小説 【入れ替わり・上司2】③
Added 2025-09-10 13:58:00 +0000 UTC-目次- ・7.味覚の変化 ・8.ほろ酔い ・9.刺激 7.味覚の変化 二人は翔也のマンションに到着した。 玄関を開けると、紗英(精神は翔也)は、まず靴を脱ぐ仕草にぎこちなさを覚えた。細い足首、華奢な足。片手で壁に触れながらパンプスを脱ぐとき、ふと胸の奥にくすぐったいような興奮が走る。 (女の体で……こうやって靴を脱ぐのって、なんか妙に色っぽいんだよな……♡) 立ち上がった彼は振り返り、翔也(精神は紗英)に軽く会釈した。 「どうぞ、はいってください」 案内されてリビングへ進むと、翔也(精神は紗英)は懐かしそうに室内を見渡し、 「この部屋に入るの、前に入れ替わったとき以来ね」 と微笑んだ。その表情は男の顔なのに、柔らかく女性らしい。翔也は胸の奥でまたざわつきを覚える。 ひと息ついたところで、自然と晩酌の流れになった。 「とりあえず飲みましょ。明日の話もしておきたいし」 翔也(精神は紗英)がそう言って、コンビニ袋から缶ビールやおつまみを出してリビングのテーブルにおいた、翔也(精神は紗英)はすぐに酎ハイの缶をプシュッと開けた。 紗英(精神は翔也)も袋からビールを取り出し、プルタブを引いた。 乾いた音とともに泡が口からこぼれる。 「じゃあ――乾杯」 二人はグラス代わりの缶を軽く合わせ、ひと口含んだ。 その瞬間、ふたりとも同じ反応を見せた。 「……あれ?」 「なんか、味が……?」 翔也(精神は紗英)は、いつもの酎ハイの甘みが妙に甘ったるく感じられて驚いた。 一方、紗英(精神は翔也)は、普段飲み慣れたビールがいつもより格段に苦くて違うものに思え、思わず舌を確かめるように唇を舐める。 「これ……お互い、体の味覚になってるんですね」 紗英(精神は翔也)はそう言って、少し頬を赤くした。自分の舌に広がる相手の味覚の感覚。それは単なる違和感以上に、妙な親密さを伴っていた。 やや興奮を隠せないまま、彼は提案する。 「……あの…もしよかったら、高垣係長の酎ハイと僕のビール交換してみません?」 翔也(精神は紗英)は少し笑いながら、 「いいわね。どんな味になるのか試してみましょう」 と頷き、缶を差し出した。 二人はお互いの飲んでいた缶を交換し、それぞれひと口。 「……え、ビールってこんなに飲みやすかった!?」 翔也(精神は紗英)は目を丸くした。苦味が和らぎ、どこか新鮮な風味が広がっている。 一方、紗英(精神は翔也)も頬をゆるめ、 「酎ハイ、いつもよりすっきりとした甘さで美味しい……。こんな味だったんだ」 と驚きを隠せなかった。 ふたりは思わず顔を見合わせ、笑い合った。 それは、ただ飲み物を交換しただけなのに、肉体を通じて感覚を分け合っているような、不思議で親密な体験だった。 8.ほろ酔い 枝豆をつまみ、口に入れたのは翔也(精神は紗英)だった。 「……まさか…これ…!」 普段なら好んで食べない枝豆の青臭さが、意外に爽やかに感じられる。ビールの後味と合わさって、妙に心地よい。 次にチーズを口にすると、少し眉をひそめた。 「……うっ…チーズ、こんなに臭かったかしら」 大好物のはずなのに、鼻に残る香りが強くて、ほんの少し辟易する。 一方で、紗英(精神は翔也)も枝豆を一粒食べてみる。 「……ん、なんかいつも違います…」 いつもなら酒のあてとして手放せないはずの枝豆が、舌の上で妙に青臭く広がって、美味しく感じられない。 ところがいつも香りが苦手なチーズを恐る恐る口にすると、思わず目を丸くした。 