小説 【入れ替わり・上司】⑦
Added 2025-08-03 08:24:00 +0000 UTC-目次- ・19.つまずきの先に ・20.運転席の視線、助手席の後悔 ・21.もう少し、他人として 19.つまずきの先に 「遠いところをようこそ、ようこそ。暑い中、ご足労いただきまして」 取引先の会社の応接スペースには、既に社長・副社長・専務の中年男性三名が揃っていた。 全員がいかにも地方のものづくりを担う現場人――肩幅が広く、声も通る。 紗英(精神は翔也)は、その場の空気に一層緊張していた。 「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。高垣が本日、担当として参りました。そして、こちらが……」 一瞬、言葉を詰まらせる。だがすぐに翔也(精神は紗英)が話して持ち直す。 「……村田翔也です。本日は同行させていただいております」 にこやかに頭を下げた“翔也の体”が、軽く爽やかに元気よく挨拶をする。 もちろん中身は紗英。いつもの翔也より少し柔らかい印象だったが、それでも堂々としているが、もちろん先方の三名はいつもの翔也を知らない。 挨拶が終わると、工場の方をご案内します、と社長が立ち上がった。 副社長と専務も後に続き、全員が腰を上げる。 紗英(精神は翔也)も立ち上がろうとした、そのとき―― 「っ……!」 慣れないパンプスの角度、緊張で少し汗ばんだストッキングの滑り、 そして立ち上がるタイミングのズレが重なって、バランスを崩した。 ガタン、と椅子が動き、 紗英(精神は翔也)は、尻餅を付き床へ倒れてしまった。 しかも、スーツのスカートが捲れ上がり、紫色のパンティが四人の男性の目に晒されてしまった…♡ 「きゃっ……!?」 幸い手をついてケガはしなかったものの、派手に転んだことには変わりない。 場が一瞬、静まり返った。 「大丈夫ですか?」 真っ先に駆け寄ってきたのは、翔也(精神は紗英)だった。 翔也(精神は紗英)とっさに手を差し出しながら、小声で言った。 「焦らないで、ゆっくり。ほら、スカート……整えて」 「あ、はい……すみません……」 紗英(精神は翔也)も小声で謝り、は急いで身なりを直し、立ち上がる。 顔が赤くなるのを感じながら、周囲に頭を下げた。 「失礼しました。少し足を滑らせてしまって……」 社長たちは気を悪くした様子もなく、むしろ笑顔でニヤついて言葉をかけてくれた。 男性社員ばかりの会社の中、客人の美人女性のパンティを見た社長と副社長、専務はニヤついた表情を隠さずに嬉しそうであった…♡。 「いやいや、大丈夫ですよ♡うちの工場内も段差がありますから、気をつけてくださいね♡」 社長は鼻の下を伸ばし、いつものシャキッとした雰囲気とは違う、初々しい仕草の高垣に、ニヤつきながら微笑みかけた。 社長は高垣が前回来た時と少し雰囲気が違うことに気づいたが、特に怪しむこともなかった。 「ありがとうございます……」 紗英(精神は翔也)はこくこくと頭を下げ、隣に立つ“翔也(精神は紗英)”と目が合う。 彼女は少し口角を上げて、軽くウインクをしてみせた。 翔也(精神は紗英)は自分のあられもない下着を中年男性三名に見られたことに心から恥ずかしがっていた。 しかし、その笑みには、少しの照れや恥ずかしそうな雰囲気もあった、そしてどこか“親心”のような感情も混ざっていた。 二人はは再び歩き出す。 アクシデントはあった。 けれど、二人のなかにはすでに、どちらかが失敗してももう一方が支えるという暗黙の連携が生まれつつあった。 20.運転席の視線、助手席の後悔 「……ふぅ。無事終わったね」 新幹線の発車時刻に間に合うよう、二人は工場からレンタカーで駅に向かっていた。 運転席でハンドルを握るのは、翔也(精神は紗英)であった。 助手席には、紗英(精神は翔也)が、やや背筋を丸めて座っていた。 窓の外には、郊外の風景が流れていく。 午後の日差しが、車内に斜めに差し込んでいた。 