~全ての授業が終わった放課後の教室内~
「なあ正司、健太、ちょっと時間あるか? 今から二人に付き合ってほしいんだが」
「なんだ? 別にいいが、和哉を探しに行かないのか?」
「僕もこの後、和哉を探しに行く予定にしてたから、時間はある事はあるけど」
俺達三人は、放課後集まれる時はいつも『西谷 和哉』を探しに出かけていた。
最近ニュースでも取り上げられなくなってしまい、クラス内でももう……諦めた感じの嫌な噂まで流れ出してしまっている。
まあ、あれから半年以上も経っているので、仕方がないと言えばそうなのだが。
それに、『藤田 速人』も『大友 健太』も、そして俺『岩田 正司』も、言葉には出さないが内心では……。
だからと言って、和哉は仲の良い友達だ。
生きている可能性があるのなら、俺達の手で助けてやりたい。
そう思って和哉が居なくなった日から、よく放課後に集まるようになり、今回も探しに行こうという速人からの誘いだと、そう思っていた……。
「なんだけどよ。 実はその前に、柏木と校舎裏で会う約束をしてるんだよ! この後、二人でって話なんだけど、その……一緒についてきてくれない?」
どういう訳か、速人は『柏木 明日香』と二人で会う約束をしていたらしい。
嬉しいのか、その事について浮かれたように俺達に話す速人。
だが、最後の方は段々と喋り様が自信なさげになっていく。
不安なのだろう……。
こいつは昔から『柏木明日香』の事が好きだったから緊張してしまって。
「せっかく二人で会う約束をしているのなら俺達は邪魔だろ」
「そ、そうだけどよ、何の話で呼ばれたのかも分からないし怖いんだよ。 後ろから隠れて見守ってくれているだけでいいんだ。 だからマジで頼む!」
ウルウルと涙目になっている速人。
いくら好きな相手に呼ばれたからといっても、これはない。
二人で会う度胸すらないなんて。
そんな速人に健太は見かねてか――
「ハァ~まあ、いいんじゃない正司」
「お……おぉ! 健太ぁ~心の友よぉぉ~!」
「わっちょっ! 抱き付くなよ速人!」
と、健太は優しい言葉を投げかけ、喜んだ速人は健太に抱き付いた。
そんな二人はじゃれついて、ワチャワチャとクラス内で暴れている。
机に体が当たったり、椅子を倒してしまったりして騒々しい。
まあ、別に今は放課後で、クラスで残っているのは俺達以外誰もいないから、特に俺は注意せずに放置していたのだが……しかしそれは間違いで、一人だけクラスメイトの女子がまだ残っていたらしく……。
「もう! 煩いっ! 落ち着いて読書が出来ないじゃないですか」
「ご、ごめん!」
「すまん……」
当然、怒られてしまった……。
教室に残っていたのは、「白鳥 詩織」というクラスメイト。
本が好きみたいで、よく一番後ろの自分の席で読書をしている女子だ。
まさか放課後にまで残って本を読んでいたなんて……騒いでしまって悪い事をしたな。
そう思って罪悪感からか、いたたまれない気持ちになる。
健太に至っては、ちょっと落ち込んでいる始末。
それを気にしてか速人は「騒いでたのは俺だし、もう一度謝ってくるわ」と、俺達を代表して白鳥に謝りに向かった。
「ほんとすまん、白鳥。 ってかまだ学校に残っていたんだな。 この後、何か用事でもあるのか?」
「……ハァ~。 用事があるって言えばありますね。 でも、問題のあなたがのんびりしているから、私がこうして時間を潰し……あっ!」
「……ん? 俺がのんびり?」
「な、なんでもない! 忘れて下さい」
離れた場所からでも聞こえてくる二人の会話。
その会話の中で、白鳥は何かを言いかけていたみたいだが、意味がまったく分からない。 もちろん、速人だって頭の上にハテナマークを出している様子。
(なんだ? 速人が帰るのを待ってる? でも、それが白鳥になんの関係が……)
誤魔化す様にあたふたとしている白鳥が珍しく、俺は普段見せない白鳥の様子が変に気になっていた。
――と、そんな時、速人から開放された健太がいつの間にか俺の横に立っていて、ホッとした様子で喋りかけてくる。
「よかった~白鳥さん、あまり怒っていないみたい」
「あ、ああ……そうだな。 しかし、何か今日の白鳥の様子って、何処かおかしくないか?」
「ん? そうかなぁ? いつもの白鳥さんだと僕は思うけど」
確かに、一見普段と何も変わらないかのように思える。 でも、なんだろう。 こうして速人と話す白鳥を見ると、何故だか良く分からない気持ちにさせられる。
時折速人を見つめる白鳥の目。 同じクラスメイトに向ける視線じゃないような……何か品定めをしている? そのような視線な感じがする。
(いや、さすがに白鳥に対して失礼だろ。 何を考えているんだ)
俺は頭をブンブンと振り、馬鹿な考えを霧散させて気持ちを切り替える事にした。
「……? なにやってるの正司」
「……ん? ああ、気にしないでくれ。 それよりも、柏木が速人を校舎裏に呼ぶ理由って、やっぱ告白なのかな」
「ん~僕は違うと思うけど。 だって、柏木さんと僕達って住む世界が違うじゃん。 奇跡的に和哉は付き合えたみたいだけど、やっぱりすぐ別れてしまったし……。 柏木さんって、気さくに見えてもお嬢様だからさ、庶民の僕達とは釣り合わないよ」