「……うまい……!?チーズってこんな美味しいんですか!?」 これまで苦手で避けてきたはずなのに、濃厚な香りが口いっぱいに広がり、ほんのり甘みすら感じる。 二人は目を合わせ、同時に小さく笑った。 「やっぱり、味覚まで入れ替わってるのね」 「……なんか、ちょっと変な感じしますね。体を通して相手の好みまで体験してるみたいで」 テーブルに並んだ缶と小皿、そして二人の吐息。 酔いも回って、少し頬が赤らんでいる。 「村田くん……あなたの体で飲んで食べてると、なんだか自分が男になったみたいで……落ち着かないのに、妙に気持ちいいのよ」 翔也(精神は紗英)が、低い男の声でそれを口にすると、妙な艶を帯びた響きになり、紗英(精神は翔也)の鼓膜をくすぐった。 「高垣係長……僕は逆に、こっちの女性の体でいると……全部が柔らかくて、女の人の感覚が伝わってきて……正直、ちょっと……ドキドキしてます」 言葉にしてしまうと、余計に意識してしまい、股の奥がむず痒くなるような感覚に襲われる。 ふたりの間に流れる空気は、酒の酔いとともにじわじわと熱を帯びていった。 普段は口にしない「異性としての違和感」を語ることで、その違和感自体が興奮へと変わっていくのだった。 9.刺激 その後二人は2本目の缶ビールを飲み終わる頃、居酒屋で飲んでいた分のアルコールも体に十分に浸透しており、お互いにだいぶ酔いも回っていた。 テーブルの上で空いた缶がひとつ転がる。 酔いが回り、二人の舌も、普段なら絶対に言わないことを自然に口にしはじめていた。 「……高垣係長」 紗英(精神は翔也)が、少し赤い顔で笑い、酔いも回っており、会社では言えないことを呟いた。 「正直に言うと……今、……股間に、何もついてないことにかなり興奮してるんです…♡」 自分の声が女の低めの柔らかさを帯びて響き、妙に艶っぽく聞こえる。 紗英(精神は翔也)は言葉を続けた。 「……なんか優越感っていうか……“女の体なんだ”って実感するたびに、変にゾクゾクしてしまって……」 翔也(精神は紗英)は、手にしていた缶をゆっくり置いて、ふっと息をもらした。 「……ふふ。村田くん、正直ね。わかるわ」 そう言いながら、彼女は脚を少し組み替える。 「私のほうは逆に……股間に、おちんちんが“ある”ってことが……妙に落ち着かないの。座ってても、立ってても、ずっとそこに異物がある感じで……」 その言葉に、紗英(精神は翔也)は息を呑んだ。 「……やっぱり、落ち着かないですか?」 「ええ。だって、私、三十八年間……股に何もないのが普通だったのに。今は……足の間にぶら下がってる重みを感じるたびに、“私は男なんだ”って突きつけられて……」 翔也(精神は紗英)の声音は低く、しかし妙に艶っぽく震えていた。 紗英(精神は翔也)の心臓が高鳴る。 「僕の体で、そんな風に感じてるんですね…♡…」 翔也(精神は紗英)は口角をわずかに上げ、囁いた。 「ええ。あなたの体……若くて元気だから、余計に存在感が強いのよ。歩くたびに揺れる感じがあって……女としては妙な違和感。でも……どこかで、興奮してる私もいるの」 紗英(精神は翔也)は思わず喉を鳴らした。 「……僕も……高垣係長の体で、お腹に“子宮がある”ってことに……どうしようもなくゾクゾクしてます♡しかも、お股になにもないからこそ、全部が敏感に思えて……」 二人の視線が絡み、呼吸が重なった。 ただ異性の体を語り合っているだけなのに、その会話自体が甘く湿った熱を帯び、互いの欲望を刺激していった。 -続く-