複合商業施設、【エステサロン・エロスティック】内にあるパーティー会場の大ホール。
丸テーブルがいくつも並べられており、その上には白いお皿に載った色々な料理がビュッフェ――いや、バイキングスタイルとして並べられていた。
野菜や果物、肉や魚の切り身。 また、チョコレート等のお菓子の類まで。
しかし、それらとは異彩を放つ “者” も料理として並べられていたのだった。
――先に語った人であった者達が、淑女達の食す今宵の供物として。
ただただ、食されるだけの食べ物に成り果てて……。
「いや……どうしようか、りん」
「ど、どうしようかと言われても、こんなのりんは食べたくないよ……」
「だ、だよね、あたしも無理……」
「それにしても、詩織ちゃんは何で平気な顔をしてお皿の上に小人さんを載せられるの?」
自分の持つお皿の上に、トングで掴んで次々と小人を載せていく詩織に苦笑いを浮かべる。
「――え? もちろん食べるためですが。 あ、向こうにあるのも美味しそうですね♪ ごめんなさい、私はあっちのテーブルの方に行ってきますね。 何か困った事があれば呼んで下さい。 それではっ!」
「あ……うん」
「い、いてら……」
ウキウキしながら別テーブルに向かう詩織。
去って行く詩織の背中に向けて、二人は生返事を返すしかなかった。
さも当たり前に答えられたものだから、りんと桜は自分達がオカシイのかと混乱して。
「……ちょ! ――いやいやッ! しおりん食べるためって言った! ハァ? 冗談っしょ!」
「り、りんも冗談だって思いたいけど……ねえ、桜ちゃん、あそこ……」
桜はりんが指さす方へ視線を向ける。
するとそこには、楽しそうに談笑する三人の大人の女性達がいた。
手には、小人を載せたお皿を持って。
「でも驚いたわ、萌ちゃんがあんなに成長してて。 この前会った時はまだ小さかったのに。 はぁむ❤」
「くふふ、もう中学生だもの。 私の方こそ遥ちゃんが大きくなっててビックリしたわ。 んッ! ゴクンッ‼ ゲフゥ……。 宙太君と同い歳でしょう? 子供って成長が早いわね」
「ね、本当そう思う。 ただ、うちの子は男の子だから今はやんちゃ盛りで困るけど。 出した玩具はそのままで片付けないし……。 んッ……ごくんッ‼ 遥ちゃんみたいに少しは落ち着いてほしいわ」
「あはは、うちもそう変わらないわ。 遥だって何度言ってもお片付けを忘れたりするもの。 ――あーんっ」
《ヒッ、ヒエェッ‼》
母親である淑女、『宮脇 瞳』『武井 風子』『市原 香澄』の三人が、自分達の子供の話で花を咲かせている。
話の途中、選んだ供物の男達をお箸で掴み、口の中に入れて頬張りながら。
「乾杯、麗華さん」「ええ、乾杯♪ 千雨さん」
また、りんと桜は声がした方にも目を向ける。
BARカウンターに座っている二人の女性に。
そこには、カクテルの中に男を入れたグラスで、キンッという音色を響かせて乾杯をしている『峯藤 麗華』と、着物を纏う『右京 千雨』の姿があった。
「先日は娘が千雨さんのお宅へお邪魔をして申し訳ございませんでしたわ。 娘が失礼をしていなければいいのですけど」
「失礼だなんて、そないな事ありまへん。 ウチのペットも喜んでくれたさかい、是非また遊びにきてほしいぐらいやわ」
麗華と千雨は手に持つカクテルを緩やかに回し、グラスのリム(広口)に口付ける。
カクテルの中にいる男を一切見る事もせず、さも当たり前に。
「ふぅ……麗華さんがおすすめしたこのカクテル、少し度数が強いけど美味やわ」
「そうでしょう? 最近わたくしこれにハマってますの。 それはそうと千雨さん、中にいる小人を咀嚼しましたら、濃厚な味が口の中に広がりますわよ。 カクテルで身体がふやけて柔らかくなっていますから、是非試してごらんになって」
麗華に進められて、グラスに残ったカクテルと男共々、千雨はクイッと口の中へ入れる。
「ハァ……❤ 柔らかくてほんまに口の中に広がる。 あきまへん、癖になる味やわ」
「ふふ、千雨さんの口に合ったようで良かったですわ」
ゴクリと喉を鳴らし、何事も無かったように会話を再開する麗華と千雨。
まさしく二人は今食べた男を同じ人間として見ておらず、カクテルの味を深めるフルーツか何かの扱いをしている。
――助けてと叫ぼうが何をしようが、まったくの聞き耳を持つことをせず……。
食べられた物は、等しく淑女らの腹の中におさまる。
