下北沢。東京都世田谷区の北東部に位置する、演劇と古着屋とサブカルの町。
2024年2月某日、この下北沢駅前は、ほんのちょっとだけ異様な雰囲気に包まれた。
そう、甲冑族の人々が日頃の活動の様子を人々に披露すべくかの地に集結したのである。
荷物を持ち込む甲冑族の一味。背後に思いっきり「下北沢駅」の青看板が見えている。文字通りの駅前。こんな一等地をよく拝借できたものである。
早朝に降っていたのであろう雨で濡れたアスファルトの上、戦士たちは黙々とレジャーシートを広げて甲冑を並べ始める…
通行人の中には、何が始まるのか興味深げに覗き込む者もいる。
話は前後するが、そもそもなぜこんなところに甲冑族が現れたのか。
元々、下北沢では地元の店が「ファンタジー市」なる催しを定期的に開催しており、その中の出し物の一環として我々甲冑族が呼ばれたというのが事の次第である。下の図においてテーブルを並べているのは今回のファンタジー市の主催である、ファンタジー衣装のお店、「リフルシャッフル」さん。
※下の写真は当日のものではないが、以前に行われたファンタジー市の様子。ハンドメイドのファンタジーグッズ(衣服、マント、ボードゲームやアクセサリー等)が屋台店で売られている。下北沢とはそういう町なのだ。
ともあれ、一人、また一人と戦士たちは「晴れ姿」のセットアップを終え、ウォーミングアップを始める。それにつれて群衆の視線も集まり始める。
ちなみに私の今回の正装は和甲冑(足軽)である。甲冑のバリエーションの豊かさをギャラリーに知ってもらうという意図に基づくものである。
上図の右側にいる偉そうな格好をしているのが私。別に偉いわけではない。(左の騎士は別に頭を下げているわけではなく、多分手元の武具を確認しているのだと思われる)
今回集った戦士は六名。前回開催したときには10人くらい集まったと記憶しているので、想定より若干少なめと言えるだろう。どうやら日にち的な都合がつかなかった戦士も多かったようだ。
まあこの辺は仕方ない。甲冑は物理攻撃からは装備者を守ってくれるが、健康や仕事やプライベートな事情からは守ってくれないものなのだ。
というわけで六名の甲冑族。左上から順に…
◯左上:今回の参加者の中で最重量を誇る黒騎士K
◯中上:我々の団体の主催者B。言わばボス。今日は両手剣を手に参加。
◯右上:槍使いのK。身につける甲冑は就職祝いで貰ったとか。どんな世界だ。
◯左下:16世紀ドイツ傭兵(ランツクネヒト)のS。貴重なヒストリカル型戦士。
◯中下:貴重な左利き戦士のE。ファーやマント等お洒落度高めの装備で参戦。
◯右下:わたし
今回のプログラムは、一対一、タッグマッチ、橋模擬戦(ブリッジバトル)、バトルロイヤルの四競技からなる一連のバトルを2セット行うというもの。
体力的にはもうちょっとたくさん戦うこともできるのだが、あまり冬場に遅くまで戦っていると、周囲が暗くなって撤収時に色々面倒になったりするのだ。甲冑は装備者を物理攻撃から守ってくれるが、天候の事情からは守ってくれないのだ。
一対一の様子。当方のお相手は16世紀のドイツ傭兵S。こちらは片手剣に楯、お相手は二刀流。この辺の選択は歴史的な要素もあるが、どちらかと言うと個人のスタイルとその場の気分によるところも大きい。あと運搬の容易さ。
別の戦士同士の戦い。長物使いのKと左利きのE。彼の盾は聖剣伝説シリーズのどれかが元ネタらしいが詳細は忘れてしまった。対するKはプレート鎧の下にメイル(俗称チェインメイル)も着込んできており、やる気も万全である。
※メイルは意外と脱着が面倒で、おまけに結構重い。そのくせこの競技においては特に何かの役に立つわけでもないので、基本的にロマン装備なのだ。
一通り戦い終わると、今度はタッグマッチが始まる。上図は打ち合わせの様子。
