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広域はんい
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⑥縮小奴隷日記 11話 後編~新たな犠牲者~

 ズシィィンッ! ズシィィンッ!


「うあ……ぁぁ……ぁ……」


 先生が歩いた事によって、上昇しては落下し、上昇しては落下を繰り返す、足踏みの運動に巻き込まれていた。

 たった一歩の衝撃で、体に信じられないほどの負荷がかかり、息が詰まる。


 ズシィィンッ! ズシィィンッ!

 と、廊下を歩く凄まじい衝撃。


 ドォォンッ! ドォォンッ!

 と、階段を登るとてつもない震動。

 ――そのどれもが “拷問”。 自分にとって、あまりにも苦痛な時間であった。


「ウッ……ゴボォッ!」


 思わず口から吐物(とぶつ)が飛びだすほど。


 にも関係なしに、歩き続けられるこの現状。 ――地獄としか言いようがない。


「や……め……せん……せぇ…………」


 微かな声でやめて欲しいと言うが、構わず廊下をズンズンと歩かれる。

 そんな責め苦を与えている先生は、一体どんな表情をして歩いているのか、俺からは確認できない。


 何故ならば、靴に仰向けに挟まって、天を見上げている状態であるため。

 先生の足元……つまり真下にいるのだから、当然スカートが邪魔をして、顔を確認する事が出来ないのだ……。


 見えるとしたら、せいぜいスカートの中身のパンツや太ももぐらい。

 男ならば嬉しいと思えるはずの光景も、しかし今は、そんな感情なんて抱けない。

 ――延々と襲い来る、とてつもない歩行の衝撃のせいで。


「はーい、皆座って~」


 そうした状態がしばらく続き、スカートの上から先生の明るい声が聞こえた。

 同時に、あれほど激しかった衝撃がピタリと止んだ。

 ……ただ、先生が歩くのをやめただけで。



「ぅ……ぐ……」


 歩く衝撃が無くなり、なんとか上半身だけが動かせられる。

 と言っても、腹筋に力をいれて少し起き上がる程度だが。


(こ、此処……は…………教室か?)


「起立」


 俺の疑問なんか誰も答える訳もなく、誰かの号令でガタガタガタッと、そこかしこから耳をつんざく音が鳴った。

 ――そして、


「おはようございます!」


 と、クラスメイト達の元気な挨拶が聞こえた。


(ああ、ここは教室で間違いないようだ。 しかも、俺が毎日と通っていた自分のクラスの。 しかし……)


 机の横に立ち上がったクラスメイト全員が、俺とはもう、かけ離れた存在に見えてしまう。

 皆が皆、全員が途方もなく大きな巨人だからだ。

 昨日仲良く話していた、あいつもそいつも――誰も彼も。


「着席」


 そんなクラスメイトが椅子に座ったとしても、俺との差は対して変わらない。

 キノちゃん先生の靴に、本人に気付かれずに挟まれて、履かれている俺とは……。


 そうした羨ましそうな目でクラスメイトを眺めていたら、ふと、誰も座っていない席がある事に気づいた。


(あ、あれって……)


 それは、まぎれもなく俺達が座っていた席。 使用者のいない空きとなった……。


(やっぱり、速人と健太は来ていないんだな……)


 もしかしたら? という期待はあった。

 でも、これでもかと現実を突きつけられてしまった。

 本来ならば速人達が座っていたはずの、寂しそうな空席を見て……。


 代わって俺達をこんな目に遭わせたあいつらは、至って普通に登校して、自分の席に座っている。

 ――それに、


(笑っていやがる……)


 いつものように談笑して笑っている……。 それが、堪らなく憎らしい。


(こいつらのせいで、俺がこんな酷い目に遭っているというのにッ!)



「はーい! 皆静かにして~。 今から先生大事な話をするから!」


 突然先生が、パンパンと手を叩いて皆に呼びかけた。

 それによって、ガヤガヤとしていた教室内は一瞬で静まり、全員の視線が先生の方へと向けられる。

 

「えっと、誰か昨日の学校の帰りに、藤田君や大友君、岩田君の三人を見た人はいませんか? 家にも帰っていないみたいなんです」


 教室がまたざわめきだす。

 そんな中で、ハッキリと『柏木 明日香』と『浅見 桜』の話声が、俺の耳にまで聞こえた。


「ん? あれ? 明日香、昨日藤田と放課後に会ってたんじゃなかった?」

「へっ!? い、いや~昨日待ってたんだけどさ、すっぽかされちゃって」

「ハァ? マジ? ほんとごめん! 藤田の奴が……」

「あはは、良いって。 特に気にしてないからさ」

「せっかくアタシがお膳立てまでしてやったのに……学校までサボって速人のやつぅッ!」


 何食わぬ顔ですっとぼけている柏木が信じられない。

 その他にも、『天上院 茉由』『白鳥 詩織』もまったく先生の話には無関心な様子。


(お前らのせいなのに……おまえらの……)


「んー、皆知らないみたいだね。 細かな事でも良いから、思い出したら先生に教えてね」

「「はーいっ」」

「じゃあ、授業を始めますよ。 教科書を開いて」


 そして、先生の一声で授業が始まった。

 自分にとって授業なぞとは違う、拷問の時間が。


「うわッ……ぁ!」


 ドスンッ! ドスゥンッ!