「まあ、そうだよなぁ……」
「あ、僕がそう思うって話だからね! こればかりは、柏木さんの所へ行ってみないと分からないし、もしかしたら本当に告白の可能性もあるかもしれないしね」
健太と俺は、お嬢様の柏木が速人と二人っきりで、校舎裏で待ち合わせしている理由について考えていた。
言っちゃ悪いが、女子の中でもあまり評判が良くない速人を……だ。
まあ、良くないと言っても、長く同じクラスで過ごしてきたから、根は良い奴だと女子連中は分かっていて、決して嫌ってるって訳ではないのだが。
そんな事を健太と話していたら、当人の速人がトボトボと俺達の方へ歩いてきた。
「ふぅ、読書の邪魔だからって白鳥に追い払われた……。 俺の扱い酷くね?」
「あ、あはは……」
白鳥を見ると、動物を追い払うみたいにシッシッと手で払っている。
相当邪魔に思っていたのか、目で「早く教室から出て行け」と、そう俺に言っているように感じた。
そんな白鳥の意を汲んで俺は――
「なあ、柏木との待ち合わせの時間は大丈夫なのか?」
「あ、やべっ! 17時に校舎裏で待ち合わせて……うわ、後10分しかない! 健太、正司、急ぐぞ~!」
「ちょ、分かってるから押さないでよ! コケルって!」
速人を教室から出すために、言葉で誘導した。
その甲斐あって、健太の背中を押しながら、騒々しく教室から出ていく速人。
もう忘れたのか、今し方白鳥に注意されたばかりだというのに……。
さすがに俺は溜息をついてしまった。
「騒がしくしてごめんな。 もう、俺達は行くから」
最後に謝って俺も教室から出ようとした時、
「あの、岩田君」
白鳥は憐憫(れんびん)な目をして喋りかけてきた。
「ん? 何だ?」
何故そんな目を向けられなければならないのかと、少し苛立つが、とりあえず返事を返す。
「岩田君もついて行くの? 柏木さんからお呼ばれしているのは藤田君だけなのに」
ああ、なんだ。 この後、速人が柏木と待ち合わせしている事を知っていたのか。
まあ、それも当然か。 白鳥は柏木達と仲がいいし。
「速人と一緒に行くって言っても、少し離れた場所までだけど。 あいつ、一人で行くのは勇気がないみたいでな」
「……そう。 うん、そっか……。 ごめんね、呼び止めて。 また会いましょ」
「い、いや? 別に良いけど……」
本当に今日の白鳥は何処かおかしい。
また会おうなんて、クラスメイトだから明日になれば嫌でも会うのに。
「おーい、正司! 何やってんだよ。 早くいくぞー」
そんな時、俺を呼ぶ速人の声が聞こえた。
見ると健太と二人、廊下で退屈そうにして待っている。
「ああ、悪い! 今行くよ。 じゃあ、二人が待ってるしもう行くわ」
「……ええ」
何処か白鳥の様子がおかしいと思いつつも、俺は背を向けて速人達の元へ向かった。
「さようなら……岩田君」
――背にかけられた、白鳥の “さようなら” という言葉を無視して。
和気あいあいと、三人が廊下を歩いていく姿を一人静かに見つめる「白鳥詩織」。
そんな少女は気だるそうに、ハァ……と深く溜息をつき、鞄の中からスマートフォンを取り出して、何処かに電話をかけ始めた。
「もしもし? うん、今向かいました。 予想通り、やはり大友君と岩田君も一緒について行ったみたいです」
机の上に広げていた本を、電話をしながらテキパキと片付けていく詩織。
「はい……うん。 “予備” を貰っていて正解でしたね。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 一日に三人も消えたりしたらさすがに……え、大丈夫? そうですか、すごいですねエロステって」
もの大人しく、美少女である詩織。
一年の頃は、あまりクラスの中でも会話をする事が少ない浮いた少女だった。
ただ、毎日同じ空間で過ごすにつれて、クラスメイトとも話す様になり、近寄りがたい空気はいつの間にか無くなっていた。
今では、時折笑顔になる表情にやられて、他クラスの男子からも好意を持たれるほどになっている。
まあ、その理由は建前で、他の女子達よりも明らかに綺麗で美しくあるのが、一番の理由だが。
そんな少女が、男子がひと目見て幻滅するような、あまりに醜悪な表情をしながら楽し気に電話で話をしている。
「あ、うん。 柏木さんは、もう既に校舎裏にいるんですよね? では、私達は下駄箱で待ち合わせをして……うん、そういう段取りで。 さっそく今から向かいますね、天上院さん」
僅か二~三分ほどの会話。 それほど時間は経っていない。
詩織は、『天上院 茉由』との通話を切り、三人の男子の後を急いで追うように教室から出ていく。 不穏な言葉を呟きながら……。
「それにしても、可哀想な大友君と岩田君。 藤田君の巻き添えで自分達もが葉山君の……ううん、ポチの代わりになるなんて」
誰にも聞こえないとても小さな声。
独り言を呟き、尚、歩く速度を早めて詩織は速人達の後を追った。
ああ、三人の男子の最悪な運命が近づいてくる。
詩織が進む、一歩、一歩の歩みで……確実に。