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雪降らないかな
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[小説]マジックハンドの群れだ!

「マジックハンドの群れに近付いてはいけないよ。彼らは無邪気で悪意はないが、人間に対して加減を知らない」

 

 おばあちゃんったら、なんておかしなことを言うんだろう。

 無邪気で悪意のないモンスターなら、是非とも仲良くなるべきよ。

 そんなことを思いながらリリィが歩いていると、さっそくマジックハンドたちを見つけました。

 ちょっと見には白くてころころした手袋たちが宙を舞っているよう。リリィはにっこりと微笑んで彼らの群れに突撃していきました。

 「ねえねえ、なにしてるのー!? 遊ぼうよ!」

 「!?」「…!」「……??」

 マジックハンドたちは戸惑っているみたい。きっと、普段はいつも人間に邪険にされているのね。大人たちももっとモンスターたちと仲良くすればいいのに。リリィは敵意がないことを示すためにひらひらと手を泳がせ、握手しようと差し出しました。

 「…?」

 マジックハンドの一つが、おそるおそるリリィの手に近づきます。やがて、きゅっとリリィの手を掴み、柔らかく握手を交わしました。

 「これで私とあなたたちは友達ね! さあ、一緒に遊びましょう!」

 「!」「!」「!」「♪」「♫♬!!」

 温かな雰囲気を感じ取ったのか、他のマジックハンドたちもにわかにウキウキし始めました。ふふん、帰ったらおばあちゃんに目一杯話さないと! わたし、マジックハンドと仲良くなったのよって! …あら、このマジックハンド、いつまでわたしの手を握ってるのかしら? ううん、握ってるんじゃない、なんというか…じっと見て考え込んでいるみたい? もちろん、マジックハンドに目はないけど、もしマジックハンドが透明人間のつけている手袋だったとしたらちょうどそんな感じ。

 そんなことを考えていると、ふいにリリィの手を掴んでいたマジックハンドがぐいとリリィの手を引くように動き――リリィの手は、その動きのとおりににゅうっと伸びました。

 えっ? これ、わたしの手?

 リリィの手は、まるであつあつの飴細工か水を含ませた粘土のように柔らかく伸びていました。さきっぽはまだマジックハンドに掴まれていて、その感覚が伝わってくるので自分の手だとわかります。マジックハンドは、こんどはリリィの指をくにくにと動かしながら、なにかを思案しているようでした。

 リリィは新しい友達に動揺を伝えないように、笑顔のまま考えを巡らせます。ええと、まず痛くはない。ということは、これは攻撃じゃないし怪我もしてないってことよね。オッケー、まずはそれが大事よ。わたしたちは友達だもの、すぐにパニックになったりしたら傷つけてしまう。さて、次はなにを考えればいいかしら。そうね、マジックハンドが何をしたいかを考えるの。きっとマジックハンド流の遊びの誘いに違いないんだから。村の大人たち、他にマジックハンドについてなにか言ってなかったかしら? ……ああ、そうだ! いつだったか「マジックハンドにやられたぞ!」って誰かが叫んでいたんだっけ。見ようとしたら、子供は見なくていいって無理やり追い出されたんだけど…そのときちらっと見えた。四つ足の、なんだか珍しい動物がいた。知ってる動物のような、知らない動物のような…なんだか形は子供が粘土で作ったみたいにいびつで、でも肌は人肌なのよね。たてがみはまるで人間の毛そっくりで、顔つきも村のマクガッドおじさんによく似ていた。マクガッドおじさんの目と眉毛をそのままに、人肌色の粘土で動物のような顔つきにしたらあんな感じになりそう。

 気がつくと、リリィの指先は蹄になっていました。指のくにくにと動く感覚はなくなって、硬いひづめのようなものが先端に突き出ています。そのひづめ同士を開いたり閉じたりはできるようですが、これではものを掴んだりはできないでしょう。マジックハンドはそのひづめの動く様子を見てうんうんと頷き、リリィの顔を見てじっと反応をうかがっていました。

 オッケー。そういうことね。完全に理解した。つまり、マジックハンドは動物ごっこをやりたいんだわ! マクガッドおじさんもそれに付き合ってあんな姿になったってわけね。大丈夫、マクガッドおじさんはあの後元の姿に戻ってた。ならやってやろうじゃない。わたしはぶすいでやぼな大人たちとは違うってことを見せてあげる!

 リリィはひづめと化した手を地面におろし、四つん這いになって「ピューイ、ピューイ」と牝鹿の鳴き真似をしました。そのまま首をもたげて遠くを見る真似をしたり、木の皮をかじったりするふりをしてみせます。さあ、どうかしら?

 マジックハンドたちはしばし沈黙していましたが、次の瞬間にはわあっと沸き上がりました。きっと、こんなに遊びに付き合ってくれる人間を見たのは初めてだったのでしょう。興奮しながら、リリィのまわりをくるくると回っています。そして――今度は全員でリリィの身体にまとわりつきました。

 あるマジックハンドは、リリィのもう片方の手にとりつきました。上から下に撫ぜるように動くと、それに従ってリリィの手もぐんぐんと伸びていきます。十分に手が伸びると、指の一本一本をつまんでは尖った形に整えてこちらもひづめにしてしまいました。中指と薬指が前側に、人差し指と小指が後ろ側にくるように、指の付け根を丹念に押され、最後に残った親指は潰されて手のどこかに溶け込んでしまいました。両方の手がひづめになった状態で歩くと、思いのほか快適でリリィは驚きました。これなら鹿たちがあんな一目散に逃げていくのも納得です。リリィは、このまま自分が優雅な牝鹿になって野山を駆け巡るのを想像し、うっとりとしました。

 ところが、次のマジックハンドが頭をまさぐっているあたりから、リリィは違和感に気づきました。頭皮を指先でつまんだマジックハンドは、そのままぐい、ぐいとなにかを引き出しています。ああ、角なのね。……ちょっとまって、牝鹿って角、あったかしら? というかこの感触……絶対シカじゃない! 触られた感じから、リリィは角の形を類推します。根元が太くて、ぐいんと湾曲して、先がきりきりと尖っているこの形は…ウシの角じゃない! なに、わたし、ウシの役なの!?

