風子さんは私を自分の娘のように可愛がってくれる、自分にとってのもう一人のお母さんのような人。
なので私の好物は全て把握されているから、なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになってしまう。
「はい、どうぞ」
コトリと私の前に大好きなオレンジジュースを置き、向かい側の席に座る風子さん。
さっそく頂いたオレンジジュースをゴクゴク飲む私の目の前で、言いにくい話なのか「はぁ~」と溜息を吐いて、テーブルの上にあるコーヒーカップの取っ手の部分をさわさわ触りながら、俯いた状態で固まってしまっていた。
(どっどうしたんだろ。 何かあったのかな……)
悩む風子さんを見てすごく心配になる。 助けを求めるようにキョロキョロと幼馴染を探すが、宙太はまだ家に帰ってきていないみたいだ。
(もう! 風子さんがこんな状態なのに何をやっているのよ宙太!)
「あっあの! 風子さん、とりあえず宙太に早く家に帰るように連絡してみますね」
少し幼馴染に対して苛立ちをおぼえ、宙太に今何処にいるのかと電話をしようとスマホを手に持つが——
「まっ待って遥ちゃん! いいの、あの子には連絡しないで」
「えっ!?」
あまりの真剣な表情で、テーブルに両手をついて身を乗り出す風子さん。
その勢いに呑まれたせいか、気圧されてしまい、思わず呼吸をするのも忘れてしまう。
「ごっごめんなさい遥ちゃん。 ビックリさせちゃったわね……。 実は聞いてほしい話というのはあの子の事なの」
「宙太の事?」
そういえば今日、宙太と一度も会ってもいないし連絡すらとっていない。
私は部活、宙太はアルバイトでお互い忙しく、これまで会わない日が度々あったから気にはしていなかったけど、でも、風子さんの並々ならぬ雰囲気に大切な幼馴染に何かあったのだと思い、だんだんと不安な気持ちが押し寄せてきた。
「風子さん、宙太に何かあったんですか!? もっもしかして事故に巻き込まれたとか?どっどうしよう! 風子さん、遥……どうしたら!」
代わりに次は、私がテーブルに身を乗り出し、風子さんに勢いよく詰め寄る。
「だっ大丈夫よ、あの子は無事で事故とかそういうのじゃないから。 遥ちゃん落ち着いて……ね?」
「無事……? 本当に宙太は無事なんですね?」
「ええ、今はあの子、アルバイトに行っているだけだから安心して」
「よっよかった~。 風子さんってばすごく真剣な顔をして話すんだもん……驚かせないでくださいよ~」
風子さんの口から無事という言葉を聞いてひとまず冷静さを取り戻し、椅子に座りなおそうとするが、続く風子さんの言葉で再度驚かされてしまった。
「え!? もっもう一度言ってください。 今、何て……」
「だからね、 ‟あのお店” にあの子を売る事にしたの。 すごいのよ? ‟生きている限り” サラリーマンと同じぐらいのお給料が振り込まれるのよ? だからね——」
困惑する私をよそに、風子さんは嬉しそうに話を続けているが耳に入ってこない。
(売った? 宙太を? あの店に?)
