小説 【入れ替わり・日常2】⑩
Added 2025-09-07 06:59:40 +0000 UTC-目次- ・28.借り物 ・29.歯磨き ・30.就寝前 28.借り物 浴室を出た義文(精神は唯)は、曇った鏡にもう一度自分の姿を映した。 濡れたタオルで体を拭き、手に取ったのは――唯(精神は義文)から渡された、男物のよれたボクサーパンツ。 「……これを、私が穿くなんて……」 ためらいながらも脚を通すと、女の体では決して味わえなかった布地の張り付き方が、いやらしく現実を突きつけてきた。 股間に押し込められる異物感。男の体でしか感じない収まりの悪さが、かえって女としての自分を遠ざけていく。 続けてパジャマのズボンを履き、シャツに腕を通す。丈も袖も余裕がなく、むしろこの体にぴったりと合っていることが、さらに屈辱だった。 「屈辱だわ…」 唇を噛みしめながら、着慣れない布に包まれた男の体を感じるたび、胸が苦しくなる。 深呼吸をしてリビングへ向かうと、そこにはソファに座る唯(精神は義文)がいた。 女の体でありながら、脚をだらしなく組み、わざとおっぱいを揺らしてニヤリと笑っている。 「おかえり~♡うふっ、どう?♡男の体、気に入った?♡」 甘い女口調でそう囁かれると、義文(精神は唯)の心臓が強く跳ねた。 「っ……やめてよ…気にいるわけないじゃ無い!」 必死に言い返すが、唯(精神は義文)はわざと身を乗り出してきて、女の唇を尖らせながら小悪魔のように囁いた。 「すっかり馴染んでるじゃない♡」 挑発に義文(精神は唯)の頬は赤く染まり、言葉が詰まる。 屈辱と苛立ち、そしてどうしようもない現実――それらすべてを煽るように、唯(精神は義文)の体で笑い続けた。 29.歯磨き 晩御飯は、冷蔵庫に残っていた惣菜や煮物と味噌汁で済ませた。 食卓を挟んで座る二人は、表向きは静かに箸を動かしていたが、空気の下では張り詰めた緊張が絡み合っていた。 食後、洗面所に並んで立つ。 唯(精神は義文)は、鏡越しに自分の顔を眺めてニヤリと笑い、ためらいもなく唯の歯ブラシを手に取った。 「ちょっと!それ……なんで私の歯ブラシ使うのよ!」 義文(精神は唯)が眉をひそめる。 すると、唯(精神は義文)は楽しそうにブラシを軽く口に当ててみせ、女口調でふざけながら答えた。 「だってぇ今は、体に合わせた歯ブラシを使うべきでしょ?♡アタシは唯なんだから…♡こっちのピンクの使うわね♡」 その言葉には、どうしようもなく優越感が滲んでいた。 義文(精神は唯)は、唇をきつく結び、視線を逸らすしかない。 仕方なく隣の歯ブラシスタンドから義文の青色の歯ブラシを取り、渋々口に運んだ。 「……こんなもの、使いたくないのに…」 胸の奥で小さく吐き出した声は、歯磨き粉の泡に紛れて消えていった。 鏡の中では、女の体をした唯(精神は義文)が楽しそうに口を動かし、泡を吐き出している。 その姿はどこか艶めかしく、屈辱と同時に、抗えない現実を突きつけてくるのだった。 30.就寝前 歯磨きを終え、並んで寝室に入る。 部屋には淡い照明が灯り、布団が二人を待ち受けていた。 唯(精神は義文)は、髪をかき上げながら寝室にある鏡越しに自分の顔をちらりと見つめ、うっとりと微笑む。 「ねぇ…アナタ♡……アタシ、せっかく女になれたんだし、エッチなことしたいなぁ♡」 その声音は甘ったるく、女の口調を真似ているのにいやらしさが滲んでいる。 ベッドの端に腰を下ろしていた義文(精神は唯)は、眉を吊り上げた。 「ダメよ。明日にはクリニックで元に戻れるんだから……エッチなことしないよ…」 言いながらも、自分が男の体をしていることに再び胸が詰まる。 「うふっ……♡そんなに嫌がらなくてもいいのに♡」 唯(精神は義文)は、パジャマの胸元をわざと緩めて、おっぱいの谷間をちらつかせる。 女の柔らかい体を得た優越感を隠そうともせず、布団の中で近くに潜り込んでくる。 義文(精神は唯)は顔を背け、布団をしっかりと引き寄せた。 「……もう寝よ…」 その声には、不安と苛立ち、そしてどこか諦めのような影が混ざっていた。 二人は同じ布団に入りながら、心の距離は決して近づかない。 明日の予約があることで安心はしている。 しかし、唯(精神は義文)の笑みは消えることなく、その夜も女である自分を満喫しているように見えた。 -続く-