「ただいま。 ごめん、帰るの遅くなった」
「う~ん難しいわ……ん? あら、おかえり刹那」
ここは双子の姉妹が住むマンション。
その妹である『刹那』という女は玄関で靴を脱ぎ、姉の声がするリビングへと入る。
「いや~久々にエロステに顔を出したら、渚に人間を小さくするのを無理やり手伝わされてさ……ったく、何が暇でしょ? だよ。 暇じゃねえッつーの。 まあ、そのおかげでいくつか小さくしたばかりの人間と小人酒をもらえたからいいけどさ。 後で一緒にこいつらを使って楽しもうぜ! 姉さん」
「え、ええ、そうね。 う~んと、これをこうして……」
「……? なあ、ボクの話聞いてる?」
姉である『永久』の気のない返事に不審に思い目線を向けると、なにやらテレビの前で正座をして座り込み、膝の上にノートパソコンを置いて、ポチポチと何かを打ち込んでいた。
「あの、姉さん。 さっきから何をしてるんだ?」
「う、うん。 実はね、パソコンに記録した映像をテレビに映したくてね……どうせ見るなら大きい画面で見たくって」
「映像? もしかして映画か? ならボクも見たい! ちょうど小人酒もあるし、飲みながら一緒に見ようぜ」
「いや、映画ではないのだけど。 でも、きっと面白いと思うわよ。 ……よしっ! 出来た。 テレビにちゃんと出力されているわね」
テレビを見ると、パソコンの画面が大きく映し出されていた。
ボクはパソコンとか機械系は苦手だから、こういう事が出来る姉さんは素直にすごいと思う……のだけど……。
「な~んだ。 映画じゃないのならボクは見ないよ。 興味なんてないし」
「まあまあ、そう言わずに。 ほら、ソファーに座って一緒に鑑賞しましょ? 刹那も絶対気に入るって。 これはお姉ちゃん命令です!」
「うぐ! わっ分かったよ~仕方ねえな……」
「あ、グラスを二つキッチンから持ってきて? 小人酒を飲みながら見ましょうよ」
「ハァ~はいはい……」
姉さんがたまに出す『お姉ちゃん命令』にボクは逆らえない。
これに逆らうと口をとんがらせ、話しかけても返事すらしない。 また、別にいいやとその状態の姉さんを放置したままにしておくと、チラチラとボクにかまって欲しそうなオーラを出すわで、すごく面倒くさいから。
——その状態が約一週間ほど続くのだ……鬱陶しすぎる!
だからボクは、お姉ちゃん命令には逆らわないようにしている。
「ほら、グラスを持ってきたぞ」
「ありがとう刹那。 そういえば、自慰用性具を渚さんから貰ったんでしょ? いくつほど貰ったの?」
「なんだよ、ちゃんと聞いてたのかよ。 えっと確か……」
刹那は鞄の中をあさり、その中から片手で持てるほどの小さな檻を取り出す。
その檻をリビングにあるテーブルの上に置いて、中に入っている人間の男達の数を確認する。
「4、5、6……。 うん、6匹入ってるぜ」
「あら、結構貰ってきたのね。 なら内2匹をグラスに入れて、小人酒に漬けましょ」
「いいけどさ、こいつらはまだ今日小さくしたばかりで、調教も何もしてないから暴れると思うぜ?」
「平気よ。 スプーンでかき回したり、グラスの底に押し付けたりしていれば大人しくなるわ。 どの自慰用性具もそうだったでしょ?」
「そうなんだけどさ~。 そうするとアルコールが少し飛ぶし嫌なんだよなぁ……」
「ウワァァッ!」 「ヒィィィッ!」
そう言いつつも刹那は素直に従い、檻の中にいる人間の男性を二人ほど適当に選んで、透明なグラスの中にそれぞれ放り込む。
そしてそのグラスの中に、トクトクトクとボトルから赤黒い液体をそそぎ入れる。
構うことなく、小さくした男に浴びせるように……。
「ガボボッ! やめッ! ブクブクッ……」
「おら、大人しく入ってろ。 でないと、いつまでもスプーンで押し付けたままにするぜ?」
「えいっ♪ えいっ♪ うふふ❤ ごめんなさいね。 お酒をもっと美味しくするためなの。 あなた達のエキスってお酒にあって美味なんですもの」
姉妹が並んで座る、テーブルの上での残酷な行為。
それは、グラスの外に出ようとする男を銀色のスプーンで底まで押し付け、また、グルグルと円を描くようにかき回しているのだ。
男がグラスの中で大人しくなるまで、ぐるぐると……。
そして数秒もしない内に、グラスに入れられた二人の男は動かなくなり、かきまぜた為に起きる渦にのまれながら、プカプカと浮いてグラスの周囲を回る。
