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①縮小奴隷日記外伝 ~仄暗い底の中から~ 後編 安藤菜穂


 ズオォォォォンッ‼

「おわぁぁあッ!」


 耳をつんざく轟音。

 どうしようもなく大きな……大きな安藤君のお尻が遠慮なしに落ちてきた。


「な、なんという……」


 日に幾度もなく見る光景。

 なのに……だというのに、私は毎回悲鳴を上げて驚いている。

 自分の命を簡単に奪えるであろう物量のある発達した女性のお尻が、うなりを上げて落ちてくるものだから。


「ぁ……うぁ…………」


 便座に座った安藤君のお尻は、満開の星空を投影するプラネタリウムみたく頭上一面を覆っている。


 ――桁が違いすぎる。

 自分との体躯の差が、あまりにも……あまりにも…………。


「んっ……んっ……」


 かようなお尻は座り所が悪かったらしく、モゾモゾと頭上で動く。


 グギシッ……ギチチィッ…………


 と、便座を軋み揺らして。


 本当に、本当にいつかは壊れてしまうんじゃないかと思わされる。

 安藤君の……いいや、このトイレを使用しにくる女性達の巨大な尻の重圧で、この便座は……。

 ありえる訳がないのだと分かってはいるのに、どうしてもそんな想像をさせられてしまう。


「ふぅ~」

「ぅ……ぁ……」

 ズギシィィッッ!


 座りやすい位置をみつけたのだろうか? 巨尻は――彼女の長い呼吸の後、より深く沈み込んできた。

 イジメにイジメぬかれた便座の鳴き声と共に。


(あうぁぁ、なんなのだ……これは)


 安藤君が用を足そうと座っただけだというのに、これほどの凄まじさを生み出す現状。

 今でもどこか信じられていない。

 現実離れしすぎていて、夢ではないのかと思ってもいる。


 だが現実。

 目の前で実際に起きている出来事。


 ――これは、小さくされた私から見る、まぎれもない現実なのだ。



「んっ……しょ」


 座りやすい位置を見つけた私は、徐々に、かつ緩やかに体重をあずけていく。

 無遠慮に――ドッシリと全体重をかけて。


「はふぅ~」


 思わず深いため息をこぼす。

 この便座は、使用者である私を歓迎しているかのように暖かで、大層座り心地が良いから。


(それにしても……真下に彼がいるのよね……)


 ちらりと視線を下に向ける。

 両脚を閉じた自分の太ももに。


 きっと彼は顔を上げて仰いでいるだろう。

 洗浄ノズルの上で、私の自慢のお尻を。


「少し前まであなたは、私を顎で仕えるお立場でしたのにね? それが今や、そんな私の秘所をお掃除するお立場になってしまって。 うふ……ウフフ…………んぅっ❤」


 なんと甘美な優越感な事か。


 私は今からここでしようとしている。

 そして、した後のはしたない箇所のお掃除を彼にさせるつもりなのだ。

 そう考えると、優越感は性的興奮となり電流みたく体中を駆け巡り、私の身体をブルリと身震いさせる。


(嗚呼、これほどなのね……。 “知人を使う” というのは)


 このお店で最近仲良くなったもう一人のお友達から聞いた言葉。

 彼女……『理央』さんは言っていた。

 知人を使うというのは、異常なほどの罪悪感を感じ、そして同時に、格別なほどの性的興奮を生み出すのだと。


(理央さんは同じ職場で働く部下を思う存分性欲のはけ口に使い、最後には食べてしまわれたとおっしゃっていたわ……)