しばらく沈黙が続いたのち―― 「……さっきの、転んだやつだけど…」 ハンドルに視線を落としたまま、翔也(精神は紗英)が恥ずかしそうに頬を染めながらぽつりと口を開いた。 紗英(精神は翔也)はびくりと背筋を伸ばした。 「……はい。申し訳ありませんでした…」 「いや、もう済んだことだし怒ってるわけじゃないけど……」 一呼吸置いて、翔也(精神は紗英)は少し言いにくそうに続けた。 「……スカート、思いっきりめくれてたよ。下着、まる見えだったのよ…」 「……っ!?」 紗英(精神は翔也)は緊張で気づいていなかった。 紗英(精神は翔也)は顔を真っ赤にして、無意識にスカートの裾を押さえた。 「す、すみません……本当……ですか……!?」 「うん……昨日手渡した、紫色のショーツでしょ…」 運転席の紗英は、恥ずかしそうに気まずそうに笑う。 「社長も副社長も専務も、揃いも揃って鼻の下伸ばしてたよの。ほんと男って最低よ…もう……私の体なんだからね? 下着、見られたの…しかも、生娘みたいに「きゃっ!?」なんか言ってたし…とても恥ずかしかったんだから…」 「うぅ……ごめんなさい……本当に……」 紗英(精神は翔也)は思わず顔を両手で覆った。 さっきのことが、ぶわっと脳内にフラッシュバックしてくる。 慣れないパンプス、緊張、男性からの視線――全部、女性の体に入ったからこそ味わった羞恥だった。 「……そんなに落ち込まなくていいよ。ああいうのって、たぶん若い女の子って誰でも一回はやるし…それより、いつも私と話す時より、社長達なんか嬉しそうだった。…私の体に入ってる村田くんが初々しかったからかしら…」 「高垣係長の体で、新卒の女の子みたいな反応してしまってごめんなさい…」 「……ふふ。村田くん、ちゃんと“私の体”って意識してるのね、全然良いのよ…。体はおばさんだけど、私が入社した手の新入社員の女の子だった時みたいだったわ…」 その言い方が少しおかしくて、紗英(精神は翔也)は肩を揺らすように笑った。 「村田くん…男の子だけど、案外女の子の方があってるのかもしれないわね…私のその体と、村田くんのこの体、交換してあげよっか…?」 「……うぅ…からかわないでください…僕はやっぱり、僕の体が良いです…」 「でも、いい経験になってるでしょ?」 その言葉に、紗英(精神は翔也)は少し黙ったあと、静かにうなずいた。 「……はい。確かに、思ってた以上に色んなことが見えてきたというか……」 「そう。それでいいのよ」 翔也(精神は紗英)は交差点でウィンカーを出しながら、ちらりと助手席を見た。 「少しずつ、ちゃんと“他人の人生”に敬意が持ててる。そういうの、大事にできるのって素敵よ」 「……はい」 車内に静かな音楽が流れる。 そのなかで、紗英(精神は翔也)は窓の外に目を向けた。 この一日が、二人にとってただの「好奇心」から始まった体験だったこと。 それが、どんどん重みを持って変化してきていること。 心のどこかに、その実感が、しっかりと根を下ろし始めていた。 21.もう少し、他人として 新幹線の発車時刻が迫る中、二人は無言でホームに立っていた。 視線は自然と腕時計に吸い寄せられる。 (……おかしいな、もうすぐ8時間経つはずなのに) 紗英(精神は翔也)は、気が気ではなかった。 指先に力が入り、スーツの袖を少し引き上げて時刻を確認する。 午前10時を少し過ぎたところ――本来なら、そろそろ体が元に戻る時間のはずだった。 なのに、何も起きない。 (……まさか、一生このまま…?) そんな不安が脳裏をかすめたとき―― 「ねえ、ちょっと……これ、見て…」 小さな声でそう言って、翔也(精神は紗英)が女性用のハンドバッグの中から錠剤の説明書を取り出した。 取引先から帰る時に、再度お互いのカバンもサイフも交換しており、今はお互いのカバンを持っているため、少し違和感がある見た目である。 「あれ? え、えっ……?」 その手元を覗き込んだ紗英(精神は翔也)は、説明書に書かれた小さな文字に目を凝らす。 《効果時間:服用後24時間有効(※赤ラベル箱仕様)》 「……は?」 唖然とした紗英(精神は翔也)の横で、翔也(精神は紗英)は、ちょっとバツが悪そうに笑った。 