 教科書を読みながら、教室の周りを歩く先生。

 この時間、皆が静かに勉強している中で、ずっと先生の歩行という拷問を受ける事になる。


「せ、せんせぇッ! 俺はここにいるんだ! 気づいてくれよ! お願いだから……」 


 泣こうが叫ぼうが何をしようが、授業の終わりまでずっと――。


 いや違う。 この拷問は授業が終わっても続いていく……。


 キーンコーンカーンコーン♪


「はい、一限の授業はこれで終わりにします。 出した宿題はちゃんとやってきてね」


 だってそれからも、職員室に戻る先生の歩行に巻き込まれたり――。


「ぁぁ……せ、先生ぇぇ!」


 また、別クラスの教室まで向かう歩行にも巻き込まれたりして、永遠と思える苦痛な時間を、与え続けられているのだから。


「ぁ……ぅ…………」


 休まる時間なんて一向にやってこない。

 先生の靴に挟まれている限り、延々と……。


 なので、先生が何処に行くにしても、俺は強制的に付き合わされる事になる。


「ぁ……ぁぁ……ッ! こ、こんなのじゃまるで、俺自身がキノちゃん先生の靴に付いている、装飾品みたいじゃないか!」


 そう、自分でも思ってしまうぐらいなのだから、周りの目からもそういう風に見えているのかもしれない。


 ――だって完全に今の俺は、“先生の一部”と化しているのだから……。


………………

…………

……


 キーンコーンカーンコーン♪


 三限目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 それと同時に、先生は急ぐように教室から外へと足早に歩き出す。


「ハァハァ……。 い、急がないと……漏れちゃう!」


 ドスゥンッ! ドスゥゥンッ!

「うぁ……な、なんだ!?」


 どうしてこんなに急いでいるのか、何処に向かっているのかは分からない。

 先生の一部と化した自分でさえも……。


 ギィィッ! バタンッ!

「ま、間に合ったぁ~」


 何やら焦っていた先生は、ドアを開いて何処かの個室に入ったようだ。


「んしょ、んしょ」


 と言う可愛らしい声の後、上から一枚の白い布がズルズルと落ちて来た。

 そしてすぐに何処かへ座ったようで、安心した先生の声が個室内に響く。


「はふぅ~」

「うそ……だろ? 先生……」


 チョロチョロと自分の真上から聞こえる水が滴る音。

 その音を聞いて分かった。 先生が急いでいた意味と、自分が何処に連れて来られたのかを。


 シャアアアアアアッ!

 また、滝のように激しさを増した音を聞いて、完全に把握した。


「う……ぁ……すごい……」


 これだけは分かる。 あの滝のような水に巻き込まれたら、ただじゃ済まないと。

 キノちゃん先生の足元から聞こえる音でこれだ。

 絶対に、あの中では物凄い光景が繰り広げられているはずだと。


 ただキノちゃん先生は、洋式便器に座ってオシッコをしているだけなのに……。


「はぁ~三人とも、どこで何をしているんだろ……。 何事もなく、無事でいてくれたらそれでいいんだけど」


 用を足しながら、俺達の事を心配して独り言を呟く先生。

 ありがたいとは思うが、今、まさしく生徒の一人である俺が、先生の靴に挟まれて苦しんでいるって事に、いい加減気づいてほしい。


「だめだめッ! 先生の私が落ち込んでちゃ。 うん、寝る前にジョニー君で嫌な気持ちを発散して、明日は笑顔で教壇に立たないとね」


 そう言ってすぐに、ガラガラガラとペーパーを巻く音が二度ほど鳴り、先生が椅子から立ち上がる。


「よっこいしょ!」

「せ、先生の……マ……ン」


 だからこそ見えてしまった、キノちゃん先生の生の割れ目。

 こんな場所からあの音の元凶がしていたなんて、とても信じられない気持ちになる。


「んっしょ、んっしょ!」


 ザァァァと水が流れる音と共に、クニクニと腰を動かし、ずらしていた白い布のパンツを持ち上げていく先生。

 柔らかそうな割れ目にパンツを食い込ませて、そしてまた先生は歩き出す。



 ――ああ、また始まった。

 ただただ上昇下降を繰り返す、先生の歩行という拷問が。


「ぅぁ……もう、やめ……て」



 それから昼休みが終わり、五限、六限と時間が進み、その頃にはもう、悲鳴を出す気力すら無くなっていた。


 為すがままだったからだ。 先生の歩くという拷問に、ただただ……。


 だがしかし――


「きゃッ!」

「がはッ……!」


 不意に、先生の足の牢獄から解放される事になった。 先生が廊下で躓き、足から俺の体がすっぽ抜けたおかげで。


「うぅ~は、恥ずかしい……。 何もない所で転びそうになるなんて」


 そう言って、ズンズンと廊下を歩いて行く先生の後ろ姿を、少し複雑な面持ちで見つめる。 


 拷問から解放された嬉しさと、結局気づいてもらえなかったという悲しさ。

 そんな両極端の感情が渦巻いて。


(結局またふりだしか。 とりあえずは、この場所から離れないと)