 以前に恍惚とした表情で――素敵だった、夢のような時間だったと嬉しそうに私に語っていた姿を思い出す。

 話を聞いている時は、知人を使うのはそこまで良いものなのかと半信半疑であったが、でも実際使う立場になって、ようやく理央さんがあんな表情をしていた理由が分かった。

 何故なら彼をお手洗いの備品として使う事に、たまらなく期待と興奮でいっぱいだから。

 下腹部が淫欲の熱でどうにかなってしまいそうなぐらい、とっても……とっても…………。


「……ふふ、さて」


 そんな期待と興奮のままに、私は尿道口の力を緩めていく。

 なので膀胱からじわじわ熱い尿が下りてきた。

 じきに出てくる。 私はしちゃうんだと――そう想い待っていたら、


「……あ……ど……くん……あんどう……くんッ!」

「ん?」


 股下から私の名前を叫ぶ、とても切羽詰まった備品の声が聞こえた。


 一瞬無視をしようかと考えた。

 だけどこの期に及んで何を言うのか気になった私は、する前に一度喋ってみてもいいかも? と、ふと思ったのだった。


 人間同士だったあの頃のように――。



「……はい、なんでしょうか?」

「あっ」


 遥か天から木霊し響く、少し不機嫌な安藤君の声。

 だけど私にはそれが懐かしく感じる。

 議員として働いていた頃の彼女の何気ない返事、そのままだったので。


 しかしあの頃とは違い、顔を合わせて話せている訳じゃない。

 彼女は便座に座った体勢のまま、返事をしているのだから。


 見上げれば天を覆う巨大な尻。

 つまりはそう……私は安藤君の尻に向けて話しかけているのだ。


「ねえ、私に用があって呼んだのでしょう? 失礼ですね、喋りかけておいて黙るなんて……」

「ハッ! す、すまん! 安藤君!」

「すまん? 使用者の私に向けてなんて言葉遣い。 それに安藤君って……トイレの備品なんかに気安く呼ばれると不愉快です。 ……そうですね、せめて様を付けて呼んでくださらない? 私の事は菜穂様と」

「う……ぐ……も、申し訳ございません、な……菜穂様……」


 彼女の怒りを滲ませた声が恐ろしく、丁寧な口調でもう一度謝りなおす。

 だが、そうさせてしまうほどの圧があった。 菜穂様の静かな声には。


「そう、言葉一つ一つにも気を付けて、立場をわきまえないと。 そうよね? トイレの備品さん」

「は、はい……」


 かつて秘書であった女からの、自分を備品と呼ぶ非情な言葉にショックを受け、泣きそうな声色で返事をする。

 惨めだった……あまりにも……あまりにも…………。


「それで? 私に何を伝えたいのです? せめてものよしみに聞くだけ聞いてあげますよ」

「あ……はい!」


 だけど惨めだとショックを受けていられない。 希望はあったからだ。

 何故なら彼女は私を備品だと言いつつも、言葉を聞こうとしてくれているから。

 その行為はつまり、まだ “人” として自分を見てくれているのだと――そう思ったからだ。


 だから一生懸命話した。

 これまでの行いを改めて謝罪し、この場所から助けてくれたら必ず礼はすると。


「そうだ! ここから出してくれたら、絶対に私はまた政界に返り咲いてみせる! その時には君の……菜穂様の好きな物を全部与える! 何でも言ってくれ、役職でも何でもいい!」


 さらに黙って話を聞いてくれている彼女に気を良くした私は、かような取引まで持ちかけて。

 これは私にに出来る精一杯の取引。 悪気なんてものはない。


 ――ゆえに気づいていなかった。


 腐った言葉を喋っている事に。

 ここから出てもなお、同じ過ちを繰り返そうとしている事に。


「それに菜穂様が働きたくなければ、悠々自適な生活をしてくれててもいい。 金なら全て私が何とかする! あと――」

「もういいです、十分に分かりましたから」


 彼女は唐突に、言葉を続けようとする私に声をかけて止めさせる。


「……わ、分かってくれたか!」


 伝わった。 彼女に分かってもらえたと思い歓喜する。

 やっと便器の中から出られる。 助けてもらえるのだと、そう思って。

 ……だけど、


「はい、相変わらずクズのままだって」

「……えっ?」


 返ってきたのは予想とは違う、突き放した言葉だった。


「だってそうでしょう? 何故自分が便器の中にいるのか忘れたの? 不正や横領をした結果、便器の備品にされているというのに。 しかも、あなたを告発した私にそんな事をおっしゃるなんて……。 私がそのような話に乗ると、本気で思っていたのですか……?」

「あッ……」


 自分が喋っていた言葉の意味に、今さらながら気づいて絶句する。

 彼女の言う通り、私はまた不正をしようと口にしていたのだから。


「ハァ……何をおっしゃるのか興味本位で返事をしましたけど、わざわざ聞くんじゃありませんでした。 ……あ、出そう」

「ま、待ってくれ! いや、待ってください! 何も私は不正をしようと話を持ちかけた訳じゃなくて――」


 せめてもの言い訳をして声を上げるが、言葉は返ってこない。

 その代わりに、もう会話は不要とばかりに安藤君のマンコのヒダが開きだした。


「 あ、あぁぁッ! 本当に待ってくれぇぇ」


 自分の前で出そうとしていると察した私は、必死に叫んで止めさそうとする。

 そうしないとこれから先、一生涯自分の事を人として見てもらえなくなると思って。


 ――だけど無駄だった。


 プッ!