風子さんが話す ‟あの店” というのはもちろん知っている。 いや、知っているっていう次元じゃない。
幼い頃からお母さんに連れて行ってもらっていた、今現在も良く行く場所だから。
その為、あの場所に ‟売られた” という意味を私は誰よりも深く理解している。
宙太が今後どのようにして生きて行き、そして最悪の場合どうなってしまうのかを……。
「嬉しいわ~あの子が審査に受かってくれて。 無垢な高校生で受かる事なんてそうそうないのよ? 昔あった最高級の自慰用性具と同価値のレア物なの! ああ、これで私もお金を気にする事なくあの店で食事をしたり、マッサージをしたり出来るわ♪」
風子さんもあの店で宙太がどうなるのかを知っているはずなのに、気にするような素振りを見せない。 寧ろよくやったと褒めたたえている始末……。
「風子さん、何でそんなに喜んでいられるの! 宙太が……宙太が死んじゃうかもしれないんだよ! 嫌だよ……もう会えなくなるなんて。 グス……」
宙太が死んで会えなくなる。 そう思うと悲しい気持ちで胸が苦しくなり、勝手に涙が零れ出して頬をつたう。
「あっごめんね。 急にこんな話を聞かされて驚いたよね? でもきっとあの子は大丈夫。 若い自慰用性具なんて珍しいのだから、余程の事がない限り食用とかにされるなんて事はないから。 はい、このハンカチを使って涙を拭って? あの子は大丈夫だから」
「グス……はい……」
渡されたハンカチで涙を拭う。 しかし、いくら風子さんが宙太の事を大丈夫だと言っても信じられなく、涙が止まらない。
だって、あの店は宙太にとって過酷な場所なんだ。
誰からも同じ人間として見てもらえる事はない、生涯道具や食べ物として扱われる場所。
——私自身、これまでそうしてきた場所なのだから。
「でね、遥ちゃん。 大事な話と言うのはその事と、実はもう一つあるの。 あの子が少しでも役立たずとして処分されないようにするためのお願いなんだけど」
「お願い……ですか?」
「そう、お願い。 あの子がたくさんの女性に好まれる性具になるよう、自分の立場を教え込んであげてほしいの。 あの子と仲の良い遥ちゃんが実際に性具として使えば、あの子も自分がどういう存在になったのかすぐに分かってくれると思うから」
「使う……宙太を遥が……?」
想像してみる。 これまで一緒に育ってきた幼馴染を使っている私を。
異性として始めて意識した男の子を、私の体に好きに使っている姿を。
(……あれ? ちょっと良いかも)
一生懸命に私の身体をご奉仕する宙太。
そんな宙太を見ながら私は気持ち良くなっている。
ご奉仕をさせている最中に、宙太から愛を囁かせるのも良いかもしれない。
そんな囁き声を聞きながらする ‟オナニー” は、絶対に気持ちが良いに決まっている。
——私の好きに出来るんだ。 大好きな幼馴染をこれからずっと……奴隷のように……。
そう思ったら、あんなに悲しく思っていたのが嘘のように霧散していた。
寧ろ、今では早く宙太を使いたい気持ちが胸の内の大部分を締め——
「そう! 良かったわ♪ 遥ちゃんならきっとそう言ってくれると思っていたの!」
私は笑顔で風子さんに返事を返していた。
「たっ大変! 何があったか遥に聞かせてほしいから……とっとりあえず、二人っきりになれるお部屋に行こうか❤」
~そして今、目の前に小さくて可愛い宙太がいる。
何故だか本を手に持ち、子羊のように震えて、私の供物のようにそこに在る。
嗚呼、宙太。
私の宙太。
◇
「でさっ! 朝起きたら知らない場所にいて、それにこんなに小さな体にまでされて……て、おい、遥! ちゃんと聞いてくれてるのか?」
「ぷはぁ~! うん、聞いてるよ♪ 結局宙太自身も自分がどうしてここにいるのか分かっていないんだよね?」
遥に個室らしき部屋に連れてこられた俺は、机の上に乗せられて、目の前に座っている遥に自分の身に起きた経緯を話していたのだが、遥は俺の話をまったく聞いているようには見えなかった。
何故なら、グラスに入ったオレンジジュースを飲み、無くなればそそぎ足してを繰り返し、ニコニコとしながら俺の事を楽しそうに見つめていたから。
——明らかにこんな姿になった俺を心配している風には思えない。
「確かに自分がどうしてこうなっているのか知らないけどさ……。 遥、もしかしてお前が俺をこんな目に遭わせたんじゃないだろうな?」
「しっしてないよ! さすがに酷いよ宙太。 何で遥が宙太にそんな事をするなんて思うの? 幼馴染なのに……」
「あっいや……」
これまでの長い付き合いで、遥が嘘をついているかどうかは流石に分かる。
どうやら遥は、この一件とは本当に関係がないみたいだ。
(だったら一体誰に俺は……)
「ねぇそんな事よりも、これからの事を心配した方がいいよ? 宙太がここで長く生きていけるように遥も手伝ってあげるから」
