「私ね。明日サイボーグになるの」
青天の霹靂という言葉はこういう時に使うものだと改めて実感をする。
彼女からの突然の告白。それは、「結婚しよう」でも「セックスをしよう」でもなかった。
俺の彼女である奈々子は、昔からの幼馴染だ。明朗快活な性格ではあるが、如何せん体が弱く、体育の授業でも激しい運動はできない。
そんな彼女から切り出された言葉に俺は返す言葉が出なかった。
「お父さんがね、ある程度お金が貯まったし、今後のことを考えて、サイボーグになっとけって」
「ああ…おじさんが…」
彼女の家は普通の一般家庭だ。一人娘をサイボーグにするとなると家一軒分の費用がかかる。彼女のお父さんも相当苦労したんだろうな…
奈々子の持病は現代医療でも完治が難しく、成人まで持つかどうか…とまで言われている。実際に明日香は何度も入院している。
そんな彼女が生き延びる術と言えば、サイボーグ化くらいしかないものだった。
「だから、ヨウ君には言っておかないといけないかと思って。驚かせちゃってごめんね」
彼女は罰の悪そうな顔で謝った。
でも、遅かれ早かれこういう日が来るのは分かっていた。それが、ずっと先のことだと思っていた。
彼女が生き延びるのは嬉しい。でも、サイボーグになって彼女が変わってしまうのは寂しかった。脳みそは奈々子のままであるのは事実。でも、柔らかな肌も少し控えめな胸も見納めになってしまう。しかも、その予告がいきなりだと思うとショックという感情が入り乱れて、彼氏として返す言葉が無かった。
「ごめんね。セックスもしてないのに決めちゃって…」
俺と奈々子はまだセックスをしていない。
しようと思えばできるのだが、如何せん彼女のお父さんが厳しい人であることと、彼女の持病から来る体力の少なさを考えると、セックスは持病がなってからと二人で決めていたからだ。
「あっ でも、サイボーグになっても子宮は残してもらえるから、エッチはできるんだよ。子供もできるしね」
彼女は複雑な心境である俺の心を読み取ったのか、心配させないような話に持って行く。
セックスができるということや子供ができることよりも、俺の大切な彼女の生身にメスが入るのがどうしても納得できなかった。
その後、彼女が色々話をしていたが頭に入らず、空返事だけしかしない、抜け殻のような状態で、俺は彼女の家まで一緒に歩いた。
「明日、中央病院で受けてくるから」
そう言って彼女は家に帰って行った。
明日は幸い、土曜日で学校も休み。でも、病院に行くべきなのかどうか、俺は葛藤しながら、自宅に向かった。
___________________________________
「やっぱり来てくれたんだね。流石、私の彼氏さん」
心寂しさから、行くのも躊躇ったが、俺は病院へと向かった。
生身の彼女を見届ける最後の場面だった。
だから、俺は寂しさや悲しさというマイナスの感情を振り払って、彼女に会いに行った。
「この体なのも最後だからね」
彼女はそう言って、彼女の両親とも話をしていた。おばさんは涙ぐんでいたし、おじさんは涙を堪えていた。
そりゃそうだ。生き延びることができるとはいえ、年頃の娘が機械の体になってしまうと思えば、哀しくなるのが当然だ。
「ヨウくんもありがとう。それじゃあ行ってくるね」
そう言って、奈々子は手術室へと向かった。
意地を張って少し笑顔を見せつつ、涙を堪えながら、悲しさを堪えながら・・・
_____________________
「手術は無事終了しました。娘さんは手術は成功です」
手術室から出てきた先生の一言に俺も彼女の両親もホッと肩を撫で下ろした。
機械化技術は確立されている現代で、手術による失敗は殆ど無いと言われている。
しかし、万が一ということもあり、俺も彼女の両親も心配していた。
「娘さんは今は眠っていらっしゃいます」
そう言って、先生は奈々子が眠っている病室に通してくれた。
機械化された奈々子を見た時の感想は「歪(いびつ)」という言葉あったと思う。
見慣れた可愛らしい顔、肩にかかるかくらいの髪型は確かに奈々子だった。しかし、首から下はロボットアニメで見るような無機質な機械でできていた。
カッコ悪いとか、そういうものではなかった。少年心を持っている人なら誰もが感じる「ロボットカッコいい!」に近しいものだった。