ディナーとして食べた野菜、魚、肉などと一緒に、溶かされていく。
口で細かく噛み砕いた人間の男達もろとも、食べ物として分け隔てなく。
「ちょ、ちょっとやばいって。 皆普通に食べてるし……」
「うん……食べ物と一緒に食べてる。 し、信じられない」
淑女達が食すそんな光景を、目を見開いて見ているりんと桜。
世間話をする会話の中で、人であった者の命を簡単に奪い食しているその姿に驚愕している。
そんな時、小さな子供と手を繋いだ中学生らしき少女二人が、桜達と同じテーブルにやってきた。 『市原 遥』と『宮脇 萌』と、そして『峯藤 心菜』の三人が。
「わあ♪ 見て、お姉ちゃん! これ美味しそうだよ」
「あ、ほんとだ美味しそう。 遥ちゃん、食べてみる~?」
「うんっ♪」
幼い少女の遥が指差しているのは、首から下が無いたくさんの男達の頭部。
それらが一枚の白いお皿の上に並べられており、赤いジャムらしき物が万遍なくかけられていた。
「じゃあ、萌が取ってあげるからちょっと待っててねー」
「はーいっ!」
優しい声色で遥に言い、萌は自分の持つお皿の上に三人の男の頭を載せる。
そしてお皿に載せた一人の男の頭をお箸で摘み、遥の口元に差し出すのであった。
「はい遥ちゃん、あーんして、あーん」
《ヒィィィッ‼》
頭部だけだというのに、何故か生きている男。 ――この男だけではなく全員であるが。
これは、白銀いちびの血が入った特殊な注射を打たれたが故の効果。
なので生きている。
――もうこの男達は、普通の人間ではなくなってしまったのだから……。
そして今、萌によってお箸に摘ままれたまま、大きく開く幼い遥の口元近くに男はいる。
どろりとした唾液が滴り落ちる、自分を食べようとするその大口前に。
《食べないでぇぇぇ!》
微かに桜達の元まで聞こえる男の悲鳴。
なので可哀想だと、思わずこの狂った行いを止めさせようとするのだが――。
……遅かった。
完全にお箸ごと咥えてしまった……。
閉じた口から引き抜かれてゆくお箸には、男の頭はどこにもない。
少女の透明な唾液が、口とお箸に糸を引いて繋がっているだけ。
まあ、そんな唾液の糸も、すぐに千切れてしまったのだが……。
「どう? 遥ちゃん美味しい?」
「うんっ! おいひいっ❤」
遥は満面な笑みを浮かべて、口内でコロコロ転がしながら答える。
少女の口内からは、溜まった唾液の音や、カラ……コロ……と歯に当たる男の頭の音が鳴っている。
――それは、まさしく飴玉みたく。
「じゃあ、萌も食べよっと♪」
さっきと同じように男の頭をお箸で摘まんで、今度は自分の口の中に入れる萌。
「んーっ! おいしぃぃ❤」
そんな当たり前に食べてしまう光景を、またもや桜とりんは唖然となって見ていた。
いや、もう一人……心菜も引きつった表情をして。
「あ、先に食べてごめんね。 心菜ちゃんも、はい、あーん」
「い、いや……私はいいですから……」
「えー心菜お姉ちゃんは食べないの? なんでぇ? 一緒に食べようよぉ」
「あ……それは……うぅ」
幼い遥のつぶらな瞳に見つめられて、困った表情をしている。
心菜は正直これらに興味はあるが、食べようとは思っていなかった。
このエロステで小人を物として扱ってきたが、未だ食した事がなくて。
ましてや、自分が可愛がっているペットと同じ存在だからだ。
「あの、萌。 私はやはりようちゃんと同じペットを食べるのは……」
「あー心菜ちゃんまた勘違いしてる。 ようちゃんは玩具用で、これは食用に作られた物だからまったく種類は違うよ」
「種類? 私には同じ小人に見えますが……」
「もう、嘘だと思うなら食べてみて? 味は萌が保障するから。 ほらっあ~ん!」
「あ、ちょ、ちょっと萌っ! ――ッあ~ん……」
急に目の前に差し出されたため、心菜は思わず口を開けてしまった。
ただ、佇まいというのか、その姿は峯藤のお嬢様ゆえに気品がある。
そんな口の中へ、萌は摘まんだ男の頭を無遠慮にそっと入れたのであった。
「あ……とても甘いです」
「どう? 美味しいでしょー」
カラコロと口内で男の頭を舐め回す心菜。
ジャムの甘味以外に男が流す涙の味も合わさって、とても味わい深くなっている。
心菜自身は、そんなのは知る由もないが。
……しかし気の毒だ。
同じ人間である、自分よりも何十歳も年下の幼い女の子の舌だけに、飴玉の如く舐り尽くされているその姿は。