「ごめん。見間違えたかも。いつもたまに娘と使う時は青ラベルの箱の方だったんだけど……今回は間違えて赤い箱の方、飲んじゃってたみたい…」 「24時間……!? いや、いやいやいやいや……!」 慌てて説明書を取り上げ、何度も読み返す紗英(精神は翔也)。 だが、どこをどう見ても「8時間」とは書かれていない。 赤いラインの入った錠剤箱のイラストが、冷たくそこに描かれていた。 「ちょ、ちょっと……じゃあ今日一日、もう少しだけ…このまま……?」 「そうなるわね」 「そんな、……!?」 紗英(精神は翔也)は反射的に叫んだ。 目の前には、自分の体をして、落ち着いた顔で微笑む“高垣係長”――紗英がいる。 紗英(精神は翔也)は元に戻れると思っていたのに、翔也(精神は紗英)の勘違いと、思いつきでこんな状況になってることに少しイラついてしまった…。 そのため、目上の上司ということも忘れて、とんでも無いことを口にしてしまった…。 「高垣係長は良いですよね…だって、若い体になってるんですから…僕なんておばさんの体ですよ!?体力も無いし、トイレも近いし…!!」 新幹線のホームで急に叫び出した、中年に差し掛かる女性の姿に周りはざわついた…。しかし、翔也(精神は紗英)もその言葉を聞いて、少し腹が立ち言い返してしまった。 「誰がおばさんよ…私はまだ38歳ですけど…!?村田くんって私のこと、そんな風に思ってたんだ…!?でも、村田くんって仕事もできないし、そっちのおばさんの体の方がお似合いよ!?昨日の夜も私の体でベッドで変なことしてるの知ってるんだから、生娘みたいな媚声まで上げて…!!本当男の子って性欲猿よね…私の体、弄くり回して…本当に気持悪い!!」 紗英(精神は翔也)は昨日の自慰行為を見られていたことに、少し動揺して顔が赤くなった…しかし、紗英(精神は翔也)もあることに気がついていたのだ…実は、翔也(精神は紗英)も昨日は自慰行為をしており、お互い様に気がついていないふりをしていたのだった…。 「だ!?誰が猿ですか!?高垣係長も昨日僕の体で何回もシコってましたよね…!!今は高垣係長の方が猿みたいですよ!本当に男の子って不潔だわ〜ん♡おばさんのこと想像してシコシコして気持ちよかった〜?♡なんなら、おばさんが気持ちよくしてあげよっかぁ?♡この、お・っ・ぱ・い・で♡♡♡」 紗英(精神は翔也)は挑発するように、わざとらしい女口調で煽った。しかも、公共の場であるにもかかわらず自分のおっぱいを出して乳首を見せつけるように揉んで見せた…。 「な、やめてよっ!!私は猿じゃ無いわよ!!ていうか、公共の場で私のおっぱいを揉まないで!!って、きゃっ!!なによこれ…!?」 翔也(精神は紗英)は元の自分がおっぱいを揉む行為を見せつけてきたため、陰茎が勃起してきていた…。その、たじろいだ様子は猿のようであった…。 「ちょ!?ちょっと、高垣係長!!僕の体で公共の場で勃起しないでくださいよ!!うぅ…僕の方がおばさんに興奮して勃起したみたいになってるじゃ無いですか…!?」 その時、二人に駅員が声をかけた…。 「お客様…周りのお客様にご迷惑がかかりますので…お早めにお乗りいただいてもよろしいでしょうか…」 二人は駅員さんに謝り、周りに人だかりができていたこに気がついた…。 逃げるように新幹線に乗り込み、指定の座席へと向かった。 紗英(精神は翔也)は、深いため息をついた。 心の奥底に、少しだけ不安が渦巻いていた。 だが――それでも、昨日は彼女が悪意でやったことではないのはわかっていた。 (仕方ない……もう少し、高垣係長の女の体のままか……) 翔也と紗英――体を貸し借りしあったままの二人は、静かに指定席に座る。 再び東京へと戻る車窓の旅が始まった。 窓の外に広がる景色は、来た時と同じはずなのに、 どこか違って見えた――身体の重さも、心の重さも、ほんの少しずつ変わっていたからだ。 さっきの出来事をお互いに謝って許し合ったが、それでも二人はお互い気まずそうに、目を逸らしながらスマートフォンを見ていた。 -続く-