 叫ぶ私に構わず、尿道口の小さな穴から尿の飛沫が噴き出してしまった。


 ブシャァァァァァァッ‼

「ああぁぁ! そ、そんなぁ!」


 数秒も経たずして激しさを増していく尿。

 轟々と滝みたく流れる黄金色の尿は、白い陶器にバチャバチャとこれでもかと叩きつけている。

 完全に決壊してしまったからこその尿の勢いは、凄まじいとしか言いようがない。


「出した……したんだ……安藤君は本当に私の前で小便を……」


 多くの人間の女性が小便をしている所を見てきた。 嫌でも見せられてきた。

 しかしそれは、出会った事もない知らない女性ばかり。


 ――ゆえに耐えられていた。

 何を見せられても、備品として使われても。


 だがこれは違う。 安藤君は別だ。

 良く知る人にまで、構わず傍でされるというのは……。


 思ってしまう。 思い知ってしまう。


 ――もう、誰からも私という存在は、人として見られないのだって。


 ジャババババァァッ!

「ああぁぁ……」


 悲しみに打ちひしがれる自分をよそに、なおも出し続ける小便。

 まったく勢いはおさまりを見せず、体温で温まった “白い湯気” をあげている。

 ……いったいどれほど膀胱に溜め込んでいたのか。

 

「ああッ! くるな、くるなぁぁッ!」


 そんな白い湯気は、モクモク……モクモクと、私のいる場所まで段々と近づいてきた。

 ゆっくり、ゆっくり遅く。

 遅いと言っても逃げ場のない私は、両手をバタバタ動かし振り払う事しかできない。

 こっちに来るなと手で扇いで。


 だけど無常にも、白い湯気はとうとう私の足元にまで到達し、緩やかに、だが着実に私を包み込んでいく。 足下から、頭の天辺まで……。


「――うぶッ!」


 湯気に包まれ、まず私を襲ったのは、生暖かな空気と強烈なアンモニア臭だった。

 次には、全身に纏わりつくような湿気。

 瞬時に身体はベタつく。

 霧に似た白い湯気の、ネチャネチャした細かな水滴で。


「うぁ……気持ち悪い……」


 ツツッと頬に水滴が伝う感触。

 手で頬を触ると、汗のように顔中全部が濡れていた。

 しかしこれは、決して自分の汗なんかではない。

 ――汗なんかよりも、もっと汚いものだ!


「うあぁッ! うわぁぁぁッ‼」


 急いでゴシゴシ顔を拭う。

 顔に付着しているこの正体は、安藤君の飛沫く小便から湧き出てきた湯気である、 “細かな大量の尿のツブ” だからだ。

 

「ぁぁ……落ちない……」


 だが触ると粘つき伸びるだけで、一向に拭えない。


 この結果は分かっている。

 何度も経験しているから、体中についた尿の粒は水で洗い流さない限り落とせないって事は。

 だけど、このままにしていると臭うのだ。


 ――自分の身体からじかに、安藤君の小便の臭いが。


「はぁふぅ~」


 ダパバババァァッ!

「うぅ……ぁぅぅ…………」


 相も変わらず噴射されている尿の滝。

 悲嘆する私の目の前で――雄大に、悠々と小便を降らせている。


 拭う事を諦めた私は、ガックリと項垂れる。

 何もする気が起きない。 何をしようにも、全てが無駄であるため。


 ただぼんやりと、後悔と共に安藤君の顔を思い浮かべながら、私はもう一度天を仰ぐ。

 あるのはお尻。 天井を丸々覆う巨大な尻。


「んぅ❤」


 そんなお尻は、安藤君の気持ちよさそうな声と一緒に、満足気にブルリと震えてみせた。

①縮小奴隷日記外伝 ~仄暗い底の中から~ 後編 安藤菜穂

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