 後ろ足にとりついたマジックハンドたちは、尻から足の先まで丹念にマッサージをして形をほぐしているようです。だけど、足の裏をぷにぷにとつままれているうちに肉球のような感触が生じてきたのをリリィは見逃し(感じ逃し)ませんでした。これではまるで、イヌかオオカミか、山猫のようです。どうやったのか、気づけばリリィのつま先立ちをしている後ろ足には、さわさわとした毛が生えていました。そのしっかりとした足取りに苦痛や不快さを感じることはありませんでしたが――リリィは確信します。この子たち、なんの打ち合わせもしていない! 全員が各々の好きな動物にしようとしているだけなんだわ!! そういえばマクガッドおじさんもなんの動物かわからない見た目をしていた。そんなんじゃあ、人間に嫌がられるはずよ!

「ねえあなたたち、一旦……」そこまで言いかけたリリィの口を、また別のマジックハンドが大きく鷲掴みにしました。そのままぐぐっと引っ張られると、リリィの口まわりは顎ごと伸びて、獣の鼻面のようになっていきます。あるマジックハンドは無作法に口に手を突っ込んだかと思うと舌をつまみ出し、あるマジックハンドは事もあろうにリリィの鼻の穴にぶっすりと指を突っ込んでひろげ始めました。これでは、話すことができるはずもありません。しかも、なんとか正面を見てみると、鼻面役と舌役と鼻の穴役でなにやらもめているようなのです。マジックハンドたちは顔を掴んだまま、あるいは指を入れたまま口論のように盛んに動くので、リリィは内側から顔の中を、口の中を、鼻の中をまさぐられ、くすぐったいやらむずがゆいやらで考えることもできませんでした。

 またあるマジックハンドは、リリィの耳を掴みました。しばらくの間は丁寧に耳をこねくり回し、シカかウシのような開いた筒の形に整えようとしていましたが……何を思ったのか、急に乱暴に耳の肉をひっつかんで伸ばし、ゾウの耳のようにしてしまいました。

 あるマジックハンドはリリィの首を掴み、伸ばそうと試みましたが、あまり首を触ったことがない個体だったのか、さわさわと撫ぜるばかりで一向に形作りに取り掛かりません。くすぐったさにリリィは悶絶し、ぐわんぐわんと首を振って抵抗します。マジックハンドの魔力が伝わっているため、柔らかさはいつもよりずいぶんと増していて、勢いづいて振り回されたリリィの首はまるでヘビのようにのたくってしまいました。

 あるマジックハンドはこともあろうに、筆や刷毛、絵の具のようなものを持ち出していました。黒い絵の具でマジックハンドがすっとリリィの背中に線を引くと、それはそのまま毛皮の模様になっていきます。調子づいたマジックハンドは次々と線を引き、リリィの身体には派手な虎縞ができあがりつつありました。

 胸にとりついたマジックハンドは、さっきから胸を押し込んだり、掴んだりを繰り返したりしています。リリィの成長し始めたばかりの乳房の大きさを考えているうちに、適切な大きさがわからなくなったようでした。胸を移動させてみたり、なくしてみたり、別の場所をつまんで新しい乳房を作ってみたり、一言で言えば迷走しています。失敗するたびに新しい肉を重ねて修正するので、リリィの胴体はじわじわと太くなっていっていました。

 顔のマジックハンドたちは、まだ口論(手論?)しているようでした。誰かが鼻をすらっと伸ばせば誰かがそれを手のひらで押しつぶして豚の鼻にし、誰かが舌を伸ばせば誰かが対抗して鼻もゾウのように限界まで伸ばし、誰かが丹念に牙の形を整えたら誰かが嫌がらせにロバの鼻を作って妨害をします。こうなったらもう、どうしようもありません。

 最終的なリリィの姿は――ご想像におまかせします。どうせ、想像したところでお互いにエスカレートしたマジックハンドたちが、すぐに形を変えてしまうんですから、意味のないことです。しかしリリィは動物ごっこに付き合ってあげようと、なんとかしてそれっぽい動物の真似をし続けました。意地っ張りなのです。リリィはもはや意地だけで自我を保っていました。

「パオッ、モオ――ヒヒィィン、ワンッ、オォーウッフゴッ、ブヒ、フゴッ、ピュキーッ、チィ、チィアアアアアーッ!!!  ふざけんなお前らぁぁぁ―――っ!!!」

 最終的にマジックハンドたちとリリィの戯れは、リリィが本気で怒ることでなんとか収束しました。どうなったのかも、まあ、ご想像におまかせします。


 くたくたになって家に帰ったリリィは、きっとおばあちゃんを見据えて言いました。

「おばあちゃん、わたし、マジックハンド見かけても近付いたりしない」

「そ、そうかい」


 このあとリリィは、懐いたマジックハンドたちにしばらく追い回されることになるのだけど、それはまた別のお話。


おしまい。

[小説]マジックハンドの群れだ!

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