強烈なアルコールの臭い、さらには遊園地にあるコーヒーカップの遊具のように回されて酔ってしまい、溺れ、フラフラに目を回してしまったせいで。
「おーしっ。 これぐらいでいいかな」
「ええ、少しこのまま放置してからいただきましょ」
永久と刹那、二人の姉妹はこれを飲む。
複数人の人間をすり潰した酒の中に、男をさくらんぼのように入れた、この小人酒という飲み物を。
——たくさんの人間の男の命をふんだんに使った、贅沢な水を《嗜好品》として。
「はぁ~じゃあ姉さんを信じて見てみるか。 面白くなかったら怒るからな!」
まだ言いたい事があるのか、少し膨れっ面をしながらも、これ以上何も言わず大人しくテレビに視線を向ける刹那。
テーブルの上に置かれた檻の中にいる残った男達も、刹那と同じようにテレビに目を向ける。
「ま、まあ? 私も見た事がないから面白いかどうかは分からないけど……。 とりあえず再生するわね」
「おっおい! 何だよそれ! 時間を無駄にするのは本当に嫌だかんなボクは!」
「うふふ、では、始まり始まり~♪」
ちょっと妹が不機嫌になったと知りつつも、永久は気にせずリモコンのボタンを押した。
『ザザッ……… ザザザッ…………ぃ…こ…は……』
まず、テレビに映し出されたのはザーザーと流れる砂嵐。
その砂嵐の中で、何か微かに人の声のようなものが聞こえだす。
「なあ姉さん。 これ、壊れてるんじゃないのか?」
「ほ、ほんとね……。 あら? どうやら壊れていないみたいよ。 映像がちゃんと映し出されてきたわ」
姉さんの言う通り、テレビには裸の男達が戸惑う姿の映像が、くっきりと映し出されていた。
それと同時に、音声の方も聞き取りやすくなりはじめる。
「うげっ! なんでこいつら裸なんだよ! 男の裸なんて気持ちわりぃなぁ」
「確かに、この “大きさ” で見る男性のおじ様の身体は気持ち悪いわね。 引き締まってもいないし……だらしない身体だわ」
「なあ姉さん、ボクに見せたい映像ってこれかよ。 こんな汚い物を見せたかった訳?」
「ちっ違うわよ。 刹那に悪いと思うけど、もうちょっと我慢して見て……ね? あ、ほら! 何か喋ってるわよ」
◇
『なあ! 何かカメラがここに落ちていたんだが、誰のだこれ! しかもちゃんと動くし』
『知らねぇよ! そんな事よりもここが何処なのかお前も調べろよ!』
『あ、ああ。 分かった……』
そんな男達の声が聞こえた後、映像は辺り周辺をぐるりと見回すように映し出される。
どうやらこの映像を映している男が、撮影しながら動いているようだ。
『ほっ本当にどこなんだここは。 それに……これは家具? いっいや、ありえない! そんな馬鹿げた事……』
映像には、確かにカメラで撮影している男が言う通り、テレビやソファー、クッションなどが映し出されていた。 どこの家にでもある家具類が。
しかし、それらは皆普通ではない。 どれもこれもがでかすぎるのだ。
『い、いや! まさか、そんな! これではまるで、巨人が生活する部屋みたいじゃないか。 それに、さっきから自分達が立っているこの場所は、リビングのテーブルの上……なのか?』
そう、テレビに映っている男がいる場所は、部屋なのだとボクも思った。
現実離れしたありえない巨大な部屋なのだと。
しかし、それよりもボクは、テレビに映し出された家具類や風景に戸惑う。
だって、“見え方” が違えど、ボクが毎日と見ている物ばかりだったから。
「姉さん、こ、こいつらがいる場所ってまさか……」
「ふふ、そのまさか。 この人達がいる場所って私達の家なの。 これを映しているカメラマン? の男が言っている通り、目の前にあるテーブルの上に立っているみたいね」
「いや、立っているみたいねって……。 どこにもいないじゃないか」
「それはそうよ。 だってこれは昔に撮った、この人達の記録映像だもの」
「昔? 記録映像? なんだよそれ、ボクは聞いてないぞ! いつの間にこんなのを」
「実は、私達が使う小人って普段どういう景色を見ているのか、ふと気になってね。 その話を小泉さんと話してたら盛り上がっちゃって。 だったら見て見ましょって事で、小泉さんが超小型の頑丈なカメラを作ってくれたの」