私は盾を小型のものに変えているが、特に深い意味があるわけではない。「この日のために準備してきたのでそろそろ使っておくか」くらいの気分だったと記憶している。
2対2のタッグマッチと言っても、局所的には1対1が二箇所で行われる展開になることも多い。図は黒騎士Kとの対面の図。慣れない小型盾を使うこちらがやや不利か。
死亡したらその場でしゃがむ。わかりやすく「やられた感」をしっかり演出するのも観客へのアピールの一環である。
とか言っていたら相打ちで全員死亡。こういうこともたまにある。
タッグマッチの別の局面。両手剣VS長物。どちらの装備・戦法も動きが大きく、動きが「映える」武器である。私に致命的に掛けている要素でもある。
引き続きタッグマッチの様子を何枚か。
先程戦ったランツクネヒトSと今度は共闘するの図。今気づいたのだが、甲冑二人が並び立つ構図というのは絵になりやすいようだ。
タッグマッチでは一対一とはまた違った機微というものがある。状況を見て仲間を助けるべく横槍を入れたくなる瞬間があったり、そんなセコい事を考えていると逆に隙をつかれて死んだりとか。
いつの間にやら盾を大型のものに装備し直している当方(正直この辺の記憶はあんまない)。この下の図を見ればわかると思うが、大きな盾には欠点がある。そう、本人の姿を覆い隠してしまうために「映え」を阻害してしまうのだ。
なんかメッセージ性がありそうな構図だけど結局は盾に塗りつぶされるの図。
というわけでタッグマッチはここまで。次の戦いに備えて装備を整える甲冑達。
今度の競技はブリッジバトル…橋上での戦いを模した模擬戦である。
下図にある白い二本の紐の間を「橋」とみなし、攻撃側と防御側に分かれて橋の突破(あるいはその阻止)を競うというもの。
この紐を踏んだり、紐の外に踏み出してしまった場合、「橋から落ちた」とみなされ死亡扱いになる。
もうちょっと細かく言えば、復活制とか体力制とか細々としたルールもあるのだが、ぶっちゃけその辺の事は覚えなくて構わない。当日の観客も多分いちいち覚えなかったことだろう。
このブリッジバトルの見所は、そんな複雑なルールとか戦術とかではなく、シンプルな甲冑同士の「ぶつかり合い」が見れることなのだ。
ブリッジバトルに備え、改めて盾装備のスタイルで挑む防御側甲冑族達。
こっちは突撃の手順を確認する攻撃側甲冑族達。
我々の競技では本来、相手を転倒せしめるような行為(例えばタックルとか)は怪我等のリスクに繋がりかねないとして基本的に控えるべしとされている。のだが、このブリッジバトルのように互いに準備と合意が形成されている場合にはある程度許容されるのか慣習となっているのだ。
ともあれ百聞一見。
どかーん
どんがらがっしゃーん
…というわけで、攻撃側の突進を受けてもみくちゃになっているうちにあっさり「橋」は突破されたのであった。
ここで、タックルや転倒についてちょいと補足を。
甲冑の民は何しろ全身甲冑なので、転倒してもダメージを負うことは「あまり」ない。ただし、転び方が悪い場合…たとえば転んだ際に「手をつく」などすると手首の関節を痛める可能性も出てくる。また、甲冑本人は無事でも逆に「床」の方を傷つけてしまうケースもある(特に体育館などの施設を借りている場合)。
というわけで、転び方にも良し悪しがあり、余計なリスクを避けるために転倒に繋がる行為は控えるのが基本的なレギュレーションになっているのだ。
で、その例外の一つがこのブリッジバトルというわけだ。
勿論このブリッジバトルも、正面から突破を試みたり橋から押し出してリングアウトを狙ったり橋の端を狙って回り込んだりと、これはこれで戦略性のある競技なのだが、傍から見たときの見どころは何かと言えばやっぱりシンプルな甲冑同士のぶつかり合いということになるのだ。