《ゴブッ! ゲボッ! ゴボッ‼》
自分を味わうために次から次へと口内に溢れる唾液。
余すことなく頭部全てを唾液で浸され、そして自分の味がついた唾液を喉奥の穴に飲み込んで行く。
口内にいる男は唾液が飲み込まれゆく様を間近くで見て聞いて、自分が食べられているのだと嫌ほど自覚する――させられる。 ……どうしようもなく。
――そして、
突然砕く音が遥と萌の口の中から鳴りだした。
水気がある物が破裂した音。
それは萌と遥、二人が口の中で舐り回していた男の頭部の砕ける音。
二人は、舐っても味が無くなったと感じて噛み始めたようだ。
奥歯で挟み込み、顎に力を入れて。
ビチャッ! と口の中に飛び散る、人間が考える力を持った脳みそ。
口内にあちこち飛散し、変わり果てた姿になったそれは、今なお溢れ続ける唾液と共にぬらりと舌の上に落ちてゆく。
そんな唾液まみれの脳みその残骸を、舌で器用に動かしもう一度奥歯まで持っていき――
「んぅ~❤」「おいひぃ❤」
何度も上下の奥歯で潰していくのであった。
男がこれまで培ってきた思い出や、必死に勉強して蓄えた知識もろとも、美味しいと言って原型もなく。
(お、お二人共噛んじゃってます……)
そんな二人の姿を、舌の上で男の頭を舐め転がしながら見ていた心菜は、
(どうしよう……。 萌達みたいに噛むと、きっとこのおじ様は痛いですよね。 さすがに可哀想な気が……。 ――あ! そうですッ! なら噛まずにこのまま)
顎を少し持ち上げ、ゴクリと噛まずに飲み込むのであった。
朝、昼、晩、と毎日食べている物と同様に、同じ人間であった男の頭をそのまま。
「んっはぁ~」
噛むと痛いだろうと思って、あえて丸呑みをした心菜。
優しさ故の行い……であるが、しかしこれはかえって残酷な所業である。
何しろ男は生きたまま少女の喉奥深くに転がり、吞まれゆく光景を見てしまう羽目になったのだから……。
自分を舐めて口内に溢れ出た少女の唾液共々――喉奥にある真っ暗闇の穴の中に。
《あぁあぁぁぁッッ!》
男は、ただ肉の道を落ちてゆく。
柔らかくもある、少女の肉の食道をコロコロと。
そんな道を転がり続け、落ちゆく先にある噴門が開く。
出迎えるように。 歓迎するように。
そして男は、為す術なく噴門の中に落とされたのだった。
《いあ”あ”ぁ”ぁ”ッッ‼》
胃液に溶かされてしまう運命を悟った男は、腹の中から大絶叫をあげる。
だがしかし、声は誰の耳にも届く事はない。
男を吞み込んだ本人である心菜の耳にも……。
――ゆえに食べられた物は、ひっそりと命の灯火を落としていくしかない。
心菜のお腹の中で……じわじわ溢れる胃液で溶かされていって……。
「嘘……この子も食べちゃった……」
「う、うん……ヤバ……」
目の前で小さな男が食われゆく光景を黙って見ていたりんと桜。
「ほえ?」
そんな視線に気付いた萌は、キョトンとした顔で桜達の方へ振り向く。
「あの、何か……? ――あ! もしかして萌達邪魔してましたか?」
「……え? ううんっ! ちが――」
「ごめんなさい、テーブルを占領しちゃってましたね。 うーんとそうだ! お詫びにー」
りんの喋りかけた言葉を遮り、萌はテーブルに置いてある並べられた小人を、トングで掴んで桜とりんのお皿の上に置く。
ちゃっかり自分のお皿にも三人の男を載せている。
「へッ⁉ ちょ……」
「はい、どうぞ。 これは萌が特に気に入ってる食用小人なの! 少し炙ってあるから油が乗ってすっごく甘いんですよ♪ ほっぺが落ちるぐらい美味しいから、お姉ちゃん達も食べてみて」
止める間もなく突然自分のお皿の上に載せられたものだから、二人は驚き固まる。
「もう! 萌! 勝手に他所様のお皿に食べ物を載せるのはマナーが悪いですよ!」
「むーっ! だってぇ、萌達が邪魔をしていたみたいだから、お詫びと思って……」
「それでも駄目なものは駄目です。 ほら、困っておられるじゃありませんか。 本当に失礼しました」
「ぷぅ……ごめんなさい」
「あ……あはは……。 お、お気になさらず」
苦笑いで答える桜。
衝撃的な出来事の連続で、笑うことしか出来ない。
「あ、加恋達の会話が終わったようですよ? 食事は一旦後にして、加恋を呼びに行きましょうか」
「うん、そうしよ! 遥ちゃんもいこっか」
「はーいっ」
そんな立ち去る三人を、ただ呆然としたまま見送ったのだった。