「はぁ? 作ったって……。 姉さんにつられて何をやってんだよあの人も……」
「でも、よかったわ。 命令して撮影させる予定にしてたのに、勝手に机の上に置いておいたカメラを拾って、こうして撮ってくれて」
そんなこんな、姉さんとの会話をしてる間にも、映像は何やら動きを見せ始めたため、一旦会話をやめてテレビに集中する。
『おい、皆静かに…………。 何か変な音がしないか? それに、地面が揺れて……』
『ほ、ほんとだ。 地震?』
ドシッ……………ドシッ………………
それは言われて初めて気づくような音と、極めて小さな揺れだった。
しかし、次第にその揺れは大きく縦に揺れだし、ミシミシと木製のテーブルが軋みを上げ始める。
そうした事により、これは本能だろうか? それとも習慣? 男達は地震だと思い、誰かに言われずとも皆しゃがんで身をかがめだす。
『なっなんなんだ! 段々音がこっちへ近づいてきていないか。 おいあんた! これが何か分からないのか?』
『そ、そんなの俺が分かる訳ないだろ!』
慌てだす男達。 聞いたこともない重たい音と、揺れに襲われているため。
知能がある生き物は、自分の知らない未知なものに本能で “怖い” と思うように出来ているのだから、慌てるのも当然なのかもしれない。
それに、ボクも姉さんも、いったいこの現象はなんなのかが気になる。
どう見てもただの地震ではなく、この音が原因である事は分かるのだけど。
「せっ刹那……なんだか怖いわ」
「ぼっボクも、姉さぁん……」
お互い情けない声を出して、抱き合って映像を見る事しか出来ない。
自分達の知らない所でこんな音が鳴って、家が揺れているなんて知りもしなかったから。
もしかしてポルタ―ガイストなどの心霊現象だと思い、とても怖かった……んだけど——この現象の正体がすぐに分かって拍子抜けした。
だって、この音の正体は、
『ったく、なんで財布を忘れて行くんだよ。 せっかくじゃんけんに勝ったのに、結局ボクまでコンビニに行ってるじゃんか』
『うっかりしてたの……。 コンビニについた時に、財布を持っていない事に気づいて……』
——何の事は無い、ボク達だったから。
画面に映ったボクと姉さんは、話しながらこちらへ近づいてくる。
ドシッドシッと、床を踏む大きな足音をたてて。
『お? 全員目を覚ましてるみたいだな』
『あら、ほんとだわ』
『うぁ……ぁ…………あぁ………』
ボクや姉さんの姿を見て、カメラマンの言葉にならない驚愕した声がスピーカーから流れる。
《ウワァァッ!》 《おおおっ……まじか……》
また、腰を抜かしたりして、あちこちからもカメラマンと同じように驚く声も。
ボクはずっと、こいつらを失礼で情けない奴等だと思っていた。
これまでこうした男達は、ボク達を見るなりこのような姿をよく見せていたためだ。
でも、この映像を見て良く分かった。
確かにこうなるのも…………仕方がない。
「す、すげぇな姉さんこれ……」
「え、えぇ……知らなかったわ。 私達って、小人からこんな風に見えていたのね」
画面いっぱいに、肌色の巨大な柱が映し出されている。
ミチミチときつく締め付けた、網タイツを履いた太ももが……。
自分自身、これが本当にボク達の太ももかと思うぐらい、現実離れしている光景。
『アハハ、なんだよ情けねぇな。 腰を抜かしてる奴もいるぜ姉さん』
『あら、ほんと。 私達が怖いの? うふふ♪』
『し、信じられない。 ありえない! 何て大きいんだ。 夢……だろ……』
画面が、太ももから胸へ——。 胸からさらに上へと向けられていく。
ボクと姉さんの声がする、遥か見上げた先の顔まで。
「なんて顔をしているのよ刹那……」
そこには、ニマニマと薄ら笑いを浮かべて覗き込む、ボクの顔が映し出されていた。
自分で言うのもなんだけど、心底こいつらを見下した、とても醜悪な顔だ……。
「ちょ、姉さんもだろ! やべぇ顔をしてるじゃん! アハハ♪ すっげぇ顔」
姉さんに至っては、更に酷い顔をしていた。
笑顔を浮かべているのに心では笑っていなく、なんていうのか……そう、弱者を見て悦に浸って発情している、そんな顔。
「アハハハッ♪ やばっ! ちょっとツボに入ったかも……アハハハハッ」
「……………………」
あまりに姉さんの顔が面白くてしばらく笑っていたら、隣にいるはずの姉さんから何の反応も返ってこない事に気付いた。
