目についた単語でとりあえず小咄をするコーナー(随時更新)
Added 2024-02-20 01:07:52 +0000 UTCお題:同窓会
久しぶりに会った旧友がどう見ても人間じゃない姿になっていた。
なんだかでかい、マスコットのような姿だ。
着ぐるみが全体としての印象は変わらないまま生物になったらこんな感じだろう。
見違えるってそういうことじゃないだろ。
見違えすぎて逆にツッコめないのか、他の同窓生は無邪気にそいつの身体つきや変わりっぷりを褒めている。なんなんだ? 実は私が知らないだけで、そういう多様性が一般的になってきてるんだろうか。
…と思ったが、話を聞いてみるとどうやら違うらしい。
二次会が終わり、少人数のグループ同士で三次会に行くかとなったとき、そいつが声をかけてきた。
そいつが言うには、久しぶりの同窓会で悪い意味で変わったねと言われたり腫れ物のように触れられたりするのが怖く、魔女に薬を頼んだらしい。
魔女って現代にもいるんだ。
魔女曰く、まるでマスコットやアイドルのようにちやほやしてもらえる代わりに、人間でなくなってしまう薬なんだそうだ。
えっ? 代償大きすぎない?
当然のように発した私の疑問には「ああ、効果は一日で切れるから大丈夫」と返してきた。魔女の発言が信用に値するのかどうかは私の知るところではないが、まあ、本人がそう言ったのならそれ以上触れまい。
私に声をかけたのは、どうも私にだけ魔法の効きが弱いらしいことを察したからとのことで、確かにあの状態で誰にもツッコまれないのは却ってストレスだろうと私は日本酒を呷る。
酔った勢いで、その話だと結局ただ便利な薬なだけのように思えるが、もっと面白いデメリットはないのかと尋ねてみる。
そいつはこれから来る、戻るとき、と答えた。
戻るときに死ぬほどの激痛でも走るのかと思ったらどうもそうでもなく、単に変身してたときの自分のかわいこぶりっこやちやほやされた記憶が一斉に恥ずかしい思い出としてフラッシュバックするらしい。魔女の薬の癖にささやかすぎるだろ、おい。
でも見てみたい。
私は薬が切れる瞬間までそばにいることに決めた。
そわそわし過ぎて朝の5時から変身していたようなので、始発まで粘ればいい。
私は酔ってテンションが上がったフリをしてそいつをとにかく連れ回した。
そしていま、空は白み、わずかながらの街の喧騒が首をもたげはじめている。
やることもなくなった私たちは公園に佇んで人懐こい猫を相手に時間を潰していた。
時計を見る。4時55分。さあ、いよいよだ。
…。
……。
………。
ん?
戻らない。
戻らないね、と私たちは言い合った。
今日は平日だ。私は割とどうでもいいけど、その姿だと業種によっては困るんじゃないかな、とぼんやり思った。
「愚かだねえ」
だしぬけに猫が喋りだした。
びっくりはしたが、すでに巨大な喋る動物のようなものと半日ぐらい遊んでいたのだ。相対評価ではそんなハイレベル怪異ではないだろうと考え、そのまま耳を傾ける。
「お前に薬を渡したときに言ったはずだよ」どうやらこの猫は魔女ないし魔女の使い魔らしい。「その姿でいるときに獣に触れてはいけないってねえ」猫はひひひと笑って、どこかへ跳び去ってしまった。
「あっ」そいつがすっとんきょうな声を上げる。
「そういえば言ってた。変身してる間は動物に触っちゃいけないって。そうしたら…」
おっ、ついにすごいデメリットが来るのか? しかも結構魔女っぽいじゃん。わくわく。
「…そうしたら…」そいつがなんだかもじもじし始めた。「…んにゃ…」
んにゃ?
「…にゃ…一日変身が延長されて、人前で猫ぶりっこを強制的にしてしまうって…にゃあ~」
そいつは目の前で仰向けになってくねくねし始めた。
「…そう…」
「まっ、待って、恥ずかしいにゃ…」
弱々しい声を背中に浴びながら私は思った。現代の魔女ってコンプラが厳しいのかなあ。