「そっそんな事って……。 それに長く生きていけるように手伝うって……お前……」
あの日記を読んだから俺には分かる。 遥の言っている意味が。
此処には希望なんてものは何もなく、ただ慰み物として使われて行くしかないって事が。
だから遥が言う手伝うという意味。 これは暗に、遥が俺を使おうとしている事なのだろう……。
「宙太は特別に、遥の色んな事を教えてあげるからね」
「いっ嫌だッ! 知っているんだぞ! 遥が俺を性具のように扱うって事を!」
「嫌って……宙太は遥を好きじゃなかったの? 確かに宙太から告白はされていなかったけど、でも、好意を持たれていたのは気づいてたよ? 遥も宙太が好きだったから両想いだと思っていたのに、もっもしかして勘違い?」
「ちっ違う! こうなってから言うのもあれだけど、俺は遥が昔から好きだったんだ! でもさ、これは違うだろ? 俺はもっと遥とは普通にお互いを思い合ってしたいんだよ! 今から遥がしようとしているのは、自分だけが気持ち良くなるただのオナニーじゃないか!」
「そっか、よかった~♪ てっきり遥の片思いかと思っちゃった。 じゃあ、何も問題ないね? お互いを思い合ってるんだし❤」
「いやっだからさ!」
伝わらない。 俺が言っている意味を遥にはまったく伝わってくれない。
どこか、俺と遥には決定的に何かが ‟ズレ” ている。
そのお互いの ‟ズレ” が分からない限り、遥に理解してもらえないと思って必死になって思考していたそんな時、部屋のドアをコンコンとノックする音が室内に響いた。
「お客様、ご注文のお食事をご用意しました」
「あっ! は~い。 今でま~す」
まだ会話中なのに、俺を残してドアの方へ歩いて行く遥。
こんな事は始めてだ。 いつもなら俺に「ごめんね、ちょっと待ってて」と、一声を掛けていた。
それがどうだ? なんだか、ぞんざいに扱われているような気がしてならない。
互いを大切に思い合っていたら、そんな礼すら欠く行為をするだろうか。
(なんだか、遥が別人のように思えてしまう……あれは遥のはずなのに)
「では、失礼いたします。 ごゆるりとお過ごしください」
しばらくして、店員との会話が終わったのか、遥は銀の蓋を覆ったお皿を持ってこちらへ戻ってくる。
遥とのサイズを比較して、至ってシンプルな普通のお皿のサイズなのだが、
「うおッ!!」
俺の真横に置かれたそのお皿を見て驚かされる。
だって、遥が片手で持っていたお皿は、俺から見て家みたいに大きなお皿だったからだ。
(出してくれぇぇッ!) (あぁぁッ!) (誰かァァッ!)
そのお皿の中から、男の……人間達の悲鳴が聞こえる。
「な、なあ遥。 これは一体……なっ何だ?」
嫌な予感がする。
人が食事をするために食べ物を載せるお皿。
その銀の蓋に閉じられたお皿の中から、“人” の声が聞こえるために、考えたくもない事が脳裏にどうしても過ぎってしまう。
——だから
違うと……そうじゃないよと遥の口から言って欲しくて、希望にもすがる思いで遥に質問したのだが、
「ん? これ? これは遥のお昼ご飯。 この部屋に来る前に注文してたんだ~」
遥からは俺の思う、嫌な想像通りの言葉が返ってきた。
「ジャ~ン! ほら見て? すっごく活きが良いね♪ あッ! コラッ!! お皿の上から逃げるなッ!」
と、遥が机の上を叩いたせいで、地震のように揺れて尻もちをつく。
それほど激しい揺れで立っていられなかった。
——それに、
「やっやっぱり俺と同じ人だ……」
銀の蓋を開いたお皿の上には、やはり人間が載せられていて、逃げようとした人も恐怖で身を震わせながら遥を見上げていた。
無理もない。
(こっ怖い……)
——俺も、産まれて始めて幼馴染に対して恐怖心を抱かされていたから。
いつもと違う遥の表情。
可愛く美人で、愛嬌がある俺の幼馴染。
そんな幼馴染の遥が、家畜を見るような……なんの感情もない表情で、お皿の上にいる人達を見下ろし見つめているのだ。
誰かが言っていた。 美人は怒ると怖いと……。
しかし、遥のはそれ以上だ。 それ以上に怖すぎる。
関係のないはずの俺でさえ、身を縮ませるぐらいに……。
「ふんッ! やっと大人しくなった。 初めから立場を弁えていれば、こうやって遥が怒る事はないのに。 まったく、(人間の食べ物の畜人の癖に……)宙太もそう思うでしょ?」
「あ、あぁ……」
最後の言葉は聞き取れなかったが、なんだか遥は俺に向けて言っているように感じた。
俺も同じ立場なのだから分かっているよね? と、言っているように……。
「ふふ♪ じゃあ、宙太。 準備するから少しだけ待っててね? 宙太はお利口さんだから、大人しく待っていられるよね?」
遥はそう言って、着ている制服を脱ぎだし始めた。
スルスルと、俺やその他の男達のいる前で普通に……。