本日はskebの方でご依頼頂いた高潔な女騎士さんのイラストであります。恐らくオリキャラだと思われます。
ただ、このリクエストは非公開のものなので、依頼いただいたキャラ設定等をここで喋ってしまうのは依頼人の意図に反する可能性があります。
というわけで、今回はキャラ設定等には触れずにデザイン等の雑語りでもしていこうかと思います。
◯キルト状の服:
中世欧州においてギャンベゾンとかアクトン等と呼ばれる(※1)、キルティングの入った厚手の服です。鎧の下に着用して衝撃を吸収させたり、特に軽装の兵士は単独で布の鎧として運用することもありました。たまに鎧の上に着用することもあります。そのときはまた名称が変わったり変わらなかったりします。
今回の御依頼は比較的軽装とのことだったので、ファンタジーな軽装要素と中世要素を両立させる小道具としてギャンベゾンを採用しました。
ところで最近のファンタジー作品において、縦セーターと思しきものを着用している女性を見ることが時々ありますが、アレ、ひょっとしてこのギャンベゾンを意匠化したものだったりするんでしょうかね?
※1:当時においてもこの手の用語は統一されておらず、地域、時代、場合によって異なるものが同じ言葉で呼ばれたり、逆に同じものが異なる言葉で呼ばれることは割とよくあった
◯胸当て
実はこの手の独立した胸当ては中世においては限定された時代・地域に限られて使用されていましたが、ファンタジーでは「軽装」感をアピールする小道具として多様されます。よって本デザインにおいても採用しました。
ところで15世紀になると、上図右側の写真のように胸部分と腹部分(プラカートと呼ばれる)の2枚のプレートで胴を保護するスタイルが流行します。可動性をもたせるためためでしょうが、製造上の都合もあったのかもしれません。ドイツのゴシック式胴鎧においてはこのプラカート(腹部分)を凸凹にしてデザイン性を持たせることもありました。というわけで今回の絵においてはその辺の要素を導入して、胸当てを二枚式にして百合の意匠を反映させたりしましたが、ちょっとわかりづらいデザインになってしまいました。この辺は要反省ですね。
ちなみに胴以外のプレート部分もゴシック感のする装飾にしてあります。
◯肩鎧
どうやって固定してるんでしょうねコレ。まあ扱いとしては肩鎧黎明期に用いられたアイレットと呼ばれる板が近いかもしれません。
◯すね当て
中世後期になるとグリーブと呼ばれるすね当てが登場します。ただこれ、足に固定するのが結構面倒だったりします。一時的に革製のものが使用されることもありましたが、中世におけるすね当ては原則として鋼製ですので、それなりに重量があります。ので、側面をベルトで締めてその摩擦で保持しようとしても、ピッタリ保持することは中々難しく、安物を運用していると割とずれたりします。特に、歩いたり走ったりすると足の先の方は大きく揺れたり振動したりするので。固定方法にも気を配らないとすね当ての下端が足首に食い込んだりして痛い思いをします。当方の経験においても、すね当ての下端との摩擦で革靴がボロボロになった悲しい過去があります。
中世においては、時代が進むと足鎧本体に固定させたり、サバトン(鋼製の靴カバー)と一体化させたりして固定させる方式が多く見られるようになります。
本イラストにおいてはそういう小難しい事情を一切無視して「最低限の防具を着用してる感はアピールするが足(ブーツ)の描写を邪魔しない程度のすね当て」を念頭にデザインしました。
◯鎖(メイル):
今回の依頼では無難なファンタジー感を重視してデザインしたが、それはそうと中世好きとしてはメイル(俗称チェインメイル)要素をアピールしたい。そんなわけでギャンベゾンをメイルに着替えることで軽装騎士感(※2)を演出する差分も作成してみました。個人的なアピールポイントはメイルの足鎧を吊り下げている紐です。
※2:メイルの位置づけについては時代によって大きく変化する。プレート鎧が普及する14世紀末頃からはメイルはプレートの隙間をカバーする「補助」的な位置づけの存在とみなされる事が多いが、逆に言えばそれ以前は防具の主力とたりえた。実際、プレートが台頭してくるまでは、メイル式の鎧が「重装」という文脈で言及されることは珍しくない。よってこれを軽装とみなすかどうかも時代に異存する。
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というわけで今回は、リアル中世要素をどのように抽出してファンタジーなキャラデザに反映させるかという一例をご紹介しました。つまるところ、中世要素は有ってもなくても最終的なデザインには大差ない、描き手の自己満足ということが伝われば幸いです。