小説 【入れ替わり・日常2】③
Added 2025-09-06 13:08:33 +0000 UTC-目次- ・7.電車 ・8.受付 ・9.診察室 7.電車 最寄駅に着くと、二人は千夏のベビーカーを押しながらホームに立った。休日の午前中、混雑はしていないが、適度に人の目がある。 電車に乗り込むと、唯(精神は義文)は吊革につかまりながらワンピースの裾を意識していた。下着をつけていない――その事実が頭から離れない。座れば布一枚を隔ててむき出しの秘部がシートに触れてしまう。立っていても、ちょっとした風で裾が揺れるたびに生肌に空気が流れ込む感覚がある。 「はぁはぁ…♡」 口元を歪めて頬を赤らめる。 一方、義文(精神は唯)は、冷や汗をかきながら何度も周囲を見回していた。 「お願いだから、大人しくしててよ……誰か知り合いに会って、履いてないことバレたら私が変態って思われるんだからね…」 必死の小声も、隣の唯(精神は義文)には届いていない。 すると、ふいに小さな声がした。 「ねぇ、おばさん…」 視線を下げると、五歳くらいの男の子が、好奇心いっぱいにワンピースの裾を覗き込んでいた。 「あれ?なんでパンツ履いてないの?」 時間が止まったかのように空気が凍りつく。 「なっ……!?」 義文(精神は唯)は顔を真っ赤にして声を上げそうになったが、幸いにもすぐにその子の母親が駆け寄ってきた。 「こらっ!何、他の人のスカートの中見てるの!?」 その子の母親は慌てて男の子の手を引き、ぺこぺこと心から申し訳なさそうに謝りながら別の車両の奥へ連れて行った。 周囲の乗客の何人かが、今のやりとりを怪訝そうに一瞥してから、気まずげに視線を逸らした。 「やだぁ♡子どもにバレちゃった…♡」 唯(精神は義文)はニヤつきながら耳打ちした。 「うぅ…恥ずかしすぎて死にそう……」 義文(精神は唯)は震える声で答え、汗ばんだ掌で額を覆った。 電車の揺れと共に、羞恥とスリルの濃度はますます高まっていった――。 8.受付 電車を降り、ベビーカーを押して十分ほど歩いた先に、目的の産婦人科クリニックが入るビルが見えてきた。白を基調にした清潔感のある建物。日曜の午前ということもあり、待合室には小さな子を連れた母親や若い女性がちらほら座っていた。 自動ドアを抜けると、受付の前に立つ。 「す、すみません…」 義文(精神は唯)は、すでに顔が恥ずかしそうだった。ここ最近は旦那の付き添いも増えたと聞くが、男性が産婦人科に来ているのは少し珍しい。しかも、自分が説明しなくてはならない。 「初めての受診でしょうか?」 受付の女性がにこやかに声をかけてきた。 「え、ええと……あの……」 義文(精神は唯)視線を泳がせながら言葉を探す。どう説明すればいいのか。まさか「私たち、体が入れ替わっていて、実はそっちの体が女で……」なんて言えるはずもない。 「緊急避妊薬を、お願いします……」 消え入りそうな声で告げた。 受付の女性の目が一瞬だけ見開かれ、すぐに柔らかな表情に戻る。 「……失礼ですが、患者さまご本人ですか?」 その瞬間、義文(精神は唯)は耳まで真っ赤に染まった。横に立つ唯(精神は義文)がニヤリと笑みを浮かべる。 「アタシが本人です…♡夫が興奮して中に出しちゃって…♡もう…いつも避妊してって言ってるのに…♡」 まるで女を楽しむように、唯(精神は義文)が代わりに答える。声も仕草もやけに女性らしく、受付から見れば自然に「妻」にしか映らない。 「ちょ、ちょっと!?なんであんたが答えるのよ!」 義文(精神は唯)が慌てて小声で抗議する。 「なんでって…?♡アタシの体を、診てもらいに来たんだから…♡」 唯(精神は義文)は嬉々として髪を耳にかけ、胸を張る仕草をした。 受付の女性はカルテ用のタブレットを差し出し、 「では、こちらにお名前とご生年月日をお願いします」 と淡々と続ける。 ペンを手に取った唯(精神は義文)は、するりと「美甘唯」と記入した。その筆跡までも自分のもののように滑らかで、横で見ている義文(精神は唯)はますます居心地の悪さに襲われた。 「……なんで私の名前そんなにすらすら書けるのよ……」 「うふっ♡何言ってるのよ?♡アタシの名前なんだから…書けて当然でしょ?♡」 唯(精神は義文)は優越感に浸りながら、椅子に腰掛けて待合室を見渡した。 周囲の視線も自然と「若い母親」に集まっているように感じる。 唯(精神は義文)はその視線すらも甘美に受け止め、胸の奥で密やかに笑みを深めていた。 9.診察室 「美甘様、美甘唯様」 名前を呼ばれ、唯(精神は義文)と、義文(精神は唯)、それにベビーカーに座る千夏は、診察室へと足を踏み入れた。 部屋の中には中年の男性医師と、横に立つ若い女性看護師が待っていた。 「どうぞおかけください」 看護師の優しな声に促され、唯(精神は義文)はにやにや笑みを浮かべながら椅子に腰を下ろす。義文(精神は唯)もその隣で座り、落ち着かない様子で背筋を伸ばし、千夏を抱き上げていた。 「それで今日は、どうされましたか?」 中年の男性医師がまっすぐに視線を向ける。 唯(精神は義文)は、女としての声でわざと恥ずかしげに笑みを浮かべながら、堂々と答えた。 「昨日……避妊せずに性行為をしてしまって♡不安なので、緊急避妊薬をお願いしたくて♡旦那ったら…中で出さないでって言ってるのに、大量に中で出しちゃって…♡」 その言葉に、若い女性看護師の表情が一瞬だけ固まり、すぐに事務的な微笑に戻る。 中年の男性医師も一瞬表情が綻んだが静かに頷き、カルテに記録を取りながら言った。 「なるほど。薬を処方することは可能ですが……念のため、子宮や卵巣の状態に異常がないか診ておきましょう。よろしいですか?」 唯(精神は義文)は、待ってましたとばかりに大げさに頷き、さらに唇の端を上げてみせた。 「お願いします……♡アタシ、内心って初めてでドキドキします…♡先生ぇ…優しく診てくださいね…♡」 隣で聞いていた義文(精神は唯)は、顔を赤くして俯く。 「ちょ、ちょっと……!なんでそんな変なこと言うのよ……!」 男の声で絞り出すように抗議するが、中年の男性医師も若い女性看護師も「夫の立場の発言」と誤解して受け止め、特に気に留めない。 「それでは、美甘さん。こちらへどうぞ」 中年の男性医師はカーテンの奥にある内診室を指し示した。そこには婦人科特有の内診台が準備されている。 唯(精神は義文)は胸を高鳴らせながら立ち上がり、女性らしい仕草でスカートを押さえつつ歩き出す。その後ろ姿を、義文(精神は唯)は顔を真っ赤にして睨みつけるしかなかった。 「お願いだから……私の体で変なことしないでよ……」 だが、唯(精神は義文)は振り返りもせず、ニヤニヤと嬉しそうにカーテンの向こうへと消えていった。 -続く-