細かいことは中の人が考えればいいことであって、ギャラリーに押し付けるものではない、とも言える。
さて、今度は攻守交代時の一幕
やはり正面から突撃…と思わせておいて、横からすり抜ける作戦に出る私。
…という計画だったが、無理に突破を試みた結果、足がロープの外に出てしまい、あえなくリングアウトに。せめてもの敗者の矜持ということで、派手に転んでみせることで観客にリングアウトをわかりやすくアピールするのであった。
プログラムの最後の競技はバトルロイヤル。自分以外は全員敵の生き残り戦。
合図とともにあちこちで戦いが始まるが、常に一対一とは限らない。強敵を挟み撃ちにしたり隙を突いて背後から急襲したりと、一瞬一瞬の判断や立ち回りの巧みさも求められ、一騎打ちやタッグマッチともまた違った趣のある競技である。
終盤の様子。ちなみに私(手前の木盾)はすでに脱落。
黒騎士Kと長物使いK。K同士の最後の攻防。黒騎士が飛んで斬り掛かったように見えるが、ここで繰り出されたのは、相手の防御を迂回するように剣を回し、肘と手首を返して剣の「裏刃」で相手の「後部」を叩くラップショット(wrap shot)と呼ばれる技法。
これが決まって晴れて黒騎士が第一回バトルロイヤルの勝者に。
というわけでプログラムの前半は終了。観客に礼をしてしばしの休憩時間。
ファンタジー市をうろつく甲冑達。
ファンタジー市に出店した店の一つ、マント屋で黒いケープを購入した黒騎士K。
ただでさえダークサイドめいたカラーリングなのがますます暗黒卿めいた装いに。
尚、どうやら通貨は日本円のようだ。
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とまあ、こんな感じで休憩を挟んでこのあとは後半戦に入るのだが、基本的に同じ競技の繰り返しになるので、後半はダイジェスト気味の駆け足でご紹介。
後半も一対一の戦いから幕を開けるのであるが、当方は装備を少し変えて、ギャラリー受けを狙ってポン刀二刀流のスタイルに。
ただし、ミトン型のガントレットで片手剣を扱うのは若干難易度が高い。
ちょっと込み入った話になるのだが、この競技、指を守りながら剣を振るうために(主に)二通りのオプションが用意されている。
一つは指を守るガントレットを装備すること。安全性の都合上、上図左のようなミトン型のガントレットを使うのが一般的である。ただし、指の自由な動きは制限されるため、片手で剣を扱うのは修練が必要になる。
もう一つは、上図右のような、「護拳」のついた武器を使うこと。これであれば、手の防具は手の甲だけを覆うハーフガントレットで十分であり、五指の動きが阻害されることなく剣を操ることができる。我々も普段はこっちを使っている。
ただし、護拳が付いてくる都合上、「剣っぽくない」「そもそも何時代やねん」というビジュアル的なツッコミは許容せねばならない。
で、話を戻すと、私は護拳を捨ててポン刀二刀流スタイルを選んだわけであるが、これは見た目のハッタリは効くものの、その代償として戦力は低下することになる。何故なら当方はガントレットでの片手剣操作の修練を積んでいないからだ。
左手のポン刀を逆手持ちに持ち替えて低下した戦力を補おうと試みる。この競技の二刀流では割とよくある戦法だったりする。
が、最終的にあえなく敗北。
というわけで敗戦の言い訳を延々述べたところで、お次はタッグマッチ。
やはり甲冑が並び立つとそれだけで絵になる。
戦闘中の様子。
刻一刻と変わる状況。
ちなみに当方は陣笠の日除けに毛皮、羽織と「揺れもの」が多いため、静止画でもある程度動きを伝えることができるのが強みだと自認しております。
それはそれとしてタッグマッチは敗北。画面手前に落ちた剣が無常観を際立たせる。