「ぅ……ぁぐ……」


 このまま廊下の真ん中で倒れている訳にはいかない。 なので、すぐに立ち上がろうとするが、体が思うように動かなかった。

 電池が切れてしまったかのように、仰向けで倒れたまま動けない。

 指一本動かすだけでも辛い。


 それでも何とか頑張って動かそうとしていたのだが……そんな自分に、最悪な悲劇が襲いかかってきた。


「近い内にまた弟と遊んでくれない? りんの前だとすんごく言う事きくし」

「アハハ。 うん! 分かった」


 ドシィィンッ! ドシィィンッ!


「ぁ……ぁぁ……」


 自分が倒れている廊下を歩き、遠くから聞こえてくる二人の足音。

 クラスメイトである女子の二人が、楽しそうに会話をしながら、段々と近づいてくる。


 ドォォォンッ! ドォォォォンッ!!


「ぅく……ぁ……」


 ――物凄い足音を響かせて。


(ま、マズイ! このままじゃ……)


 俺は今、確実に踏まれてしまう位置にいる。 こちらへ向かってくる足の位置で分かる……が、だからって、死に物狂いで身体を動かすも、手足の自由が利かなくどうする事も出来ない。


「ハ……ハハ……」


 ああ、ボキッ! と心の中で何かが折れた音がした。 だからか、力ない笑い声が口からこぼれた。

 自分の最後を予感したせいで……。


 ならせめて、これから俺に引導を渡す、クラスメイトの女子を見ようと決めた。

 二人向き合って、楽しそうに会話をしながら歩く二人を――じっと。


 どうしてこんな行動をとったのか自分でも分からない……が、多分最後に見たかったのだと思う。

 昨日まで一緒に過ごしていた、日常を過ごすクラスメイトの顔を、思い出として。


 ドゴォォォォンッ!

 上空から落とされる巨大な足。 故に廊下を踏む足からの風圧が吹きすさぶ。

 その足は、また高く高く持ち上がり、自分が倒れている “真上” の位置にまで移動する。

 ……そして、


 グオオォォォォッッ!

 真上から迫りくる、靴底の光景を最後に――意識は暗闇の中へ沈んでいった。

 自分の骨が砕けていく音を聞きながら……。




「ひゃんッ! な、何!? 何か踏んじゃった」

「踏んだって何を……あれ? これって、明日香が前に持ってきてた人形ちゃんじゃん」


 そう言って、『並木 りん』が踏んだ正司を拾い上げる浅見桜。


「うわぁ~可哀想に。 手足が折れ曲がってるし……。 相当りんが重かったんだね」

「お、重くないよッ!! 酷いよ桜ちゃん!」

「アハハ、ごめんって。 しっかし汚いなぁこれ。 めっちゃ汚れてるじゃん」

「うん、きっと明日香ちゃんが落としてから、拾われずにこのままだったんじゃない?」


 拾い上げた正司をジロジロと覗き込む二人。

 そして近くで見たからこそ、りんは何か違和感を覚えたようだ。


「あれ? 桜ちゃん、ちょっとそのお人形貸して」

「ん、ほいっ! どうぞ」

「……やっぱり。 ねえ、これって岩田君に似てない?」

「うん? うぇ!? 本当だ! ソックリ過ぎて笑える。 はやまんの時も思ってたけど、本当によく出来てるな~。 まさか本人だったりして♪」

「ふふふ、もう~いくら似ているからって、そんな事ある訳ないじゃん。 それよりも、明日香ちゃんに謝らないと。 お人形さん壊しちゃったし」

「そうだねー。 でも明日にしたら? 教室にはもう誰も残っていなかったしさ」

「うん、そうする。 それに、せめて綺麗にしてから返さないと失礼だしね」


 りんは手に持っている正司を、いそいそとポーチの中へと詰め込む。

 どうやら持ち帰るつもりのようだ。


「じゃあ帰ろうか、りん」

「うん、行こう♪」


 夕日が照らす廊下。


「あ、はやまん人形が気持ち良かったからって、帰ってからエッチな事に使ったら駄目だぞ~?」

「ちょっ! つ、使わないよ! そんな事しないもん!」


 二人が歩き去ったその廊下には、正司が確かにそこにいた証を残していた。

 赤いわずかな染みとして……。


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続きのお話は、25日か遅くても26日には投稿できると思います。

お待たせして申し訳ございません。

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