「あっやべっ………」
「酷い……そんなに笑う事ないじゃない。 ま、まあ? 確かに人様には見せられない表情をしているわよ? でも、こんな恐怖で震えている姿を見せつけられているんだから、仕方ないじゃない。 好きなのよ! 小人のこういう姿を見て、どうしようもなく昂るの! どうせ私はSですよ~だ!」
「い、いや、姉さんがSって事は知ってるし……。 なんならボクもそうだし。 だから笑ってゴメンッて! 拗ねるなよ……な? ほら、小人酒が良い感じになってるんじゃないか? そろそろ飲もうぜ姉さん」
「う、うん……」
「笑ってごめんな姉さん。 乾杯しようぜ!」
「……ええ。 か、かんぱ~い」
ゴキュッ……ゴキュッ………
『あなた達はね、全員私と妹の刹那に、性処理の道具として使われちゃうのよ』
『うれしいだろ~。 こんな綺麗なお姉さんがお前達を使ってオナニーをしてやるんだぜ?』
ボク達が小人酒を飲んでいる間も、テレビに流れる映像は進んでいる。
今は、驚き腰を抜かしている小人に向けて、自分達がどういう存在になったのかを “優しく” 説明している所だ。
今考えると、別にそんな面倒臭い説明をしなくても、無理やり使えばいいじゃんと思う。
どうせボク達の力に敵う訳ないんだし。
そんな事を考えながら、グラスに残った小人酒を、クイッ! と一気に飲み干した。
「ぷはぁ~! やっぱうめぇな小人酒❤」
「んっく……んっく……ゴクンッ! ええ、身体が生き返っていくのが分かるわ♪」
「まあな! 小人の効能で細胞が活性化しているしな。 最高だぜ♪」
グラスの中に残る、浸しておいた男の上半身を咥え、チュパチュパと舐る。
愛し合う人間同士が、舌で舐め合うあの深い行為とは違い、食べ物の味を味わうような感じだ。
もちろんこの男はまだ生きている。
舐るボクの舌を必死に押し返そうと頑張っているが、酔っているのか力は弱い。
男の上半身に舌を乗せたままにしていても、持ち上げる事すら出来ないみたいだ。
女の……ただのボクの舌なのに。 笑える❤
チラリと隣に座る姉さんを見ると、ボクと同じようにして男を舐っている。
いや、違うか。 ボクのそれとは違う。
姉さんの舐め方は何て言うか……エロい。
舌先でツツっと男の小さな身体を舐めたり、かと思えば急に口に含んでジュポジュポと出し入れをして舐るから。
そんな風にしばらく姉さんと共に男を舐っていると、たくさんの熱い視線を感じた。
「ンレロ…レロ……ぷはぁ~。 お? 何だ? こいつが羨ましいのか? アハハッ♪」
それは、テーブルの上に置いた小さな檻の中からの、4人の男達からの視線だ。
こいつらは、今日の夕方に小さくしたばかりの男達。
間違いなくそれまでは、人間として在った者達。
そんな者達は、身体が小さくなって、気付いたらボクの家に連れて来られていたから、訳が分からなかっただろう。 自分がどういう物になったのか、何も知らないのだから。
でも、テレビに流れる映像を見て、自分自身がどういう存在になったのかを理解してきているみたいだ。
自分と同じ大きさの男を、ボクと姉さんがこいつらの目の前で、食べ物のように舐っているのだから尚更に。
……ゾクゾクする。 こいつらがこんなに慄いてボクを見てくるから。
ハッキリ言って好きだ。 こいつらのこの、絶望したような目がどうしようもなく。
——ああそうか、なるほど。 姉さんもこの視線にいち早く気づいていたから、あんなエロい舐め方をしてこいつらに見せつけていたのか。
そう納得したボクは、舐めていた男をまたグラスの中に吐き出し、新たに小人酒をトクトクそそぐ。
「ほら、姉さんもグラスを貸せよ。 まだ飲むだろ?」
「う、うん♪ ありがとう刹那」
姉さんにも同じように、空になったグラスの中へ小人酒をそそいであげる。
「うふふ、またしばらくお酒に浸かってて頂戴ね❤」
好物の酒を飲んだせいか、姉さんはニコニコしている。
すっかり機嫌を直してくれたみたいだ。
『よ~し。 全員、今の在り様が分かったみたいだな』
『ええ、小さい脳みそなりに理解してくれたようで助かるわ』
《クソ……》 《あんまりだ……》
そんな時、ちょうど映像でも動きを見せていた。
どうやら、ボク達の道具として生きて行くことになるという説明は、やっと終わったみたいだ。