で、お次はブリッジバトル。前半とは異なるチーム分けで橋を取り合うのだ。
相変わらずわちゃわちゃ。激しくぶつかってあとは流れというやつである。
一通り攻撃を終えたら攻守交代。今度は盾の戦士たちが我々の橋を奪いに来る。
しかし今回の防衛戦はちょっと違った展開を見せた。
防衛側中央の戦士Bがあらかじめ膝をついて不動の肉壁となる作戦が功を奏し、攻撃側を押し返すことに成功したのだ。
攻撃側先鋒は中央に突出した戦士Bを狙わざるを得ないけど、そうなると防衛側三人から反撃を食らうという仕組みで、防衛側は次々と攻撃側を撃退。
見た目は地味だけど、けっこうえげつない作戦だったよこれ。
そして最後はバトルロイヤル。前半と同様、合図と同時に戦いが始まる。
激戦区から離れて「見」に徹する作戦を採る当方の図。
が、甲冑族がそんな甘い作戦を許す筈もなく、すぐに襲われて応戦を余儀なくされた当方の図。
かくして試合は混戦模様に。
で、最終的に勝ったのは我々の首領Bでした。
というわけで全てのプログラムは終了。観客に礼をして〆。
その後は観客と軽く交流などしつつ、荷造りをして撤収と相成りました。
当日は天候に恵まれたとは言えませんでしたが、寒空の下、集まってくれた観客の皆様、誘って頂いたファンタジー市の皆様、そしてこんな変人を迎え入れてくれた下北沢という町の懐の深さに感謝いたします。
また機会があればいずこかでお会いしましょう。次に甲冑族が現れるのは、貴方の町かもしれません。
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と、ここで最後に装備について少し。
当日当方が持参した主な防具は以下のような具合でした。
外からは分かりにくかったと思いますが、羽織の下には腕鎧が、袴を模したサルエルパンツの下には足鎧が仕込まれていました。
元々、和甲冑は肘や膝などの関節の防御が手薄だったりと、そのままだと競技の安全基準を満たすことは出来ません。そのため、競技で和甲冑を用いる場合は、今回のように腕鎧や足鎧を隠すことで「安全性」と「それっぽさ」を両立させるといった小細工が必要になるのです。ギャラリーの皆さまをうまく騙せていたなら、今回の「小細工」は成功したと言えましょう。
ただし、競技用甲冑そのものはその防御力を十分に発揮したものの、「それ以外の装備」…つまり追加のお洒落用装備には若干の損傷も生じました。具体的に言うと、腰に挿していた装飾用レプリカ打刀の鞘は戦闘中に見事に破損し、草鞋も鼻緒(?)的な部分が千切れてしまいました。
やはり非競技用の装飾を競技に持ち込んだらこうなることも覚悟はしておくべしということなのでしょう。特に、木製の装備が破損した場合、破片が飛び散って参加者やギャラリーの目等を傷つけるリスクがあるので、打刀の一件は反省を要すると言えるでしょう。
今回の記事においても、写真を時系列的に追っていくと腰の打刀に草鞋の片方と、徐々に当方の装備が減っていくさまが見て取れるかと思います。
ちなみに本歌の胴鎧も損傷してましたが、流石にこれは年代物なので文句は言えませんね。
とまあ、コスプレ刀氏と草鞋氏の尊い犠牲もありましたが、ともあれ楽しいイベントでした。我が家の甲冑達も衆目環視の中で思い切り暴れられて心なしか活き活きとしているようでした。破損したパーツ諸氏も悔いはなかったことでしょう。
機会があれば今後もこのような催しには参加したいところですし、そのために欠かさず鍛錬を続け、同士達を増やしていきたいと改めて思った次第でした。
貴方も甲冑族になりませんか?
グレゴリウス山田/ヤマーーダ
2024-02-21 06:36:10 +0000 UTCchipstar
2024-02-14 05:36:23 +0000 UTC