でも、そんな機械の体に愛らしい顔が付いている、しかもそれが愛しの彼女だったと思うと、手術で成功した嬉しさや安堵さの中に複雑な心境が入り混じっていた。
「手術は成功しましたが、もうしばらく安静が必要になります。ご家族の方はもう暫しお待ちください」
先生はそう言って、待合室の方へ案内した。
その後、俺と彼女の両親はサイボーグ化に当って、彼女の体がどうなったのかという説明と家族のサポートについて、など色々と話を受けた。
そりゃそうだ。覚悟はしていたとは言え、あんな無骨な機械の体になったら、誰かのサポート無じゃ精神的に病んでしまうだろう。
「先生。患者さんが目を醒まされました」
看護師さんが先生を呼びに来た。
患者さんというのは、奈々子のことだろう。
俺たちはさっきの病室へと向かった。
_____________________________
そこにはベッドに座り込んだ奈々子がいた。
その表情はなんとも言えない無表情な顔だった。
「あ。。。。 あ。。。 う。。。 あ。。。」
電子音声交じりだが、その声は確かに奈々子の声だった。
「まだ、発声機能が慣れていないんでしょう。もう少しリハビリしたら、上手に喋れますよ」
機械化してばかりで、戸惑っているのと体の機能を使いこなせず、オドオドしている奈々子。
そんな彼女を助けてやれない自分が悔しくて堪らなかった。
「あ。。。 う。。。 あ。。。」
ぎこちなく声をあげながらも立ち上がろうとする奈々子。
そして、ゆっくりゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「お。。。あ・・・ん お・・・あ・・・あん・・・ お・・・う・・ん」
彼女の言葉は決して聞き取りやすいものではない、でも確かに「おとうさん、おかあさん、ヨウくん」と言っているのが分かった。
「あ・・・い。。。あ。。。と。。。う」
俺と彼女の両親はその言葉を聞いて、涙を流しながら彼女に抱き着いた。
必死に彼女が「ありがとう」と言っている姿、ぎこちないながらも機械の体で生きていこうとしている姿に一気に感情が溢れ出てきてしまった。
俺とおじさん・おばさんは大声で泣きながら、彼女のぎこちない笑顔を見ながら互いに抱き合った。
___________________________
「奈々子。元気にしてるか?」
「あっヨウくん。来てくれたんだ」
奈々子がサイボーグになって1週間が経った。
よちよち歩きだった奈々子は見る見るうちに歩けるようになり、ぎこちない電子音声も普通に聞き取れる奈々子の声に様変わりしていった。
これも彼女のリハビリによるものだ。
そして、生身のころと同じ明るい性格は戻ってきている。
「リハビリは順調か?」
「うん。再来週には学校に行けそう」
機械化してから復帰するのは、人によって個人差があるらしい。
幸いにも奈々子は1か月以内には退院できそうだ。
「学校のみんなも来てくれたんだよね。本当にみんな心配性なんだから」
彼女は照れながら話してくれる。この話し方、やっぱり奈々子だ。
俺はひそかに奈々子がロボットになってしまうのを心配していた。でも、それも余計な心配で終わった。彼女はサイボーグになったが、心は奈々子のままだった。
「待っててね。学校の制服着て、復活するんだから!」
__________________________
「ねえ。ヨウくん。一緒に帰ろ」
奈々子がサイボーグになって1か月が経った。
彼女はサイボーグになったが、元気で学校にも来ている。
無骨な機械の体ではあるが、その上に学校の制服を着て、問題なく授業を受けている。
「聞いてよ。本当はこの体でもエッチできると思ってたんだけど、18歳になるまでお預けなんだって。お父さんが決めちゃって。。。ごめんね」
おじさん硬いもんな。。。
一応、俺と奈々子の関係は彼女の両親にも承認は下りている。
が、エッチなことはしっかり、勉学を固めてからとのことだ。
「帰ろ。今日は寄り道して服を買っていこうよ。こんな体だけど、もっとオシャレしたいもん」
そう言って、彼女は強引に俺の手を引き、街へと向かった。
生身の時は俺が手を引くのに、すっかり手を引っ張られる立場になっちゃったな…